第十四話 霊能太郎と紳士の戦い
『さて、僕の相手はどんなやつかな?』
第三試合目、蘇我がさっちんと絶対勝つと約束をした試合である。
『ふん・・・我の直属の部下だ。せいぜい足掻くが良い』
閻魔の自信満々な台詞。
そして現れた蘇我の対戦相手は・・・
『・・・まさかまた会うとは思わなんだ』
どこかで見たような気がする鬼。具体的には三途の川のあたりで。
『帝鬼のおっさんか!?なんでこんな所に!?』
『阿呆、それはワシの台詞じゃ。・・・棄権はせんか?』
『まさか。紳士は約束を破らないんだよ』
第十四話 霊能太郎と紳士の戦い
対戦場所はさっちんがくじを引き、場所は林に決まった。
木々が生い茂っている。
そこに、二人の男が立っている。
『さて、やるならばワシは手加減せんぞ?』
『ちょっとまって!少し考えさせて!!』
・・・OK OK、一度冷静になろう。
さっちんがピンチなのを助けて、テンションが上がってかっこつけてたら帝鬼さん(鬼、めっちゃ強そう)と戦うことになっていた。
・・・何言ってるか分からないかもしれないが超スピードとか催眠術とかそんなチャチなもんでは断じてない・・・もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ・・・。
とか言ってる場合じゃねぇぇぇぇぇ!!!
ヤバイヤバイヤバイよ僕!!調子に乗りすぎた!!かっこつけすぎたやべぇ!!冷静になれ僕!!氷のようにCOOLに、こんにゃくのように冷たく!!
・・・こんにゃくってなんだよぉぉぉぉ!!!
駄目だこんなこと考えてたら昔こんにゃく神とか名乗ってた不思議ちゃんを思い出す・・・あの人は今なにをしてるんだろうなぁ・・・まだ自分をこんにゃくの神だとか言ってるんだろうか。
『もういいか?』
よくないですゥゥゥゥ!!!
現実逃避してる場合じゃない!現実を見なければ!!
状況
蘇我VS帝鬼
見た目
普通の幽霊VS筋肉がたくましい鬼
強さ
普通よりは多分強い?VSあきらかに強そう。閻魔直属の部下らしい。
スピード
そこそこ。一般よりは速い?VS絶対速い。あの筋肉は速い。
防御力
あんまない。所詮は幽霊VS鬼だし筋肉の塊だし急所以外は硬そう。
結論
勝ち目ほぼゼロ。
ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!
ピンチピンチ!!SOSSOS!!!
こんな時霊能なら余裕なんだろうなぁ・・・こう・・・ベシッと。
まぁ無いものねだりは良くないな。
絶対負けるであろう試合だが・・・負けられない理由がある。
僕が負けたら地獄から出れない可能性がある。かっこつけて約束もしてしまった。
それに・・・
「蘇我ー!頑張れよー!!」
『蘇我君!勝ちなさいよー!』
「絶対勝つっですよ!!」
『蘇我殿、応援しているでござるよ』
『蘇我はーん!!!頑張れどすぇぇぇぇ!!!』
・・・この声援には、答えたいからね。
『そろそろいいか?早く終わらせたいんだが・・・』
『ああ、覚悟はできた。作戦も決めた』
向かい合う両者、今にも戦闘が起きそうな瞬間。蘇我が口を開いた。
『ああ、確認しておきたいんだけど、この試合で壁とかこの館の物が壊れても・・・僕弁償しなくていいよね?』
『・・・閻魔様主催の試合だからな。大丈夫だろう』
『良かった・・・。じゃ、帝鬼さん、・・・・覚悟してくれよ?』
『若造が・・・なかなか吼えるのぉ・・・』
ピリピリとした空気。
無音の空間。
勝ち目の薄い勝負の火蓋が・・・切って落とされた。
『作戦はただ一つ・・・・』
『来い、若造!!』
蘇我が構える!!
・・・・帝鬼に背中を向けて。
『三十六計逃げるっきゃねぇぇぇぇぇ!!!!!』
全力で走り出した蘇我。もちろん後ろに。
対してあっけに取られた顔の帝鬼。まさか逃げるとは思っていなかったのだろう。
『勝てるかボケェェェ!!作戦名!逃げるが勝ち!!』
『なッ!!待てぃ若造!!』
少し遅れて追いかける帝鬼。
だがフィールドは林。直線的には走れず、なかなか蘇我には追いつけない。
『待たん!!絶対に待たん!!だって待ったら絶対負けるから!!!』
そして帝鬼は蘇我を見失った。なんといっても周りは林だ。見通しが悪い。
『たしかにいい戦略かもしれんが・・・それではワシには勝てんぞぃ・・・』
そうなのだ。今の蘇我は逃げているだけ。このままでは試合は動かない。
と、言うことは勝つためにはいつか出てきて攻撃を仕掛けなければならないのだ。
だから帝鬼は待つことにした。不意の一撃をもらってもいい。あの程度の若造の一撃では鬼である自分は倒れない。
そういう確信があるが故の行動。
奇襲をあえてくらい、そこを仕留める。そのためにも・・・帝鬼はそこで待っていた。
十分後。
まだ来ない。
おそらく帝鬼が警戒を解いたときを見計らって襲うつもりなのだろう。
しかし帝鬼は警戒を緩めない。
二十分後。
なかなか来ない。
じらし作戦か・・・なかなかいい手だ。だがワシの忍耐力をなめるなよ・・・?
四十五分後。
あっれ~・・・?
なんで来ないの?焦らすって言っても限度が無い??やっぱりワシから探しに行くべきか?
