第十六話 霊能太郎と潜入捜査
「よし・・・みんな集まったな」
あの地獄での戦いからすでに三日たった。
『ああ・・・準備は万端だ・・・』
『場所も時刻も完璧どすぇ・・・』
「誰にも見破られる心配もないっですよ・・・」
彼らはとある建物の近くにいた。
正確には・・・[目的の建物]の近くに潜んでいると言ったほうがいいのかもしれない。
「今回のバスターズの任務は・・・潜入捜査だ」
第十六話 霊能太郎と潜入捜査
一方こちらはくっちー視点。
『いらっしゃいませー・・・』
私は今コンビニのレジの内側に立ち、客に対していらしゃいませと言いながらもレジの会計をしているわ。
そう、私のバイト先よ。
生活費とか携帯代とかその他いろいろのためにもコンビニでバイトをしているの。
『相変わらず目が死んでるわね。もういっそ死になさい』
『・・・店長も相変わらず酷いですよね』
今私に声をかけたのはここのコンビニの店長。
店長がどんな人なのかを説明すると・・・そうね、私が妖怪だと知っても雇ってくれて、さりげなく気遣いなんかもしてくれるけど・・・言動は氷のように冷たく、口は凄まじく悪いわ。しかもその言動はツンデレとかじゃなくて、素で言っているから初対面の人ではなかなか慣れることができないんじゃないかしら・・・。
以前、私が『なんでそんなに冷たいんですか?』って聞いたら当たり前のように、『雪女だからよ』って返してきたわ。正直納得。
『何その目、仕事をしなさい仕事を。使えないわね』
『冷たすぎますよ店長ぉ・・・』
雪女という種族は、昔話にもあるように人と添い遂げることもある種族だ。つまり、人と混ざっていればまず雪女だとはばれないのである。そんな店長だから堂々とコンビニの店長をやってられるのだろう。
ウィーン
あ、客が来た。
『いらっしゃいませー』
ふぅ、とりあえず棚の整理とかはすでに終わったから、今の私の仕事はレジ打ち。誰かレジに来るまで意外と暇なので、よく客を見て暇を潰している。
ああ・・・今日も何事も無く一日のバイトが終わりそうで良かった・・・。
ウィーン
あ、また客が来た。
『いらっしゃ!!?いませぇー・・・』
金髪カチューシャにグラサン、そんな格好の女の子が入店・・・
ってあなた絶対ツキミちゃんでしょぉぉぉ!!!え!?何??私のバイト先話したっけ?ていうかその格好は何??
「ふふふ・・・ばれてないっです・・・」クイックイッ
ばれてるわよぉぉぉ!!それ変装にはなってないから!!グラサンかけただけで誤魔化せることなんてまず無いから!!あとグラサンクイクイさせ過ぎぃぃぃぃぃぃ!!!
あ、店の食品のコーナーへ行った・・・何買うんだろう・・・?
「あ、あったっです」クイックイッ
・・・あ、来た。
・・・・ちくわ持って。
『・・・ツキミちゃん?何やってるの?』
「はわわっ!!?違いまっす!!あたしはツキミって子じゃないっです!!ただゴン兄へのお土産を買おうとしただけで!!!」クイックイックイックイ
慌ててるわねぇ・・・グラサンクイクイさせ過ぎよ・・・・
『いや・・・誤魔化せないからね?どうしたの?』
「ああ・・・ばれてしまっては仕方が無いっです・・・ではさらばっです!!」
あ、走って逃げてった・・・。
バンッ!!
あ、自動ドアにぶつかった・・・、涙目ね。
なんだったのかしら・・・?まぁ・・・いいか。また今度聞いてみるとして、とりあえず今は仕事よ仕事。
ウィーン
あ、客だ。
『いらっしゃいブフゥ!!!』
『・・・!!』ビクッ!!!
もうね、見た目が派手。
真っ赤。
そんな真っ赤なゴスロリ服を着た髪が長い少女が入店・・・いつもの着物はどうしたのかしら・・・
『・・・意外とばれないもんなんどすねぇ・・・佐悟はんの言ったとおりどすぇ・・・』
いやばれてるからぁぁぁぁぁ!!!さっちんちゃん!!絶対さっちんちゃんでしょ!!
ていうかそれは変装のつもりだったの!?イメチェンかと思ったわよ!!
・・・さっちんちゃんがお菓子売り場に・・・駄菓子をいっぱいかごにいれたわね。
あ、レジに来た。
『・・・300円です』
『ぴったりどすぇ~』
『・・・さっちんちゃんその格好何?』
『どすぇ!!?え・・・いや・・・私はさっちんなんて知らないどす・・・です・・・人違いど・・です!』
必死に語尾隠してるぅーーー!!あたふたしてるわねぇ・・・
『・・・どうしたのさっちんちゃん?罰ゲーム?』
『そ・・そんなにこの格好は変どすか!?・・・うう・・・佐悟はんにだまされたどすぇーーー!!!』
あ、走って逃げてった。なんなのかしら?二人して変装まがいのことをして・・・私のバイト先を見学しにきたの?なんかこの流れで他の人も来そうね・・・
『口裂け、仕事しないなら死になさい』
『店長!!?・・・すいません。あ、あと口裂けって呼ぶのは勘弁してほしいなぁって・・・』
『うるさいわねメス豚』
『はぁ・・・もう口裂けでいいです・・・』
はぁ・・・仕事しよう。
ウィーン
あ、今度はどんな客が・・・
『いら・・・っしゃい・・ませぇ・・・・』
ダンボール、入店。
『こちら蘇我、無事目的の建物に潜入した』
蘇我君ーーーーーっ!!何やってるの!?ひとりでにダンボールがずりずりと動いてるなんで奇妙以外の何事でもないわよ!!?
