第10話:それいけ領主館
ザックに連れられて領主館を目指す。ヴィントは軽快な足取りだが俺は落ちないよう必死だ。さっきまでより少し早いだけなのに、落ちないようにするのがこんなに難しいとは。解せぬ。
「アラタ君、だっけか。馬に乗ってる間は返事しなくて大丈夫だ。領主様に知らせは出してあるから、着く頃には向こうの準備も整ってるだろう。
草原の皆は穴とやらに全員呑まれちまったで間違いなさそうだな。ディヒト、なぜお前らは無事だった?」
「俺もさっぱりだ。早く起きたからヴィントと散歩に行って、戻ってきたら大穴だ。アラタは川の近くでワイバーンに喰われかけてた。テントの中にいたらダメだったろうな。」
ディヒトは嘘を一個も言わずに俺のことをうまくぼやかした。打ち合わせ通りとはいえ、なかなかやりよる。
実際、ディヒト達がいたところの近くに川はあったらしく、最初は森方面に行っていたディヒトは途中、川を下ればどっかの町にいつかは着くんじゃね?と気付いて引き返し、川沿いに進んでいたらワイバーンを見つけたとのこと。
「ワイバーンがこの辺にいるのもおかしい。そのせいで他の動物を見なくなってたのかもな。
…二人には調査隊に同行してもらうことになるかもしれない。」
本当は子どもは連れて行きたくないんだがな、というザックはすごく良い奴なんだろう。だが俺は子どもじゃねぇ!
「おっちゃん、俺たち今日はギルドにも登録したいんだ。できるか?」
ナイスだディヒト。ギルドへの登録はディアスタが勧めていたんだから、やっておかないと。
「あーそうか、これからの事を考えたらとりあえず登録しておいた方が良さそうだな。
今日中に行けるかどうかはわからないが、俺がだめでも連れて行ける奴を手配してやろう。」
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きっと爆速で行かなかったのは領主側の準備のためと、「やばいことがあったかもしれないぞ!」と町の人たちに知られないためだったんだと思う。
道中ザックは町の人からめちゃくちゃ声を掛けられていた。慕われている感じだ。俺たちのことを聞かれると、「草原のロースのとこのが初めて来たんで顔見せだ。」と言っていた。ロースとはディヒトの父親の名前だそうだ。
ディヒトの父親と顔見知りの人もいたらしく、ディヒトは母ちゃんに似て良かったなと言われたりしていた。父ちゃんどんな顔だよ。
体感では20分か30分くらいで領主館に着いたが、俺の尻は限界を迎えていた。足も痛い。絶対筋肉痛だ。視線が高くなって、最初は楽しかったが。車もバイクもなさそうだし、そのうち乗馬できるようにならないと長距離の移動って難しいんじゃなかろうか。
「ほら、こっち来い。頑張ったな。」
ザックに降ろしてもらっている俺を、ディヒトがニヤニヤしながら見ている。そう、俺は完全に子ども扱いされていた。人から優しくされるのは嫌いじゃない。だが、こういうことではない。
「ザックさん、ありがとう。でも俺、子どもじゃないから大丈夫。」
「そうかわかった。じゃあこの後の話し合いも頼んだぞ。領主様はそんなに怖くないから。」
…ザック絶対わかってねぇ!
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頑丈そうな壁に囲まれた、品が良くも威圧感のある建物。素人の俺が見ても、有事の際を想定して作られたことがわかる頑強な作りのそれが、ヌフの領主の住まう館だった。
領主様の名前はライゴウといい、伯爵位を持つ貴族だそうだ。ヌフという町は面積だけで言ったら伯爵様が治める規模ではないんだが、領内にダンジョンを有し、隣国との境界に位置した交通の要所で、もちろん貿易も盛んに行われている。そのため、普通の伯爵よりも強い権限を持っているそうだ。成程、辺境伯ってやつか。ラノベで超見た。ちなみにライゴウ様は御年六十八歳のおじいちゃんだそうだ。
社会人経験があるとはいえ、領主なんて地位の人に会うのは緊張する。謁見っていうんだっけ。小心者の俺としては、領主様の機嫌を損ねて処されるんじゃないかとビビっている。だって貴族がいる世界だ。現代日本の常識が通じると思えない。
さっきからのザックへの態度を見るにディヒトの方が先にやらかしそうな気もするが、道中の会話から察するに、こいつは族長?的な人の息子っぽい。草原の民達と、ヌフの町の人たちの間で定期的に交流しているようだから、さすがにいきなり険悪になったりはしないだろう。…しないよな?
ザックはディヒト達の一族のことをよく知っているようだし、何かあったらフォローを期待しておこう。
そのまま行って良いとのことだったので、裸足のまま固い床をぺたぺた歩く。見るものすべてが珍しい。きょろきょろしたい気持ちを抑えて歩いていくと、ザックは重厚な扉の前で立ち止まった。ノックして声をかける。
「ライゴウ様、先程報告したものを連れてまいりました。」
「待っていたよ、入りなさい。」
すぐに開かれた扉から、良く通る声が俺達を迎えた。
ぼっち飯を応援してやってもいいかな、と思ってもらえるような文章を書けるよう頑張ります。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。ではまた来週土曜日に。




