第14話:第一歩
「いや、字が書けるだけで十分ですよ。半分以上の冒険者希望者は代筆ですからね。」
「それが恥ずかしいなら、次のランクまでに字の練習をすりゃいい。同じように魔道具使ってタグ作るからな。」
「レイモンドさん!俺、もうちょっとカッコよく書き直したい!」
「だめだアラタ!お前も俺と同じ気持ちを味わえ!」
そう、俺の字もディヒトと似たようなもんだった。もうちょっと子どもっぽいとでもいうのかな。初めて書いてみた文字は、町中で見てきたよりもたどたどしさを感じる線でできていた。日本語なら!日本語ならそこそこきれいな字に自信があるのに!硬筆三級持ってるんだぞ!
「うるさいお前ら!コツコツやれば必ず銅級にはなれるんだから、やり直しはなしだ!レイモンドに説明の続きをさせろ!」
語調を強めたザック。なんかこう…高校の時に超怖かった生徒指導の先生と雰囲気が似ていて、本能的に逆らってはいけない気持ちになった。居住まいを正し、テーブルから離れてザックからちょっとだけ離れて立つ。ディヒトも大人しく座り直す。
俺たちがあっという間に静かになったのを見て、苦笑するレイモンドさん。
「はい、それじゃあ今ディヒトさんのタグに記録されている情報を見てみましょう。」
レイモンドさんが魔道具の箱部分を何やら操作すると、タグの下の方についていたガラス玉のような丸い石から、立体映像が表示されるみたいにA5くらいの白っぽい板が垂直に浮かび上がった。まるでRPGのステータスボードだ。いや実際、ステータスボードか。
左上に「ディヒト」と名前が表示されている。その隣に…これは冒険者ランクだな。どうやら俺たちの反対側の面にも同じ内容が表示されているらしく、レイモンドさんが言葉を続ける。
「一番上にディヒトさんの名前が表示されています。名前の隣は冒険者ランク。登録したてですので、鉄級になっています。それと、登録ギルドの所在地ですね。名前の下には年齢と種族、加護の有無が表示されます。」
「おお、俺にはヌース様の加護がついていたのか!父と同じだ。」
「ヌースって?」
俺の疑問には、ザックが答えてくれた。
「知性や理性を司る精霊だ。人をまとめたり、商売をやってるやつにヌースの加護がついていることが多い。ディヒトもこう見えて一応、族長の息子だからな。素質があるんだろう。」
え?ディヒトってどっからどう見ても脳筋だが。そしてあんな人間離れした動きをしておいて人間だったのかディヒト。
「その下の色付きの線は太さで魔力の量、色で魔力の傾向を表しています。すでに取得した称号やスキルがあればその下に表示されます。
ディヒトさんは線の太さから見ると魔力量は一般的です。緑が一番長いので、風の属性が強く出ているようですね。次に赤、火属性に適性があるようです。青は水属性、茶が土属性ですが、魔力量からみるとこのふたつは生活魔法に必要な最低限くらいの適性ですね。スキルは身体強化、馬術、双剣術を身に着けておられますね。草原の民の方ですし、冒険者としては前衛向きでしょうか。」
レーダーチャートかと思いきや、帯グラフみたいな表示が魔力の表示になっている。緑の他、赤、青、茶が見える。よくある四大属性なのかな。
「冒険者ギルドの受付に置いてある魔道具では、この他直近20件の依頼の達成状況や銀行に預けたお金などの情報を見ることができます。銀行に預けてあるお金はタグを使って移動ができますので、タグさえあれば買い物ができますが、残金を意識せずに失敗する人が後を絶ちませんので、ディヒトさんもアラタさんも気を付けてくださいね。…ではディヒトさん、こちらをどうぞ。」
魔道具の光が消え、レイモンドさんはタグをトレーに乗せてディヒトの方へ差し出す。ディヒトはそれをすぐ首にかけ、指でつまんで目の前でしげしげと見ている。カードとかのタイプだったら失くしそうだし、タグで良かった。さて、ヌフに入る前にプライベートモードONにした俺のステータスはどんな風に表示されるのだろうか。「アラタさん、どうぞ。」という声に、ディヒトと交代する。
魔道具に手を置くと、一瞬体の中を何かが通り抜けたような感じがした後、紙が光り、俺のへたくそな字が鉄のタグに刻まれていく。ちょっとぞわっとしたな。そしてステータスが表示される。アラタ・カイ、鉄級、15歳、人間。赤、緑、青、茶の他、白と紫。なんだ、属性って結局6つあるのか?線の太さはディヒトの5倍くらいある。
「アラタさん、15歳だったんですね。ディアスタの加護があります。クリーンだけ修得されているというのは珍しいですね。魔力量もかなり多いようですし、すべての属性が均等に出ていますので、一度きちんと魔法を習うか、しばらく様子を見て方向性を考えた方が良いかもしれません。」
え、どういうこと?後ろで立っているザックの方を見る。
「そうだな、魔法使いとしての素質はある。…どころかすげえある。だが、あれもこれもで器用貧乏になっちまうとせっかくの才能がもったいないからなあ。しばらく依頼は休むって言ってたし、ちょっとルークに面倒みさせてみるか。」
「ルークさんなら心配ないですね。断られたら別の方法もありますし。ではアラタさん、こちらをどうぞ。」
レイモンドさんの差し出すトレーの上のタグに手を伸ばす。これで俺も冒険者の仲間入り。異世界で根付いていく第一歩だ。身分を証明するものができたというだけで、ほんのちょっと安心できる気がした。
「さて、登録もできましたし、お部屋に案内しましょう。」
レイモンドさんに連れられて見せられた部屋は4人部屋だった。今は俺とディヒトの二人で使えるが、これから誰か新人が入ってきたら相部屋になるそうだ。一応、登録してから1年は格安で借りることができるそうで、1週間で小銀貨1枚。暦も日本とほぼ同じだったので、わかりやすくて助かる。
ザックはいったん帰って息子さんに話をしてくれるらしい。良い奴だなザック。
とりあえず最初の4週間の宿泊料は後払いで良いそうなので、ザックが戻るまでの間、掲示板に依頼を見に行って当面の方針の参考にしようということになった。




