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Oh!マイプリンス  作者: 浅野エミイ


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3/4

3.だから現場は騙される

 5月に入って初めての土曜日。今日、明日は大学の文化祭がある。俺と松岡の在籍している文芸サークルでは、『女装メイド喫茶』を開こうとしていた。俺たち男の意見を聞かず、女子だけで決めたらしい。


 当日、松岡と一緒にサークルに顔を出すと、さっそく女子に囲まれ、あれよあれよとメイクまでされてしまった。


「なんで女装メイド喫茶なんだ。普通に読書できる喫茶店でいいだろ……」

「似合ってるぞ、メイド服」

「お前は執事服だから他人事なんだろ」


 俺がクラシックな丈の長いメイド服なのに対し、松岡は執事服だ。俺だって執事服のほうがよかった。それなのにーー。メイド服が似合っていても嬉しくない。

 サークルの出し物についての会議に参加しなかったとは言え、何が楽しくてこんなひらひらした服を着させられているんだ。


「九瀬と松岡は呼び込み行ってきて。九瀬めっちゃかわいくメイクできてるから、釣れるかも」

「あぁん?」

「育、行くぞ」


 松岡に腕を取られ、教室を出る。ただでさえ女装なんて恥ずかしいのに、呼び込みしてこいだなんて鬼か。軽く舌打ちすると仕方なく松岡と呼び込みを開始する。


「文芸サークルで喫茶店やってまーす」


 やけくそで大声をあげると、通りを歩く人々が俺たちに目を向ける。恥ずかしいが、文化祭。羞恥心は捨てたほうがよい。


 松岡と練り歩いていると、身長の高いサングラスの男がじっとこちらを見ていることに気がついた。


「なんだ、あいつ」

「お前、なんだかんだで女装似合ってるからなあ」

「黙れ、嬉しくない」

「せっかくだし、声かけてみようぜ」

「い・や・だ~」


 松岡が腕を引っ張り、サングラスの男の目前に連れて行く。男は俺をまじまじと見た。こうやって見られたら声をかけるしかない。


「文芸サークル、喫茶店やってるんですけど、よかったら」

「文芸サークル……そこにもしかして『九瀬育』さんって方いませんか?」

「……」


 男は俺を探しているらしいが、女装している今、俺だと名乗りづらい。俺はキッと男に目をやりたずねた。


「九瀬育に何の用ですか」

「あ、俺……こういうものです」


 男がサングラスを外すと、反応したのは松岡だった。


「あ! 二城都京(ふたしろ・ときょう)!?」


 名前に聞き覚えがある。確かソロ活動している紅白出場経験もあるミュージシャンだ。ってか、また音楽業界のやつか。そんなやつが俺に何の用だ。


「人気アーティストが何の用事だ」


 つっけんどんに聞くと、二城は頭をかいた。


「実は……九瀬さんの文章に惚れてしまって、一度お会いしたいと思って」


 かぶっていた帽子を手にすると、二城は恥ずかしそうに理由を告げる。


 今なんて言った? 俺の文章に惚れた? ……俺は男なんだが? 松岡はというと、ニヤニヤと笑っている。こいつはいつも他人事だ。


 文章に惚れたって、G’sやUFOとは違って、二城は俺に対しての歌詞は書いていないのだが……。隠れファンみたいなものか。どちらにせよ、困ったもんだがな。


「二城さん、九瀬育に会ったらどうするんですか?」


 松岡が笑いながら二城に聞く。余計なこと言うんじゃねえぞとにらみを効かすのだが、果たしてどうしたものだろうか。腕を組んで悩んでいると、松岡が俺の肩に手を回した。


「こいつが育でーす!」

「!?」


 いきなりバラした松岡の頭を、俺は叩く。


「バカ野郎!」

「えぇ……殴るなよ、育」

「何!? 九瀬育だって?」


 人混みの中からふたりの男が近づいてくる。よく目を凝らすとどこかで見たことがあるような?


 俺は息を飲んだ。ふたりの男は近衛と一条だ。ふたりが俺たちの目の前に来ると、芸能人オーラがすごい。


「彼女が九瀬育か?」

「小説からの想像通りかわいい……」

「あんたら、G’sとUFOじゃん」


 二城も近衛と一条を見て驚く。なんなんだ、こいつら芸能人は。俺はちらりと松岡を見やるが松岡は今の状況を楽しんでいるようだ。ったく、他人事野郎が。


「あの、あんたら一体なんなんですか」

「俺たちは育ちゃんと結婚したいと思っていてね。小説サイトには大学からアクセスしてるってわかったら、ちょうど外部からも入れる文化祭があるってナイスタイミングで」

「……は?」

「お前の文才に惹かれた」

「近衛さんも一条さんもかよ……」


 待て待て。俺の文才に惹かれたとして……俺は男なんだけど!? 今はメイド服を着ているので説得力がないのだが。


「文才だけじゃなく、こんなかわいいなんてね」

「いやいやいや」


 俺が首を振ると、ひとりで腹を抱えて笑っていた松岡が顔を上げて俺の耳元でささやいた。


「どーすんだ、お前。完全女だと思われてるぞ」

「男ってバラせばいいだろ。嘘は嫌いだ」

「あ! あれ、G’sの近衛じゃん!」

「UFOの一条と二城都京もいるぞ!」

「げ、ヤバい」


 松岡と話をしていると、三人の芸能人の正体がばれた。まずい、これじゃあ大騒動になる。


「じゃーな、育ちゃん! あとでね!」

「愛してるよ」

「会えてよかった、次はステージでな」


「……ステージ?」


 三人は好き勝手言って、その場から退散する。

 ……ったく、一体どうするんだよ。ってか、ステージって何があるんだ。メイド服姿の俺は、頭を抱える。松岡だけは大爆笑していたが、俺は一体どうなるんだ。三人とも俺を女と勘違いしたままだなんてーーいよいよ面倒くさいことになった。


 台風一過。三人の迷惑な男たちに想われた俺だが、俺も男だ。しかも結婚したいとか。これがせめて女の子だったらなと思うが、俺の小説のどこに惚れたんだか、筆者である俺自身がわからないという。


 文化祭、特に何もしなくとも疲れた。松岡と俺は一旦教室に戻ることにした。

 


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