第3話:大往生が理想
初心者です。よろしくお願いします。
いやー、夢で死んだら汗びっしょりで飛び起きるとかいうじゃん。でも俺は朝は爽やかな気持ちで目覚めたい派だ。いくら目覚めるためとはいえ、ワイバーンに喰われるとか絶っっっっっっ対に嫌だ!
旋回していたワイバーンは急降下して俺の近くを掠める。なす術もなく転がる俺。何とか立ち上がり、無我夢中で駆け出す。どこでもいい、逃げなくては。なりふり構っちゃいられない。
また突風。受身なんて知らない。地面にぶつけた右肩が熱い。日頃の運動不足を呪っても仕方ない。煽られて転んだ。立ち上がって走り出す。喉の奥が鉄臭い。息をする度に肺が痛い。転がされる、立ち上がる、走る。転がされる、立ち上がる、走る。転がされる、立ち上がる、…
…チクショウ、このトカゲ野郎、俺で遊んでやがる!心の中で悪態をついてはいるが、顔面は涙と鼻水で酷いことになっている。死にたくない!死にたくない!死ぬなら孫やひ孫に囲まれて、俺の手を嫁さんのしわくちゃの手に握ってもらって、安らかに死にたい!
足がもつれる。もう立てない。それでも指で地面を掻いて、少しでも前へ、…行かせてはくれないようだ。蹴飛ばして、転がして、よりによって仰向けにしてからワイバーンは俺の腹を足で押さえる。もうよくない?そろそろ朝じゃないのかなぁ!耳がバカになりそうな間近での咆哮。うっわワイバーンの息、なまぐさっ。…くさい?におい付きの夢なんて、俺は知らない。
もしかしてこれ、夢じゃない?
気づくの、いや、信じるのが遅すぎた。さっさとステータスオープンでもなんでも、言ってみれば良かったんだ。そしたらなにか違っていたかもしれない。俺が死んだらきっと兄ちゃんは悲しむ。何だろう、思い出が脳裏を駆け巡る。これが噂の走馬灯か。甲斐 新、30年の短い生涯に…
ヒュッ!
…まだ幕を下ろさなくても良かったみたいだ。目の前に迫る大きく開いた口が、不自然に視界の外にスライドし、重たい物が地面に落ちる鈍い音。一瞬遅れ降り注ぐ、先ほどまでワイバーンの体を巡っていたはずの、温かい、それを全身に浴び、新の意識はそこで途切れた。
薄れゆく意識の中、新はしっかりと聞いていた。「久しぶりの肉じゃああああ!」という声を。
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