「弱いんだから囮ぐらいやってくれ」とSSSランクパーティーを追放された俺、闇堕ちした結果取り残されたダンジョンで新スキル「バーサーマジック」を手に入れてしまう〜何が来てもどうせぼっちだし英雄死目指す〜
駄作です。なろうのタイトルの限界百文字を攻めよう!という友達とのノリで、タイトルから書き始めました。ゆえに、タイトルは百文字です。
課題に追われながら数日で叩き書いたのでクオリティはお察しですが、それもまた一興ということにしてお楽しみください。
なろうテンプレ背負い投げ、というやつです。
「ミラクルエンチャント・ブリザード!」
「ビーストコマンド・アタック!」
奇妙な呪文の後、爆発音や咆哮が洞窟に響く。レヴァージュ・ダンジョンでは当たり前の光景だ。
「ヒーリングパワー・ルミナス!」
回復の声すら。
「我ら、SSSランクパーティー・ウィンディア!」
チームの掛け声すら。
奇怪で独創性しか褒めるところの見当たらない、しかし完全に定義づけされ暗記されただけの魔法の言葉なのだ。
そして。
もし、魔法の言葉から外れる言葉があるとするならば。
「ちょっと、実力が見合ってないと思うんだ」
「貧相な剣術のお前なんか、何の役にも立たないんだよ」
「ランジ。お前を、SSSランクパーティー・ウィンディアから追放する」
それは当然、魔法を解く言葉なのだ。
「⋯今まで、ありがとう」
嘘でも皮肉でもなかった。彼らには感謝していた。フリでもなんでもなく俺の実力は低かったし、いつ追放されても仕方ないと覚悟を決めてSSランクから転職したのだから。
「お前にはお前の活躍できるとこがあるさ」
「元気でね!」
魔法が解けても、言葉は優しかった。
「ワンチャン、欲しくねえの?」
「え?」
「今からもっと奥に潜って、役に立ったら……さ」
「…………」
優しい言葉たちとは裏腹に、それは危険な誘いだった。最強格だが性格の良くない、大柄な男の言葉。
乗るなと、断れと、理性は訴えていた。しかし、俺の野望は浅はかにも無駄に強くなっていて、そして、理性を簡単に凌駕した。
「ワンチャン、欲しい」
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果たして、やって来たのはドラゴンの巣窟に他ならなかった。
あとはもう、想像通り。
「囮…………俺、あれとまともに戦えるほど強くはないんだけど…」
「知ってるさ、弱いのは。だからこそだ。弱いんだから、囮ぐらいやってくれ」
そして、暴走したドラゴンは、俺をここに連れてきた数人の仲間たちを本気で襲い、そして。
「逃げろ!」
「ランジは?!」
「もういい!!!どうせ死ぬ!!!」
「もう仲間じゃないだろどうせ!!」
「いやだ!俺はランジと帰りたい!」
「お前をランジなんかのために死なせるわけにはいかないんだ!!!」
俺は、五体満足で、ちゃんと生きていた。小さな横穴を抜けて、枝分かれした迷路に逃げ込んで。我ながら、無様で堅実な逃げ方だ。
そして、彼らの声もちゃんと届いていた。
ドウセシヌ モウナカマジャナイダロ ランジナンカノタメニ
意味を飲み込みたくなかった。
彼らが仲間を大切に思うからこそ、飛び出た言葉だったのだろう。かっこいい、本気の言葉だった。しかし、俺にとっては、お前はもう仲間ではないのだと突き放してくる暴言でしかなかった。
囮にさせられたこと。置いてけぼりにされたこと。いらないと言葉でも態度でも教えられてしまったこと。
その全てが憎くて、悲しくて、でも、自業自得であるから責めきれなくて。
嘘だ。
本当は、追放もされたくなかったし、危機感を抱きながらもなんだかんだ大丈夫だと思っていたし、最後にはきっと救われると思っていたし、望んでいた。
本当は、俺を置いていくどころか最後に最低な言葉を吐きやがった奴らが嫌で嫌で仕方ない。
けれど、それ以上に、寂しくて。ほんとうは、不安で狂いそうなのだ。
優しい賑やかさがないこと。人間の声はせず、暗所かつほぼ閉所であること。
仲間だった奴らが、自分を「大勢のパーティーメンバーのうちの一人」としてしか見てくれていなかったこと。そんな関係性すらぶつりと断たれてしまったたこと。簡単に見捨てられたこと。俺と帰りたいと言ったやつが、一言言い返されただけで諦めたこと。
血反吐の出るような努力も、治したはずの人見知りと会話下手も、固有の剣術スキルも、全部、全部、全部、認められはしなかったこと。
見慣れた暗闇が、一人になると途端に怖くて、寂しい。誰か、俺の隣にいてほしい、俺を仲間だと、俺を必要としていると、そう言ってほしい。
力が欲しい…………誰にも置いていかれない、いや、誰かを引っ張れるくらいの。
否、ただ強いだけでは、それだけではまた見捨てられるだろうか。そうしたら、また、諦めなければいけないのだろうか。それならば………
きっと、気が狂い始めていたのだろう。立ち上がり、誰に向かってか、叫ぶ。
「力をくれ!!俺に!!!」
思い切り、息を吸って。
「永遠に覚えていてもらえるほどの力を!!!」
