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エピローグ/最終話(上)

 目覚めたのは夕方だった。


 その時にアイリスは、自分が人々の注目を一層集めたことを知った。


【大公妃は神獣様に気に入られ、そしてヴァルトクス大公と、神獣を育てるという偉業にも貢献し、成功させ――】


 同時に、夕刊にて自分の実家が大変な目に遭ったことも知った。


 実の子でありながら長女への冷遇と、次女を優位に上げるため『悪女』に仕立て上げた数々の名誉棄損。その他にも、金使いが荒いと言いながら次女の豪勢なドレスや装身具などの支払いが足りない際、アイリスの名前で貸付も行っていたそうだ。


 国王の前で、長女が自分の意思でと名乗り出たという結婚意思の詐称。王家とヴァルトクス大公を侮辱した罪と、不敬――。


 たった半日の間に、とにかくたくさん出た。


 アイリスが大公妃になったにも関わらず、その名前を出し、勝手に使用したことも貴族たちに非常識だと嫌われた。


 爵位を剥奪されたうえで、遠い監獄行きになることが決定したそうだ。


 妹のほうは目覚めた際、悲劇の花嫁と自分で主張して同情を買おうとしたようだが、こんな時に社交に行く神経も知れないと全員が知った。ライノーアル伯爵が連れ戻しに行ったようだが、その日で二人の結婚はなくなったという。


【夫婦の誓いが、最速で解消された元侯爵家令嬢】


 盾を失ったアンメアリーは、披露宴会場での一件での建物破損の賠償命令に加え、罪に問われ、結局は家族と運命を共同することになった。


 人々の命を危険に晒しておきながら、結果として追放で済んだのは、元凶が【最強の大公様】と【数百年ぶりに誕生した神獣様】のせいだったからだ。


「陛下から伝言がある」


 アイリスの目覚めをそばで待っていたのは、リッジソロミュー公爵だった。


「君の夫は、相手を追い込もうと楽しく活動、いや妻が巻き込まれたことなので夫である自分も手を貸そうと法廷や王城にて会議にも参加しているわけだが」

「事実を言っていいんですよ」


 信じられないが、ヴァンレックがかなりの力を持った噂の恐ろしい大公なのは、もう理解できている。


「うむ、まぁ……陛下がどうにか止めてくださっているから、夕刊で発表された以上の残酷なことにはならないだろう」

「もう気が済んだと思っていたのに、そうではなかったみたいですね。アリムもいなし」

「アリム様も、かなり気にくわないらしくてなぁ。まぁ狼の執着は厄介だからな。仕方がない」

「それ、以前ヴァンレック様にもちらりと聞きましたけど、なんなのですか?」

「至高の宝のように大切にすることだよ。何者だろうと手を出されたら容赦しないし、その狼にとって〝唯一の最愛〟だ」

「っ」


 国王からは、さすがは我が弟、証拠は何一つ出なかったうえ人を動かすのも得意な弟である。披露宴での騒ぎは罪を作るためヴァンレックが仕組んだので、アンメアリー嬢の暴走の件については参加した貴族たちをなだめて今回の罪にまとめた、と国王はリッジソロミュー公爵に言伝を持たせていた。


 ヴァンレックは、とんでもない人だったらしい。


 ヴァンレックがまいた餌にまんまと妹が食いついた。もしかしたら、あれほど酔っていたのも人を動かしたのか。偶然にしては止め役になりそうなライノーアル伯爵が一時的に席を外していたのも気になる――。


(まぁ、すごく有能な国王の右腕なのは分かったわ)


 終わったことを考えるのはやめた。そんなことよりも、アイリスはこれから帰ってくるヴァンレックのほうに興味が向いている。


 彼が本来持っている素質や有能っぷりが気にならないくらい、彼本人が大切でたまらならしい、とアイ

リスは自分でもすっかり理解していた。


(離縁、しないんですって)


