第1話 親友トモキの場合
それが初恋だと気づいたのは、俺が中学一年の時だった。
なのに、別れはあまりにも突然で。
「トモくんのこと、絶対忘れないからね!」
「アヤネちゃん――」
好きだ。
その一言が告げられないまま、一つ年上の彼女は遠くに行ってしまった。
*
そして今。
俺の職場に異動してきたアヤネさんと再会した。
「久しぶりだね。私のこと憶えてた?」
「はい。ナオトから話は聞いてたので」
ナオトは俺の親友で、アヤネさんの弟だ。十年前に二人の両親が離婚して、ナオトは父親と地元に残ったけど、アヤネさんは母親について引っ越して行ってしまったのだ。
その間もずっと好きだったなんて、もし知られたらキモがられるよな。
だから、俺はアヤネさんとは平静を装って接し続けた。
平静を――
「ちょっと、トモキくん。ここの入力また間違えてるよ」
「す、すみません! すぐ直します!」
――装えてなかった。大人になったアヤネさんが、あまりにも素敵すぎたから。
実を言うと、ナオトからは時々アヤネさんの写真を見せてもらっていた。中学、高校、大学――そして社会人になった彼女の姿も、俺は知っている。
だけど、実際に顔を合わせたら、あの頃のように自然体ではいられなかった。
「最近疲れてたりする? 普段はこんなミスする人じゃないって、みんなから聞いてるけど」
俺はしどろもどろになって、適当な理由をでっちあげた。一人暮らしで栄養が偏ってるのかも、とか言い訳をしたかもしれない。
「もし迷惑じゃなかったらだけど、トモキくん家に料理作り行こっか?」
またとない申し出だった――俺がもっと自分に自信のある男だったなら。
「でも、部屋散らかってるんで……床とか、いろいろ」
「床? 抜け毛とか落ちてても私、別に気にしないよ?」
アヤネさんは美人だし、男慣れしていても不思議じゃない。それに、俺は彼女にとって単なる弟の友人ってだけの存在なのだ。
「悩みあるなら聞かせてよ。私じゃ頼りにならない?」
だとしても、ほんの少しでも望みがあるのなら。
*
それから俺とアヤネさんは、お互いの部屋を行き来したり、外で一緒に食事をする仲になった。
もちろん、俺一人の力じゃここまで上手くは運ばなかったろう。頼れる親友、ナオトの助言があってこそだ。
「今日は奢ってくれてありがと。いいお店だし、高かったでしょ」
取り繕わずに本音でぶつかればきっと叶う。そうナオトは背中を押してくれた。
だから今日、俺は告白する。
「アヤネさん、俺はずっとあなたのことが――」
〈つづく〉