片時も忘れ去られないこと。常に認知されること。それこそが俺の願いとなり、そして―――このときは、気がついていなかったのだが―――それは、俺の魔法の言葉になっていた。
「……誰も、聞いてないよな」
耳を澄ましても、ドラゴンの咆哮がまだ聞こえるだけだ。
【力を、与えよう】
「!!!」
声。頭の中に響いてくる。聞いたことのある声だ。始めて、スキルを習得したときに聞いた。
声は、言葉を続けた。
【破壊と、暴走の力を、お前に授ける】
「……」
それは、希望のような気もしたし、絶望のような気もした。
「それは……だれかに、ついてきてもらえる力なのか?」
声は答えない。そういうものとして受け入れるしかないのだろう。
「なあ!!教えてくれ!それは誰かに愛してもらえる力なのか!?」
わかっていても諦めきれず、半ば喚くように問うた。
【バーサーマジックと唱えよ】
答えは、それだけだった。
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スキルを与えられたとき、使用者にその詳細は何もわからない。この世界の理だ。
だから、唱えるしかないのだ。怪奇な、短い呪文を。
その短過ぎる魔法の言葉に、命運を、願いをかけて。
躊躇ったのち、
「バーサーマジック」
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気がついたときには、ドラゴンと、その他複数の死骸が転がっていた。人間はいなさそうだ。
それなら、よかった……
「っ?!ぐっ………っ……」
息が、苦しい。しゃがんで耐えようとし、直後、激しい頭痛と腹痛に襲われ、うずくまった。
なんだ。これ。痛い、痛くて熱い。深い傷が多すぎる。これが、破壊と暴走の力?苦しい、息がうまくできない。
数分か、数十分か。呼吸はいくらか楽になってきて、痛みにも慣れてきたから、ようやく頭が回るようになってきた。
きっとこれは、あのバーサーマジックとかいうスキルのせいなのだろう。発動中意識を完全に失うことで、危機感、恐怖による行動制限やリミッターを外し、限界を超えるといったところか。文字通りバーサーカーとなれるスキルだな。
俺は、どんな風に戦ったのだろう。俺は、どのような姿で戦ったのだろう。
俺の初めての姿を見たものは、ドラゴンと魔物しかいなくて、どれも死んでいるのか。見るも無残な姿で。
「酷いスキルだ……でも、これだけ強ければ、色んな人を守れる………」
そして、覚えてもらえる。認めてもらえる。きっと。
幸せなことを考えると気が緩む。疲れが襲ってきて、意識が遠のいた。一度、休もう。今ならここで休んでも、怒られはしないはず……
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二年後………
『 号外・暴走の覇者ランジ、次は一人でSSSランク魔獣に挑戦か?!その恐怖のスキルの真髄を徹底考察!!』
「ランジってさ、もうあれ、人間じゃないよな」
「誰も戦ってるところ見てないらしいよ。っていうか、見たら殺されるんだって…」
「ランジ様々だな………ああ、わかってるよ。俺たちも彼の邪魔にならない程度にさ、チームで頑張ろうぜ」
「あの人すごいよね!一人であんなの倒せるなんて…!いや、ムリムリ、強すぎて怖いしお近づきになんか」
「いやーすごいよね」
「僕らは僕らなりに協力して頑張ろうよ」
「憧れはしないよ。遠すぎるもん」
俺の世界は、一変した。
俺は、たしかに、多くの人に覚えられたのだ。忘れられない存在になったのだ。
ひたすら一人で戦う狂った男として。怖すぎて近寄りがたい冒険者として。パーティーの誘いなんか絶対できない奴として。
天災のように、魔法のように、獣のようにあることで。スキルに頼り暴走し、大怪我をして帰ることで。認められ、記憶されるようになったのだ。
望んでいたけれど、違う。もう、どうしたら良いのか分からない。
けれど、「暴走の覇者ランジ」としての名声と噂と承認は、簡単に捨てられる量でも質でもなかった。
次の相手は、SSSランク魔獣、デスシャングリラ・バットだった。
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「お前が、デスシャングリラ・バットなのか」
魔獣は答えず、不愉快そうに羽根をはためかせる。それだけで大量の毒ガスが舞う。
「……………………」
コウモリの形をした巨体から放たれる咆哮。衝撃波となって、壁を大破させた。
「なあ、言葉なんかわからないと思うけどさ…俺を殺してくれないか」
それが、今の俺がSSSランクに挑む理由の最たるものだった。
あんな覚えられ方をするなら、生まれ変わって平凡に愛されたい。
今回だって、生きて帰れば怖がられるが、帰らぬ者となれば死ぬまで戦った英雄となれるのだ。
これが叶ったことはないけれど。それでも一縷の望みをかけて、今回も、魔法の言葉を呟く。
「バーサーマジック」
最後まで読んでいただきありがとうございました!