だがここまで待ったんだ。忍耐ではワシは負けん。
一時間後。
やりおる・・・。
なかなかの忍耐力だ。ただの若造とばかり思っていたが・・・認識を改めるべきだな。
だがしかしその程度でワシを越えれると思うなよ?
三時間後。
『若造ぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!』
そこには元気いっぱいで蘇我を探す帝鬼の姿が!
『どこだぁぁぁぁ!!!勝負をしろぉぉぉ!!!!』
どうやら忍耐勝負では負けを認めた様子。林の中を探しまわる帝鬼。
だが蘇我は見つからない。
『ぬ?あれは・・・』
そんな時、帝鬼は遠くに何かを見つけた。
その[何か]は木と木の間にぶら下がっており、時よりゆれている。
・・・ハンモックだ。
『若造ぉぉぉぉぉ!!!!』
これは切れてもしょうがないと思う。そしてハンモックから身を起こして蘇我は帝鬼を見る。
『あ、帝鬼さん。おはようございます』
『ゴラァァァァァァァァ!!!!!!』
怒り狂った帝鬼。全力で蘇我の方へと走る。
だが帝鬼がトップスピードになり、蘇我まであと少しと言う所で、帝鬼の体は首を支点に足は地から浮いた。
『ブッッグハァ!!』
首が飛ぶかと思うほどに糸がめり込む。
そう、木と木の間に・・・糸が張られていたのだ。
『よっしゃ作戦成功!!では離脱!!』
流石の鬼も、これにはダメージをおったようで、すぐには立ち上がらない。
だが気絶はしてないようだ。
試合はまだ続く。
帝鬼が倒れている間に蘇我はまた身を隠す。帝鬼は倒れながらも、一度罠にかかったおかげか冷静になった。もう罠にはかからない。そう意気込んで蘇我を探す。
今度ははやく見つかった。蘇我の後姿だ。どうやらこちらには気づいていないらしい。
罠に気をつけつつ、近づいていく・・・。
そしてかなり近いところで声をかける。
『若造、かくれんぼはおしまいか?』
バッ!と驚いたように振り向く蘇我。
だが逃げようとするにはあまりにももう遅い。帝鬼の拳が・・・蘇我の腹を撃つ。
『ウグッ!!』
その一撃で、蘇我の体は飛び地面に強打される。
『ッはぁ・・はぁ・・・後ろから・・か・・・』
『若造、いい作戦だったぞ?そこは褒めてやろう』
『・・・惜しかったなぁ・・・流石鬼。一撃が重いね』
『ふん、これでも手加減はしているんだがのぅ・・・』
『それでも重い。持久走のあとの体くらい重い。持久走なんて無くなればいいのに』
『この状況でよく軽口が叩けるな・・・逆に感心するぞ』
ぐっと体に力を入れ、立ち上がる蘇我。
『僕は負けられない。仲間が応援してくれているし・・・何より、紳士は約束を破らないんだよ』
『だがもう若造、お前の勝ち目は無いんじゃないか?』
『勝ち目はあるよ・・・。準備はできた。でも、みんなにはこれは秘密にしておきたかったな』
『ほう・・・どうする気だ?』
『僕はハーフでね。半分は人間だけど・・・もう半分は悪魔なんだ。伯爵級のね。・・・普段は抑えてるこの悪魔の力を・・・開放するだけさ』
するとさっきまでの蘇我とは目つきが変わり、目に見えて[何かが起きる]と思わせるような雰囲気になっていく。帝鬼も多少はうろたえたが、構える。
『ハァァァァァァァァァ!!!!』
力を解放するようなしぐさをする蘇我。
だが特に見た目は変わらない。不思議に思った帝鬼が疑問に思っていると・・・
『うっ!!』
帝鬼の目に光が飛び込んできた。まぶしさに目を閉じ、ひるむ帝鬼。
そのまぶしさの原因は・・・
・・・蘇我の後ろに浮いている手鏡。
ひるんだ帝鬼をすかさずドンッと押す蘇我。
するとあとずさった帝鬼の後ろの足が地面を貫く・・・。
落とし穴だ。
そこまで深くは無いようだがそれでもこけそうにはなる。
『なぁ!!?』
片足をとられた帝鬼がバランスを取ろうともう片方の足を踏み込む。
『のわぁ!!』
だがその場所にはビー玉が置いてあり、若干の痛みとともに背中を強打するようなかたちで倒れる。
『うぐっ!!』
そして倒れた背中の、ちょうど背骨のあたりには拳ほどの石が置いてある。これは痛い。
『うぐ・・・な!ちょっと待て若造!!それは・・・』
最後に、帝鬼が見上げた先には・・・蘇我が立っていた。
・・・高級そうな壷をかかげて。
『帝鬼さん・・・ごめんハーフとか悪魔の力とか・・・アレ嘘。ハッタリ』
にやぁ、と笑う蘇我。
この顔を見ると半分悪魔だとしても信じてしまいそうだ。
『必殺!!!不可能の無い一撃!!!!!』
そしてかかげていた壷を全力で・・・帝鬼の頭に叩きつける!!!
『グガァ!!!』パリーン
壷が割れるほどの一撃を頭にくらい、動かなくなる帝鬼。
・・・気絶しているようだ。
『よっしゃぁぁぁ!!!勝った!!!紳士に不可能はねぇ!!!!』
まさかの勝利。
なにはともあれこれで勝ち星二つ目。現在、霊能一行が優勢である。
はたして・・・次の試合はどうなるのだろうか・・・。