第一話 霊能太郎と赤紙青紙
「あ~……友達欲しいなぁ……」
とある高校で、かなり寂しい独り言をつぶやいた男がいた。
何を隠そう、彼には友達がいない。いない理由は分からない。彼が人見知りだからではない。なぜなら彼には知り合いはたくさんいる。たとえば今いるこの教室の同じクラスのメンバーとは当然知り合いだ。
だが彼には友達ができない。
「なんだよ……俺は普通だよ……」
だが人は彼をそれとなく避ける。
唯一の友人とも言える存在、出家した幼馴染のゴンザレス(♂)いわく、
「おぬしはどこかずれておるからのぉ」
だそうだ。別にずれてるつもりはないんだが……と思う今日この頃。
「はぁ……もうこの際誰でもいいよ……俺と友達になってくれよ……」
彼の名前は霊能太郎、筋トレ好きの高校生男子だ。
「トイレ行こう……」
この時、このタイミングでトイレに行ったことが――――
――――後の人生に大きく関わってくることになる……
第一話 霊能太郎と赤紙青紙
「あ、紙が無い……困ったな」
紙が無いのである、非常事態だ。切実に。
ヤバイ、本気でヤバイ。
具体的には満員電車で偶然となりの女性の胸に触ってしまい、悲鳴をあげられた時並にやばい。人生終了である。いや実際はトイレで紙が無かったくらいでは人生は終了しないのだが……
その時の彼はそのくらい焦っていたのだ。助けを呼ぶ友達もいない。
知り合い程度のやつに紙を持ってきてくれとは頼めない。
ピンチだ、全力でピンチだ。だがその時……奇跡は起きた……
『赤い紙が欲しいか? 青い紙が欲しいか?』
そう、天の助けである。いや……実際は赤紙青紙という妖怪なのだが……
今の彼には関係ない。
「トイレットペーパーを頼む!!」
妖怪がでた開口一番にこれだ。
『赤い紙が欲しいか? 青い紙が欲しいか?』
「だからトイレットペーパーだって!! 頼む!!」
『……赤い紙か青い紙か』
「分かった! 赤でいい! 何でもいいから紙をくれ!!」
そう、彼に色などこの際関係ない。紙でさえあれば拭くことができるのだから。
だがこの赤紙青紙という妖怪は当然のごとくトイレットペーパーが無くなった人に紙を渡す親切な妖怪何ぞではない。この妖怪は被害者に赤い紙か青い紙かを選ばせて、赤と答えれば血祭り。青と答えれば血を抜き真っ青にさせ殺すという。
では他の色を選ぶとどうなるのか。一説では冥界に引きずり込まれるとも言われている。
『……赤だな……』
そう妖怪は言うとその恐るべき力で彼を血まみれにする――
「うわ鼻血でた」
――はずだったんだが……
『ッ!! 何故だ……』
「ちょっとぉー鼻血でたんだけど、マジで頼むからなんか紙くれよ。ヤバイって、このままじゃお尻も鼻も汚れたまんまになっちゃうよ? このままトイレ出たら俺本当に生きていけなくなっちゃうよ? 社会的に」
そりゃトイレから鼻血だらっだらの尻を拭いてない男が出てくるのを見たら誰だってトラウマもんである。
『青い紙欲しいか?』
「だから紙なら何でもいいって。頼むから急げって。トイレでしゃがみながら上向いてる俺なかなかにシュールだよ? 客観的に見たらキモいことこの上ないよ?」
『いいだろう……青い紙をやろう』
そして妖怪は彼の血を抜き殺す――
「うわくらくらしてきた……この状態で貧血ってひどくね? 何この三重苦」
『…………なんでだよっ!!!』
どうやら妖怪も突っ込まざるを得なかったらしい。
「知るか! 早く紙をくれ!! プリーズ!! 紙プリィィズ!!」
『何でお前死なないんだよ! なんで鼻血と貧血で済むんだよ!!』
「さぁ? 腹筋鍛えてるからじゃない?」
『答えになってねぇよ!! もうお前帰れよちくしょう!!』
「だから紙渡せって言ってんだろうがァァァァ!! 拭くもん拭かないと帰れねぇ事くらい分かれやァァァ!!!」
『本当だな? 紙を渡したら帰るんだな?』
「当然だろうが、いいから紙もってこい! 赤でも青でも黄色でもいいから!!」
『黄色でいいんだな? いいだろう』
その瞬間……その場の空気が変わった……
便器の向こう側が黄泉の世界へとつながり……彼を吸い込み始めたのだ!!
「ああ……換気扇か」
『もういいよ!! 俺が悪かったですぅ!! 普通の紙やるから帰ってください!! プライドズッタズタだよこんちきしょう!!』
そうしてどこからとも無くトイレットペーパーが補充され、全ては終わった……
「それにしても……助かったな……俺に紙をくれるなんて……良いやつだったな……つーか妖怪だかお化けだかの類って本当にいたんだ」
そして彼は何かを閃いた顔でこう言った。
「……そうだ……友達……人間で作れないなら人外で作ればいいじゃん!!」
彼、霊能太郎はとても健やかな笑顔で言った。
「よし、明日からGTO作戦開始だ!!」
※G(人外と)T(友達になろ)O(ぉ)作戦