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第2話 姉アヤネの場合

 それが恋だったと気づいたのは、私が中学二年の時だった。

 弟の親友ってだけの男の子。そう思っていたのに、別れはあまりにもつらくて。


「トモくんのこと、絶対忘れないからね!」

「アヤネちゃん――」


 目の前で閉まる電車のドア越しに、潤んだ眼差しが私の胸を射抜いた。

 ガサツで乱暴だった私を、唯一女の子扱いしてくれたトモキくん。

 彼がどれだけ私を大切に想ってくれていたか、私は初めて知ったんだ。



  *



 そして今。

 転勤で舞い戻った地元の職場で、トモキくんと再会した。


「久しぶりだね。私のこと憶えてた?」

「はい。ナオトから話は聞いてたので」


 十年ぶりに会った彼は、どこか素っ気なくて、私と過ごしたあの頃のような人懐っこさはすっかりなくなっていた。

 寂しかった。普通ならここですっぱり諦めたり、気持ちが冷めてしまってもおかしくないんだろうけど。


「カギの場所はここです。あとファイルは俺が戻しておきますんで。ほかに気づいたことあったら遠慮なく聞いてください」

「ありがと。まだ不慣れだからすっごい助かる」


 あどけない少年から、私好みの青年に成長したトモキくんを、私は諦めきれずにいる。


 実を言うと、私の気持ちが途切れなかったのは、弟のナオトのせいもある。両親が離婚した後も地元に残ったナオトは、親友であるトモキくんの様子を、私にも逐一報告してくれていたのだ。


『異動募集? いいんじゃない。姉さんはこっちに土地勘あるんだし』


 背中を押してくれた弟に感謝しつつ、私はトモキくんとの距離を探っていた。


「もし迷惑じゃなかったらだけど、トモキくん家に料理作り行こっか?」


 お弁当とか通り越して、いきなり家かよ。


 うん。我ながら重たい女だ。充分自覚してる。

 幼なじみへの恋心をいまだに引きずっているだなんて、友だちには相談できっこない。我が弟だけが頼りだ。


『男は頼られると喜ぶ生き物だよ、姉さん』

『あいつ一人っ子だし、意外と寂しがりやだからなぁ』


 ナオトのアドバイスに従って接するうち、トモキくんもだいぶ私に心を開いてくれたように思う。


「こないだ言ってたお店気になってるんだけど、トモくん案内してくれない?」

「いいですよ。いつにしますか? 俺、アヤネさんの都合に合わせます」


 攻めの姿勢だ、私。子どもの頃を思い出せ。



  *



 ナオトの助けもあって、私はトモキくんとの関係を少しずつ縮めることができた。

 今ではお互いの部屋を行き来したり、一緒に外での食事も頻繁にしている。


「今日は奢ってくれてありがと。いいお店だし、高かったでしょ」


 そう言った私に、トモキくんは曖昧に答えながら、不意に足を止めた。

 私を見つめる彼の眼差し。憶えてる。あの時と同じだ。


「アヤネさん、俺はずっとあなたのことが――」


 てらいのない真っ直ぐな言葉が嬉しかった。

 だから今、私は彼の告白に応える。


「トモくん、私も君のことずっと――」




〈つづく〉

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