第十九話 霊能太郎とトライアスロン前編
「すっげー人がたくさんいるなぁー」
『全国から猛者が集まってきているってのも嘘じゃなさそうだね』
今彼らが居る場所、それは町内トライアスロン大会スタート地点付近である。彼らはこの大会に出場するため、ここでスタートの合図を待っているのである。
『霊能、絶対優勝するよ?』
「当然っ!」
第十九話 霊能太郎とトライアスロン前編
「はい、霊能さん。これゴン兄から渡された腕輪っです」
そう言って渡された腕輪を身につける霊能。
その直後に、ずしりとくる感覚。
「うお・・・、なんか体が重く感じるぜ・・・」
そう、今ツキミから渡された腕輪はゴンザレス特製の腕輪であり、霊能のぶっ飛んだ身体能力を一時的に下げる効能を持っている。まぁ霊能が外そうと思えば外れるのだが。この腕輪のおかげで霊能の身体能力はまだ常識の範囲内にギリギリ入るレベルになり、この大会でいい勝負ができるのである。
「トライアスロン大会にここまで多くの人が参加するとはな・・・」
『さすが別名鉄人レースと呼ばれるほどのことはあるね。いろんな人がいるよ・・・』
蘇我が周りを見回す。
見渡す限り人、人、人である。
ふと耳を傾けると、さまざまな人の声が聞こえてくる。
たとえば・・・
「カーチャン、俺頑張るよ・・」
『余裕余裕!俺たち二人にかかればこの程度楽勝だぜっ!』
「戦死者は補修ーー!!!」
「見よ!この鍛えに鍛えた筋肉を!!」
などなど、耳を少し傾けるだけでさまざまな声が聞き取れるのである。
この全てがライバル。なかなか厳しい戦いになりそうだ。
『・・・ねぇ霊能、今居てはいけない鉄人がいた気が・・・』
「気のせいだろう。忘れておけ・・・」
「そういえばトライアスロンってどんなルールなんっですか?」
『ふふふどすぇ!私がこのトライアスロン大会についていろいろ調べてきたんどすぇ!!感謝するどすぇ~!』
そう言ってさっちんがここぞとばかりに自慢げな顔をする。バスターズ情報係として得意分野で活躍できたことがうれしいのだろう。
『まず、トライアスロンのルールを説明するどすぇ、基本として三種類の競技・・・水泳、自転車、マラソンを連続して行うのがトライアスロンどすぇ。競技中に他者の手を借りることは原則的に禁止どすが・・・この大会では選手どうしの助け合いはセーフとなっているんどすぇ』
「ほうほう・・だいたい分かったな。さっちんの情報はそれだけか?」
『ふふふどすぇ・・・さらに!私はいろいろ調べてきたんどすぇ!!なんとここの町内会トライアスロン大会は全国から猛者がたくさん集まってくる・・・言わばある意味全国大会みたいなものなんどすぇ!・・・その中でも有名な選手をリストアップしてきたんどすぇ』
『有名な選手?・・・燃えてくるね!絶対勝つよ!!」
『例えばそこの小太りの選手・・・彼は実は痩せてるのに体中に意味も無くダイナマイトを巻きつけていることで有名なダイナマイト吉松どすぇ』
『燃えちゃ駄目だった!!なんだその危険な選手!!』
「意味無いんっですか・・・」
「個人的にはあそこの筋肉ムキムキな人が気になるんだが・・・さっちん、分かるか?」
そう霊能が指差す方向・・・そこには凄まじい上腕二頭筋を持つ男が立っている。
そのムキムキっぷりたるや体重の三分の一を占めていそうである。
『彼は腕しか鍛えないことで有名な豪腕の中松どすぇ』
『バランス悪っ!!』
「しかも腕って・・・トライアスロンにあんまり関係してないんじゃ・・・」
「じゃ、じゃああそこのタバコ吸ってるハードボイルドっぽい人は!?」
今度の霊能が指を差す方向には・・・タバコを吸う渋い男の人が立っている。
なかなかのハードボイルドっぷりである。
『彼は一度にタバコを七本くわえることで有名なへビースモーカー黒松どすぇ』
『体に悪ーいっ!!』
「見事なほど走るのに適してないっですねぇ」
「・・・つーか○松多くね?みんな名前○松じゃね?流行ってんの?」
その時、どこからか霊能を呼ぶ声が聞こえた。
なんとなく聞いたことがあるような無いような覚えの無い声だった。
『見つけたぞ霊能太郎!!今日こそ我ら四天王がお前に勝つ!!リベンジだ!!』
そこには四天王を名乗る五人組の姿が!
