第二十話 霊能太郎とトライアスロン中編
「『行ってらっしゃい(どすぇ)(っです)』」
霊能と蘇我を見送ったさっちんとツキミ。ゴール地点では待っていようとは思うが、まだまだゴールまで時間がある。
ようするに、暇なのだ。
「これからどうするっですか?」
『そうどすねぇ・・・お腹もすいたし昼ごはんにするどすぇ』
第二十話 霊能太郎とトライアスロン中編
とりあえず昼ごはんにするとは言ったものの、特に当ても無く道をふらつく二人。しばらく歩いていると向かい側から見知った顔が歩いてくるのに気がついた。
『あ、店長はんどすぇ~』
「店長さんじゃないっですか!・・・あれ?解説は??」
『あら?根暗にデス娘じゃない。お久しぶりね』
『・・・根暗じゃないどすぇ・・・前髪が長いからって見た目で決めないで欲しいどすぇ・・・』
「デス娘じゃないっですよ・・・デス娘って・・・DEATH娘って・・・」
落ち込む二人。彼女らには店長の何気ない言葉が胸に突き刺さるようだ。ちなみにくっちーはもう慣れたという。
『腹が空いては解説はできないのよ。その程度理解しなさい』
『じゃ、じゃあ一緒にご飯食べるどすぇ!』
「そうっですよ、一緒に食べましょうっです!」
『・・・まぁ構わないわ。そこのファミレスでいいわね?』
こうしてふと目にはいったファミレスに入っていく三人。すんなりOKを出す店長はなんだかんだでやさしいところもあるのだ。店内に入り、禁煙席に移動する。
『注文は決まった?』
『むむむ・・・迷うどすぇ・・・!』
「ハンバーグ定食っですか・・・それともエビフライ・・・」
「ご注文はお決まりになりましたでしょうか?」
『海鮮丼を一つ、お子様ランチを二つお願いするわ』
「かしこまりました」
『どどどどすぇ!?勝手に決めないで欲しいどすぇ!!?』
「ちょちょちょ!?あたしもお子様ランチっですか!!?」
『あんたたちにはそれで十分よ、旗でも集めてなさい』
『・・・まぁ私はお子様ランチでもいいどすぇ』
「あたしはあんまりよくないっですよ!?これでも高校生っです!!」
『そのうるさい所がお子様なのよ』
「酷いっです!?」
注文も決まり、席で談笑する三人。女三人よれば姦しいとはよく言ったもので、話はとても盛り上がった。
「へいへい姉ちゃんたちよぉ?俺たちとちょっとお茶しない?」
だがその盛り上がりを邪魔するチンピラが現れた。誰にそんな口を聞いているのか本人たちは分かっていないのだろう。今すぐに逃げるべきなのに、チンピラたちはさらに声をかける。
「いいじゃねぇか一緒にイイコトしようぜぇ?ムフフフフ」
『は、離して欲しいどすぇ!やめるどすぇ!!』
しかもよりにもよって地雷を踏み抜いてしまったチンピラ。さっちんに手を出すのはまさに自殺と言っても過言ではない。
『ふむ、お客様?ご注文の品をお持ちしました』
と、そこへ店のウェイターらしき人物が料理を持って現れる。どこかで聞いたことのある紳士的な声だ。
「アァ!?うっせぇな黙ってろ!!」
『ではこちら、紳士のアツアツグラタンでございますッ!!!』
グシャ!!
グラタンが飛び散る音が響く。
ウェイターの持っていた熱いグラタンがチンピラの顔にジャストミート。グァァァァとかなんとか悲鳴をあげて転げまわるチンピラ。
『あら?なかなかやるじゃない。ウェイターとしては合格点ね』
『ありがとうございます。ではお客様・・・店の裏側へご案内しましょう』
そのままズルズルと引きづられて行くチンピラたち。
彼らの失敗は何処だったのだろう。
さっちんに声をかけたのが間違いだったのか?
さっちんに声をかけたがゆえに、不可能を可能にする男を召還してしまった。
ならばツキミに声をかけるべきだったのか?
ツキミに声をかけたが最後、出家した兄が俗世に戻ってくる可能性があるので、どのみちチンピラに未来は無かっただろう。
では店長に声をかけるべき?
馬鹿なことを言ってはいけない。それこそなごやかなファミレスに特大の氷像ができることは間違いないだろう。
ようするにチンピラは彼女らに声をかけた時点で・・・人生を捨ててしまったのである。
まぁ自業自得なのでしかたがない。
『『「ごちそうさま(どすぇ)(っです)(よ)」』』
『じゃあ私は解説に戻るわね、また会いましょう』
『バイバイどすぇ~』
「また会いましょうっです!」
こうして店長は去っていった。
さりげなく二人の分も勘定をしてくれたあたり大人である。残された二人はこれからどうするかを考え、暇なのでとりあえずアクセサリーショップへ向かうことにした・・・。
◇
「趣味の悪いアクセサリーだな・・・」
トライアスロンの一つ目の競技である水泳を終えた二人は、二つ目の競技である自転車に乗り込んだ。この競技で使用される自転車は個人のものではなく、大会で支給されるので改造自転車に乗るなどの反則は出来ないようになっているのである。
だが霊能は支給された自転車に不満があるようだ。
「なんで自転車に宝石がやたらついてんだよ!!ブルジョワアピールか!!」
そう、霊能に支給された自転車には大量の宝石がついているのである。ぶっちゃけかなり悪趣味だ。
『宝石ならまだいいだろ・・・』
こちらでは蘇我も落ち込んでいる。
彼の自転車にはぱっと見たところ変なものはついていない。
一体どうしたというのだろうか?
