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ポッキー

作者: masanus

同じゼミの吉永さんという女の子は、学部の違う彼とよく旅行に行っては、お土産を買ってきてくれる。成績優秀なカップルでふたりとも二年でほとんどの単位をとり終わり、必修の授業を少し残すだけとなっていて、アルバイトしてお金がたまると旅行。三年の後半になったら就職活動や卒研で忙しくなるから今のうちに学生生活を思う存分満喫して、思い出をたくさん作るの、と笑った彼女のことをわたしは羨ましく思っていた。

ゼミで卒業研究の下調べの発表会が終わったその日も、彼女が持ってきた紙袋の中身が机の上に広げられた。週末に長野に行ってきたというそのお土産の中でひときわ存在感を放っていたのがいわゆる「ご当地ポッキー」という、地域の名産をチョコ部分に使ったポッキーで、しかも20センチぐらいある大きなもの。パッケージには「Pocky 信州巨峰」と書いてある。


「わたし、これ売ってるとつい買っちゃうのよね。ポッキー好きだし」


彼女はそういって笑い、ゼミの仲間からも同意の声が上がった。みんなでお茶を飲みながら今までに見たこと、食べたことのある「ご当地ポッキー」の話題でしばし盛り上がったものだ。

また、彼女はお菓子作りも得意で、旅行に行っていない時でも、時折手作りのお菓子を持参してはゼミの男子学生を―彼氏がいるとわかっていても―喜ばせた。以前は、細長いプレッツェルを焼いてチョコをつけ、手作りジャイアントポッキーを披露したこともあり、それにはわたしも驚いた。


前期の授業が終わり、わたしはゼミの教授に変に気に入られてしまったがためにほとんど研究室で過ごすという寂しい夏休みを過ごすことになった。一方できっと吉永さんは彼と楽しく過ごしているんだろうな、と改めて羨ましく思ったものだ。


しかし、ある夜、帰宅しようと大学の門を出るときに、わたしも何度か見かけたことのある吉永さんの彼氏が別の女の子と親しそうに歩いているのを目撃してしまった。そのことを彼女に会ったときに言おうかどうか迷ったけど、


「就職活動や卒研の前の、最後の旅行に行くのよ」


とうれしそうに話しているのもだから、二人は大丈夫だと思って言わずじまいだった。



夏休みが終わる頃、吉永さんが彼氏と別れた、という噂を聞いた。ゼミではその確認もできないまま、彼女をそっとしておいてあげることにしていた。彼女は少し思いつめたような表情をしていたが、卒業研究や就職活動に打ち込み始めた。それは失恋の痛手を紛らわすためなのかも知れなかった。


ある日、研究室に行くと、吉永さんがすでに来ていて、パソコンに向かってデータを打ち込んでいる最中だった。キーボードの脇に箱に入った例の手作りポッキーを置いているらしく、それを左手にポリポリと齧りながら右手でテンキーを操作している。

なんとなく近くに寄って、


「わたしにも頂戴」


と箱に手を伸ばそうとした。ホワイトチョコらしき白いクリームのついたポッキーだった。


「駄目、これ、わたし専用だから」


静かな声だったが、何か異様な迫力を感じ、わたしはそれ以上近付くことができなかった。

机についてレポートを書きはじめたわたしの耳に、彼女がキーボードを叩くカタカタという音と、「それ」を齧るポリポリという音がいつまでも響いていた。


生臭い香りがした。

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