『ふ・・・これはかの潜入のプロが好んで使っていた迷彩兵器、ばれる事なんてまずないよ・・・』
モロバレよ!!!なめとんのかぁぁぁ!!!せめて動くな!!大佐!!応答願います!!アホが潜入してきました!!大佐ぁぁぁ!!!
『ダンボールごと潰しなさい』
店長ぉぉぉ!!!たしかにアホだけど!!イライラする理由は分かりますけど!!
あ、すばやく商品をもってこっちに来た・・・
・・・せめてレジのときくらいダンボール取ろうよ・・・。
『蘇我君・・・何してるの・・・?』
『・・・』
ここで沈黙を貫くなぁぁぁぁ!!!もうばれてるから!!手遅れだから!!
『えっと・・蘇我く』『邪魔』メキャ!!
店長ぉぉぉぉぉぉ!!!蘇我君が踏まれたぁぁぁぁ!!!
大丈夫なの!?ダンボールつぶれてるけど大丈夫なの!!?
あ、ずりずりとひきずりながら出て行った・・・
・・・・忘れよう。
ふぅ・・・なんかもう今日は疲れたわぁ・・・もうバイト終えて帰りたい・・・
ウィーン
あ・・・客か・・・
『いらっしゃいませ・・?』
直後に起きる強烈な風。
ふとドアを見るが誰も居ない。誰も居ないはずなのに・・・店内には凄まじい風が起こっていた。
・・・なんなのかしら?
良く見ると・・・[ものすごく速い何か]が店内にいるのが分かるわね・・・
あ、店長が足を出した。
ガッ!!ドンガラガッシャン!!!
それと同時に[何か]が棚に突っ込む。
「いてててて・・・・」
・・・霊能君。・・・・・・何やってるの?
『駄客、何をしているのかしら?』
「いやぁ・・・つまづいちゃって・・・」
ああ、あのすばやい何かは霊能君だったのね。で、走ってたら店長の足にひっかかった、と・・・。何がしたかったのかしら?
「ああぁー・・・、くっちーにばれた・・・・」
『霊能君、何がしたかったの?』
『潜入捜査どすぇ!』
「みんなばれてしまいましたっですけどね・・・」
『僕の工学迷彩がばれるとはね・・・』
あ、みんな出てきた。
「目に見えない速さなら文字通り見えないんだからばれないと思ったんだけどなぁ・・・」
・・・話を聞いてみると、つまり霊能君たちは・・・いかに私にばれないように買い物を成功させるかを競い合っていた訳だ・・・。
・・・全員モロバレだったけど・・・。
『あなたたちねぇ・・・』
「ごめんなくっちー、でも楽しかったぜ!」
『あんな服もう着ないどすぇ・・・』
『ま、みんなばれてたからこの勝負優勝者は無しだね』
「くやしいっですねぇ・・・じゃ、あたしたちは帰るっです。くっちーさん、またね!」
『ったくぅ・・・もう私の仕事の邪魔をしにきちゃだめよ?』
・・・でも・・・まぁ、退屈なバイトの時間が・・・少し楽しい時間になったから・・・こんな日があってもいいかもね。
『じゃ、またね。みんな』『待ちなさいゴミカスども。死をもって償いなさい』
「『『『「へ?」』』』」
―――このとき、私は後ろを振り向いたことを後悔した。
雪女の殺気は・・・絶対零度なんてものじゃなかった―――
『店長・・?一応お客様なんだし帰らせても・・・』
『じゃあ口裂け一人でこの惨状をかたづけるの?それでもいいわよ?』
忘れていた。霊能君が突っ込んだおかげで棚はぐっちゃぐちゃになっていた。それどころか無駄に速く霊能君が走ったせいで起きた風により、店内は酷い有様だった。
『・・・みんな、帰れるとは思わないでね』
「・・・お・・おぉ・・・」
その後、店内の片付けやついでにと命令された店内の模様替えなどが終わった頃にはすでに夜中になっていた。
『とりあえずの償いはこれでいいわゴミども。さぁとっとと帰りなさい』
そしてさらに店長はこれを好機と見たのか、たまに店を無償で手伝うことを条件にみんなを家に帰すことにした。・・・霊能君といっしょに働けるチャンスができたのは店長が私に気を利かせてくれたのかもしれない。まぁ全くそんなことを微塵も考えてないかもしれないが。
だいたいそんな感じで今日のバイトは終わった。
・・・あ、でもそういえば・・・
『ねぇみんな、今回のこの騒ぎに小次郎君は参加してないの?』
『拙者でござるか?』
『うわ!!小次郎いたのか!!?』
『気づかなかったどすぇ・・・』
『拙者はずっとここで立ち読みをしていたでござるよ』
「気づかなかったっです・・・・」
「ああ、・・・優勝はお前だよ・・・」
『何か分からんでござるが・・・?優勝はありがたく頂戴するでござるよ』