2.恋文?
小説大賞に応募する原稿をサイトにアップして数日。俺は特段変わったことのない日常を送っていた。
小説サイトのページビューを見ると、100人弱が俺の小説を読んでくれたらしい。果たしてこの数字が多いのか少ないのか。ページビューが少なくても受賞することもあるから、あまり考えなくていいのだろう。
だけど、この松岡が純文学と言ってくれた作品ーー「片翼のユートピア論」は渾身のできだ。だからこの作品で受賞できたらな、なんて捕らぬ狸の皮算用をしてしまう。受賞したら、賞金も得られるからな。とは言え賞金がもらえたら、俺は奨学金返済に充てるのだが。
「育、お前どういうことか説明しろ」
講義が終わってすぐ。松岡がスマホの画面を向ける。ふざけている様子ではなく、いたって真剣な口調なので俺は気構えた。
「なんだよ」
「なんだもくそもない。お前、G’sやUFOと知り合いなわけ?」
G’sもUFOも、人気のロックバンドだ。音楽業界に詳しくない俺でも知っているくらいの。だけど、知り合いなわけがない。相手は有名バンド。俺はまだデビューもしていない大学生ワナビ作家だ。音楽業界にコネすらないのに、なんで知り合いだと思うんだ。
俺が首を傾げていると、松岡がため息をついて説明する。
「G’sとUFOの新曲のタイトル、見てみろ」
新曲がなんだっていうんだ。画面を見て、俺は固まった。
「……なんだ、これ」
「俺のほうが聞きたい」
G’sの新曲のタイトルもUFOのタイトルもともに「片翼のユートピア論」。俺の小説と同じタイトルだ。
俺はふたつの曲の歌詞を検索する。G’sもUFOもどちらも見事な恋愛ソングだった。ただ、まるで俺の書いた小説をモチーフにしているのでは? という疑念を持ってしまう。
俺の小説が片思いの女の子の心情だとしたら、G’sとUFOの歌詞は、その女の子を口説いているような内容だ。
『どうしてこうなったーー?』
俺が頭を抱えていると、松岡が口を開いた。
「お前、バンドに目を付けられてたのか?」
「俺はデビュー前のワナビだが」
「ってか、この歌詞の内容、お前女だと思われてない?」
……嘘だろ。
知らない間に目を付けられて、更に女だと思われて歌詞を書かれるなんて。
スマホを見つめていると、教室の窓際にいるギャルたちの声が響いた。
「G’sの新曲、めっちゃラブソングじゃん」
「UFOと同じタイトルらしいけど、なんか意味あるのかな?」
「そういや検索してたら、同じタイトルの小説が見つかったんだけど……」
「マジで? 小説の作家って女? はぁ、ふざけんな!」
ヤバい。ギャルたちの興味は小説の作家だ。もし作家が女だったら、人気バンドの歌詞に使われたやつということで、確実に嫉妬されるだろう。嫉妬くらいならいいが嫌がらせもあるかも……。グルービーからストーカーになったファンもいるかもしれないし、正直怖い。俺は気が重くなる。
松岡に目をやると、頭をかいた。
「……まぁ、作家は男だから無駄な心配だけどな」
「とは言え、やりにくい」
「だけどこれなら小説大賞の結果、期待できるんじゃね?」
そんなものだろうか。確かに注目されているのだから、受賞の可能性もゼロではないのだろうが。逆に炎上商法みたいな状態ではある。
「ところでG’sやUFOって人気ロックバンドってことしか知らんのだが、どんなやつらが詞を書いてるんだ?」
スマホで検索すると、早速出てきた。
G’sはロックバンドというかユニットで、ギターとボーカルで構成されている。歌詞を書いたのは近衛栄進というボーカルだ。
近衛は30代の男。この歌詞を書いているのが男のふりをした女性だったら少しはマシだったのかもしれないが、そうはうまくいかないのが現実である。
もうひとつのバンド、UFOは四人組だが、作詞作曲をすべてギターが行っているという。リーダーである一条十がそのギターだ。年齢としては俺と同じか少し上だろう。俺が男だと知らないからだろうが、何が楽しくて男に恋文紛いの歌詞を書いているのか。メディアへの露出はあまりないバンドなので、どんなやつなのかは曲を聴かないとわからないが。
「お前、モテモテじゃん。同性に」
「せめて異性にモテてたらまだよかったんだがな」
事実は小説より奇なりというが、書いた小説に同性の有名人から恋文が届くとは……。果たしてどうしたものだろう。どうしようもないので、俺はそのまま放置することにした