 誰に言うわけでもなく、窓の向こうの夕焼け空を見て思う。


 アイリスの口元は緩んでいた。



 その後、ヴァンレックがアリムと帰宅して、見守りの役目を指示されていたリッジソロミュー公爵が彼に挨拶をして帰っていった。


 忙しい一日だったようだ。


 アリムはお腹が空いたと言って、早い夕食を取りながらアイリスは話しを聞くことになった。


 まず〝神獣様〟は引き続きヴァンレックが育成するようになったそうだ。


 王家の獣化を持つ者の変身姿の大きさは、祖先である神獣と同じだという。成長の年数は神獣によって異なるが、つまりアリムもあのサイズの狼になるのが目標になるらしい。


 そうなれば、誰も手だしができない。


(今もとても強いと思うけど、そうではないのね)


 アリムには引き続き〝狼〟の加護がいる状態だという。


 一日でかなりのことをしてきたから、エティックローズ侯爵家のことや妹のことなど、語られている間には夕飯を終えていた。


(彼、本当に隠し事ができない誠実な人ね)


 お飾りの妻にするつもりがないので共有したい気持ちは分かる。


 それなのに披露宴ではあんなにうまく笑顔で隠し、部下を使って動いたのだから、彼の二面性には尊敬さえ抱く。


「シーマスたちと計画を進めたんだが……隠していたこと、怒ってるか?」

「いいえ、怒っていません」

「でも質問もないなんて」


 すっかり夜になっていた。リビングでヴァンレックが焦ったようにそう言った。


 替えの紅茶を前に置いたブロンズは、何か言いたげな目をしたが、主人に口を出さないことを決めたように下がる。


「質問がないのは、ヴァンレック様がすべて語ってくださったからです」

「それとも嫌になったとかっ?」

「僕のこと、もう可愛くないの!?」

「不安にさせちゃってごめんね、アリムはとっても可愛いわよ」


 アイリスは、膝の上に乗せたアリムの頭を撫でた。


 隣に座ったヴァンレックが身を乗り出す。


「俺は、もう可愛くないと……!?」

「ヴァンレック様、落ち着いてください」


 アイリスは疑問符を頭に浮かべ、ひとまず言った。


「いや、もしかしたら余計なことをしたのかもしれないと心配に――」


 ブロンズが目と仕草で合図してくる。


 頭を撫でろ、と。


 不思議に思いつつアイリスがヴァンレックの頭に手を置くと、挙動不審に早口で何やら喋りまくっていた彼が、途端に静かになる。


(何これ、可愛いわ)


 褒められたかったのだろうか。


 それとも、アリムに対抗して……?


「失礼じゃなければ、もっと撫でますけど」

「撫でてくれ」

「なんて早い返答」

「アイリス! 僕も自分でしがもみつくから、撫でてっ」

「ふふっ、はいはい。二人とも、今日はお疲れ様」


 とにかく、とアイリスは手を動かしながら言葉を続けた。


「二人がしてくれたことにはすっきりしたわ。まさか悪女の悪評もどうになってしまうなんて、思ってもみなかったことですし」

「そもそもアイリスは悪女ではないだろう」

「え?」


 アイリスは本気で驚いてしまった。


「……な、なんで、いつ?」

「そんなこと、接していれば分かる。ブロンズも含め、ほとんどの者が君と過ごして早々に変だと気付いたと思う」

「アイリスは悪い人じゃないよ! 心がとっても綺麗で、僕、安心できたんだもんっ」

「まぁブロンズと騎士団は知っていたから、アリムの反応も参考にしたのかもしれないな。俺はアイリスのことばかり考えて、そこまで気が回らなかった」

「えっ」


 急に空気が変わった気がして、アイリスはじわーっと熱くなった。


「あ、あの、ヴァンレック様、そういえば気絶する前……」

「ああ、俺は君が好きだ」

「っ」


 微笑みかけてくるヴァンレックの目に、迷いはない。


「そ、そんな簡単に言えるものなんですかっ?」

「一度口にしたら、開き直った」

「普通開き直れるものではないかと……」

「不安がなくなったからな。願ってはいたけど、君も、俺から離れられなくなったんだろう?」


 アイリスは、しば記憶を手繰り寄せる時間を要した。


 数秒後、思い出して真っ赤になる。


(――そ、そういえば言っちゃったんだったわっ)

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