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第1章 都市伝説は“見る”ところから始まる

【1】都市伝説の夜


「関西にある“右足の神社”って、知ってます?」


Mr.都市伝説の大ファン――

酔っ払った後輩が、ゼミ帰り、終電間際の居酒屋で、ふいに言い出した。

照明の薄暗い隅っこ。酒と煙の混じった空気の中で。


「右足……?」


「山奥に、右足だけを祀った祠があるんですよ。参拝すると“右足が軽くなる”らしいんですけど、帰り道では“左足が重くなる”って。

何度も通ってると、最終的には、左右の感覚がなくなるらしいんです」


「……まさか、祠の下に右足が埋まってたりしないよな?」


「それは……」

後輩は小さく首を傾げて、枝豆を口に運んだ。


「それ、都市伝説ってやつ?」


「そうそう」


「おまえ、前からそういうの好きだったもんな」


俺は、ほっけの骨を小皿に吐き出した。


「……でもね。これ、完全にド田舎の話で、地元の年寄りしか知らないらしくて。ネットで調べても、祠の場所すら分からないんですよ」


「へぇー。……てか、都市伝説のくせに、都市じゃねえな」


「ああ、如月先輩。“都市伝説”って、もともと“現代社会で広まる未確認の噂”って意味なんですよ。

都会に限定されてるわけじゃなくて、むしろ田舎のほうが本物っぽくて怖いものが多いって、よく言われてます」


「なるほどね……でもさ、右足の神社って地図に載ってないんだろ? じゃあ、どこにあるかも分かんないじゃん」


「……場所の分かる都市伝説、ありますよ。たとえば――犬鳴村」


「ホラー映画じゃん、それ」


「うん。2020年に映画にもなってる。“呪怨”の清水崇、知ってるでしょ?」


その目が、妙に真剣すぎて、少しだけ気味が悪かった。


「聞いたことはある。で、それって地図にはあるの?」


「はい。犬鳴は福岡の旧道にある“犬鳴トンネル”の先の話で。村そのものは地図に載ってないですけど、トンネルはGoogleマップにちゃんと載ってるんですよ」


ここで後輩はふと黙り込み、ハイボールを一口、ゆっくり飲んだ。


「……どした?」


「……あのですね、そこには……もう一個、やばいやつがあるんですよ」


彼が声をひそめた。


数秒の沈黙。

周囲の喧騒が、急に遠く感じられる。


「――そのトンネルを、深夜にストリートビューで見てると……青い線が、なぜか封鎖された先まで伸びてることがあるんです。

そして……見えちゃいけないものが、写ってるって」


「……マジかよ」


俺は笑って聞き流した――つもりだった。

だが、そのときの後輩の顔。


汗ばんだ額、わずかに震える声。

そして、じっと俺を見上げていた目。

……あれは、“何かを思い出していた”ような目だった。


その夜。

俺は布団に入っても、なぜか、あの話だけが頭から離れなかった。


――心なしか、右足も重い気がした。

まるで、何かが、じわじわと伝ってきているような。




【2】夜中2時のストリートビュー


その日――午前2時。


蒸し暑い夏の夜。

扇風機が、止まりそうな音を立てながら、部屋の空気を撫でている。


眠れなかった。


気がつくと、俺はGoogleマップを開いていた。


真っ暗な部屋。

ディスプレイの白い光が、じわりと顔を照らす。


「……犬鳴トンネル」


福岡県、宮若市。

旧道をたどっていくと――画面上に、青い線が現れた。


「……えっ、マジか」


本来なら、封鎖されているはずの道。

その先に、なぜかストリートビューが“伸びている”。


クリック。

画面が切り替わる。


ひび割れたコンクリ壁と落書きだらけのフェンス。

湿気とカビのにおいが、画面越しに鼻腔をくすぐる。


クリック。


またクリック。


――そのたびに、まるで“何か”が、こちらに向かって一歩ずつ近づいてくる気がした。


と、その時――


画面(ストリートビュー)の奥に、何かが立っていた。


……その瞬間、扇風機の回転が、一拍、止まった気がした。


ノイズ混じりの画像の奥――

黒い影のような“人型”が、背中をこちらに向けて、じっと立っている。


服のシワも、髪の毛も、顔の造作も見えない。

ただ、“黒い輪郭”だけが、そこに沈むように存在している。


――カチャ。


「……え?」


クリックしていないのに、画面が勝手に切り替わった。


次の瞬間――


“その顔”が、こちらを向いていた。


いや、体の向きはさっきと同じまま。

首だけが、不自然にねじれて、真後ろを向いている。


その顔は、真っ白だった。

目と口だけが、黒く、穴のようにぽっかりと開いている。


画面越しに、“俺の目”をまっすぐ見ていた。


「合成……じゃないよな……?」


――いや、違う。


静止画のはずなのに、

その視線だけが、わずかに“揺れた”ように感じた。


マウスを持つ手が汗ばんで、すべる。


――何かが、こちらに近づいてきている。

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