4.嗚呼、王子様
「九瀬~! あんたに言伝あるんだけど」
教室に閉じこもって休憩していたら、同じサークルの女子に声をかけられる。
女子はニヤニヤと俺をからかうような表情を浮かべた。
「あんた芸能人に知り合いいたんだ」
「……」
その言葉は語弊があるので返事をしない。芸能人に知り合いがいるのではなく、芸能人に一方的に知られて恋愛感情を持たれている。しかも異性と勘違いされて。
「言伝ってなになに?」
松岡が女子が持っていたメモを受けとる。ざっと目を通すと、肩を組んできた。嫌な予感だ。
「これからステージで告白大会するらしい。お前、招待されてるぞ」
「マジかよ……」
告白大会。最悪だ。言伝を頼んだのは多分近衛たちだろう。こんなの公開処刑じゃないか。もし俺が女だったとしても、三人のうち、誰を選んでも文句を言われるだろうし、ファンが黙っちゃいない。
ーーだけど、告白大会? それだったら俺も言いたいことがある。少し考えてから、俺は首を縦に振った。
「ここまで来たら上等じゃねえか。告白? 受けてやるよ」
「そんな男前なことを言うメイドさんがいてたまるか。面白そうではあるがな。ステージは何時からだ?」
松岡が時間を確認する。どうやら夕方四時かららしい。多分ここで告白大会をして、成功したら後夜祭で一緒に花火を見られるのだろう。
花火、ね。どうせならかわいい女の子と見たいんだが、その『かわいい女の子役』に俺がさせられている現状は不愉快だ。
ここはズバッと。俺は男だ。
「おーい。育、そろそろステージ見に行くぞ。三人の売れっ子芸能人が男に告白するところなんて、一生に一度の大イベントだわ」
「ったく……」
相変わらず他人事で楽しんでいる松岡の頭を軽く叩くと、長いスカートを翻して中庭のステージに向かった。
ステージは混雑していた。芸能人が告白大会に出るとは事前に情報はなかった。俺だって、今日ミュージシャンたちが来ているなんて偶然知ったようなものである。
司会がさっそく取り仕切る。舞台には変装した近衛、一条、二城が立った。そこでようやく薄らと客席から声がするようになった。
「あれ? あの人、もしかしてーー」
「マジ? G’sの近衛じゃん!」
「UFOのギターもいる!」
「きゃぁぁ! 二城くーん!」
三人ともすごい人気だ。客席の最前列に人が押し寄せそうになるのでは? と一瞬気構えたがそこは節度を保ってくれている。
司会からマイクを受けとった最年長の30代近衛が語り始める。
しかし、よく考えて30代の大人が20代前半の女を口説くってすごいな。実際、女ではなく男ではあるのだが。
「九瀬育さん、好きです。結婚してください」
「いや、結婚するのはオレと。じじいに興味ないだろ。オレにしとけ」
強気に出ているのが一条。普段硬派な分、甘い言葉に女性から黄色い叫び声がした。
「文章に惚れて、今日更に一目惚れしました。お願いします」
二城が落ち着いたトーンで告げる。ストレートな物言いは好感が沸くが、男にプロポーズされてもな。
松岡に押されてステージに上がる俺。こいつら全員を一発で振る方法。マイクはいらない。せーのでスカートをめくる。せーの。
「俺は男だ!」
メイド服の裾がひらりと舞う。その瞬間はスローモーション。三人のミュージシャンたちは、口をあんぐりと開ける。
「…………」
ステージを静寂が包む。最初に反応したのは司会者だった。
「お、おっと……九瀬さんは『九瀬くん』だったと言うことか! お三方、ど、どうしますか?」
「お、男だったのか……」
その場に四つん這いになる二城。そこまでショックだったのか。悪かったな、男で。
一条も頭を手で押さえる。どいつもこいつも失礼だな。
「……九瀬くんが男だと言うことは、例の話はなし……ってことか」
「例の話ってなんだよ」
俺が近衛に聞くと、やれやれと言った調子で説明を始める。
近衛、一条、二城、そして俺ーー九瀬家は、旧華族だったらしい。戦後華族制度はなくなったが、この度政府の中で、華族制度を復活させようという動きがあるようだ。
「そこで俺たちが華族に戻る条件として、九瀬家と結婚することが上げられたんだ」
俺は自分の家柄なんて知ったこっちゃなかったから驚いた。旧華族なのに俺は奨学金をもらっている身分。裕福ってわけでもないのに、変なことに巻き込まれ、苦虫をかみつぶしたような顔になる。
「お前が男なら話は別だ。だが……お前の文章に惚れているのも本音ではある」
「普通に女装してかわいいとか、ふざけんなよ」
「でも性別は変わらないからな……」
三人三様のリアクション。だけど、これで華族にはなれないことがわかっただろう。
「華族なんて、ただの肩書きだろ。そんなもん欲しがるより、もっといい歌詞書けるように努力しろよ」
腕を組んで鼻息荒く言うと、がっかりしていたはずの三人だが表情を変えた。
「お前、格好いいな」
「同性だけど気に入ったわ」
「スカートめくって『俺は男だ!』って、度胸あるよな」
「だろ? うちの育は最高なんだわ」
「松岡!」
部外者なのに会話に割り込んできた松岡を、俺はいさめる。今まで他人事だったのに、何を言ってるんだ。『うちの育』って、お前の家の子になった覚えはない。
「まぁ……結婚とかは無理なら、友達になるのはどうだ? 歌詞についてお前の意見も聞きたい」
近衛が言うと、一条と二城も大きくうなずく。結婚とか恋愛は無理だが、友達ならありか? 男に結婚を申し込んだ三人と俺との友情物語は、これから始まるのだろうか?
ステージが終わると、後夜祭だ。俺と松岡、そして近衛と一条、二城は、喫茶店をやっていた教室から花火を見ることにした。
もとから松岡と駄弁ってようと思っていたのだが、それに三人も勝手に合流した。
男だけの色気のない後夜祭。だけどそれもありかな。妙な縁のつながりが、人生を彩る。そうなることを祈って。
ちなみに、小説大賞は落ちました。
小説大賞落選会として、三人と俺、松岡の五人で朝まで飲んだことはまた別のお話。