『この歳で・・・補助輪はキツイ・・・ッ!』
訂正、変なものついてた。なかなか微妙な嫌がらせである。
「まぁこの際見た目はどうでもいいや!急ぐぞ蘇我!!」
『・・・そうだな、行こうか!!』
見た目や補助輪のことを忘れる意味もこめてスピードを上げどんどん抜いていく二人。
と、そこへアナウンスが入った。
[えー・・・よく聞きなさい、ルール変更よ。実況の校長が暴走したわ。ついさっき走っていったから校長に抜かれた人はその場で失格よ。・・・せいぜいがんばりなさい]
「抜かれたら失格か・・・」
『大丈夫でしょ、スタートの時間が違いすぎるし絶対追いつかれないよ』
「蘇我・・世の中ではそれをフラグと言うんだ・・・」
[今やたら腕が太い人が失格になったわ]
「『豪腕の中松ゥゥゥ!!!』」
[・・・水面をムーンウォークで進むなんてふざけてるのかしら?]
「ムーンウォークで!!?」
『校長・・・これはまずいね・・・』
「おう、急ごう・・・!」
『ヘイヘイヘイヘイ!!お前ら遅いんじゃねぇーの!?失格になっちまうぜぇ!?』
その時、隣から声がかけられた。
どこかで・・・そう、地獄で聞いたことのある声だ。
「お・・お前は・・・」
『まさか・・・』
『そう!!そのまさかだぜ!!』
「『山田 竜!!』」
『本名で呼ばないでぇぇぇぇ!!!マウンテン!マウンテン龍と!そう呼んでくれよ!!』
『落ち着け山田よ』
『ロックゥゥゥゥ!!マウンテンね?身内の裏切りは俺の心に大ダメージだよ!?』
『っく・・・霊能、悔しいけどこいつらなかなか速いよ・・・ッ』
「そうだな・・・でもなんかせこくないか?」
『ああ、確かにせこい』
何がせこいのかって?そう!マウンテン龍とロックは二人乗りをしているのだ!!
ロックが漕いで、マウンテンが荷台に乗っている。
「楽しやがって・・・」
『うるせぇうるせぇ!!勝てばいいんだよ勝てば!!俺たち二人は最強だぜ!!』
そんな話をしていると、アナウンスが入った。
[今校長が海を抜けたわ、失格者多すぎよ。失格するくらいなら初めから出なければいいのに]
「『『速えぇぇぇぇ!!!』』」
『む、やるな・・・』
『不味いぞ霊能!!このペースじゃ抜かれる!!』『不味いぜロック!!このペースじゃ抜かれる!!』
『『ん?』』
『・・・オイ山田、二人乗りはせこいんじゃねーの?』
『あ?うっせーな幽霊、てめぇが帝鬼さんに勝ったなんて認めねーぞ』
『幽霊じゃない蘇我だ、確かに帝鬼さんにはアレで勝った気にはならないけど・・・』
『山田じゃねぇマウンテン龍だ、なんだ認めてんじゃねぇか負けをよぉ?この雑魚』
『マウンテンには言われたくないね、雑ー魚』
『ハッ!俺は最強だっての雑ーー魚』
『何がお腹痛い~だ雑魚、少なくともお前には負ける気がしないよ雑ーーー魚』
『言ってくれるじゃねぇか蘇我ぁ!俺だってお前には負けねぇよ雑ーーーー魚』
『雑ーーーーー魚!』
『雑ーーーーーー魚!!』
「『お前らうるさい』」
『『すいませんでしたっ!!』』
似たもの同士である。
少々盛り上がってきた所、またもやアナウンスがかかる。
[現時点でほとんどの参加者が失格になったわ。校長も暴走しすぎた事に気がついて自重し始めたみたいよ。残った人たちは幸運ね]
『僕らの後ろはほとんど失格かな・・・?』
「そうだな、一応俺たちかなり先頭に近い場所にいるからな・・・」
『なんにせよ自重してくれるならありがたいぜ!!ロック!今のうちに先頭を抜くぜ!』
[自重してくれたのはいいけど・・・すでに残った参加者は一一人よ。校長死なないかしら。]
『一一人!!?・・・僕らはかなり幸運だったのかもしれないね・・・』
「まぁ俺たちが先頭になれば関係ないさ!行くぞ蘇我!!」
『おう!!霊能!!』
『ロック!!俺たちも負けてられないぜ!!行くぜぇ!!』
『む!!』
こうしてレースは続いていく、かなりの距離をすでに自転車で走ったのでもうマラソンも遠くは無いだろう。まだまだトライアスロンは続く。