「・・・誰?蘇我ーお前知ってる人?」
『いや知らん。わりとリアルに』
『リアルに忘れたの!?酷くない!!?・・・まぁいいならば教えてやろう!我らは中臣鎌足様に仕えていた四天王の一人・・・自転車のタナカ!!』
『チャリンコのスズキ!!』
『水泳のサトウ!!』
『二輪車のカトウ!!』
『そしてクロールのナカムラ!!我ら!五人そろって・・・』
『『『『『○松四天王!!』』』』』
「お前ら一人も名前に松ついて無ぇだろうがァァァァ!!」
『つーか一人くらい走れよ。泳ぎと自転車しかいないじゃないか・・・』
『フハハハハ!ではレースで会おうではないか!!』
『「出来れば会いたくない」』
そしてそのままどこかへと歩いていく五人。うっとうしいやつらである。
四天王と分かれた後しばらくすると、会場全体にアナウンスがかかった。おそらくレースの説明とスタートをするのだろう。
[そろそろ始まるわ。定位置につかないのなら死になさい]
「もう始まるのか、じゃなさっちんとツキミ、応援よろしくな」
『さっちんたちが応援してくれたら紳士に負けはないよ』
『二人とも頑張るどすぇ~』
「霊能さん、その腕輪外したら反則で失格っですからね。外れたらすみやかに棄権するようにっですよ」
「おう、分かった。じゃあな!」
『頑張ってくるよ~』
「『行ってらっしゃい(どすぇ)(っです)』」
そうして定位置につく霊能たち二人。
スタート場所はほとんど最後尾に近い場所のようだ。
[ではそろそろ始めるぞぉ、おらぁこの大会の主催者兼実況・・・左ヶ西高校の校長だぁ]
「うわ!アレ俺の高校の校長じゃん!!」
『へぇ・・・どんな人なの?』
「そうだな・・・えらくファンキーな人だ。前に朝礼を七秒で終わらせた伝説をもつ人だ・・・」
『七秒!?』
[私は解説を務めるコンビニの店長よ、こんな大会に出てる暇があるならコンビニに行きなさい]
「店長っ!?」
『さらりと大会を全否定したな・・・』
[では・・・よーいぃスタートォ!!]
わーわーわー!
とてもにぎやかになりながら大勢の人が走って海へと入っていく。そのなかには当然霊能たちの姿もある。順調に霊能たちは泳ぎ、かなり前のほうまでたどり着いた。
『意外となんとかなるもんだな・・・』
「うう・・・いつもに比べて体が重いぜ・・・」
しゃべりながら泳ぐ二人。思いのほか余裕を見せている。
と、そこにでかい塊が水面を通っていった。
『・・・アレなんだ?』
「・・・まて、塊の下になにかある・・・顔?・・・あいつダイナマイト吉松だ!!」
『ああ・・・濡らさないために・・・』
「凄い執念だな・・・いやもうダイナマイト捨てろよ」
そんなこんなで泳ぎは続く・・・
しばらく泳いでいると、蘇我が何かに気づいた。青い背びれのようなものが目の前の水面から出ているのだ。
『なぁ霊能・・・あの背びれっぽいのってさ・・・』
「・・・まさか、こんなところにいないだろうきっと」
だがその楽観的思考は裏切られることになる。
彼らの目の前で跳ねたのだ。サメが。
『ほんぎゃぁぁぁ!!!ヤバイ!どうする僕!!』
「ああなんだサメか」
『なんだじゃないよ!!霊能落ち着きすぎ!何だと思ったんだよ!!』
「フルムププペシンかと・・・」
『フルムププペシン!!?何それ!?』
「さぁ?分からん」
『適当かっ!!』
そんな会話を繰り広げている間にもサメはどんどん近づいてくる・・・!!そして全然逃げようとしない霊能の近くまでたどり着いた・・・。
『ところで霊能・・・お前、腕輪つけてること忘れてないよな?』
「あ゛」
『「・・・」』
『「逃げるぞぉぉぉぉ!!!」』
全力で逃げる二人。
だが無常にもサメは追ってくる。
「蘇我、作戦Bだ!」
『具体的には!?』
「①蘇我がサメに食われる
②俺は逃げる
③みんなしあわせ」
『僕だけ超不幸せだよ!!』
サメが二人をいつでも食べれるポジションまで追いつかれる・・・!
もう駄目だ。
そう誰しもが思ったとき、サメが―――爆発した。
『「へっ?」』
爆発の理由は簡単・・・ダイナマイトだ。
ダイナマイトといえば・・・
「ったくコース内にサメなんて放してんじゃねぇよ。君たち、無事かい?」
「え・・あ・・・はい。大丈夫です」
「気をつけろよ?じゃ、俺はもう行くぜ。・・・負けねぇぞ?じゃあな!!」
そんな言葉を残して先へと泳いでいくダイナマイト吉松。
残された二人は呆然としていた。
「・・・俺吉松のこと馬鹿にしてた自分が恥ずかしいわ」
『そう・・だな。かっこいいね吉松・・・』
「俺将来ああいう風に普段からダイナマイト持ち歩く大人になるわ」
『普通に通報されるけどな』
そんなことがありながらも二人は泳ぎ進めていく。そうしてついに見えて来た水泳ゴール地点。もうすぐ自転車にチェンジ。そんな場所でふと、二人は気づいた。
「そういや実況とか聞こえてこないな」
『・・・そうだね、どうしたんだろう』
[あー、ゴホンッ!実況の校長だぁ、すまんがトイレに行っていたぁ。ここからは頑張ろうと思う]
[解説の店長よ。ご飯を食べに行ってたわ。文句があるなら鏡にでも叫んでいなさい]
『・・・安心の店長クオリティ』
「校長もなかなかやるな・・・」
水泳が終わった霊能たち二人。
次の競技は自転車。
ここからどうレースは動いていくのか!
『よし!水泳終了!!』
「行くぞ!!ごぼう抜きにしてやんよ!!」