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サイバーパニックス  作者: 十文字霧
2/2

合格……?

「合格おめでとう! 生き残ったキミたちは普通科ではなく、VTuberの育成に特化した特進コースに進んでもらうこととなる」


 体育館に戻った校長から改めて合格の通達が成された。

 いや、どういう事だよ! ってのが大半の意見であり、それに気付いた校長が手をポンと叩き、補足し始める。


「先程のダンジョン化はデモンストレーションだったのだよ。突発的事象に遭遇することで、キミたちの中に眠っている才能を引き出そうと試みたのだ。どうだろう、楽しんでいただけたかな?」

「楽しいわけあるかぃ!」


 代表して俺が叫んだ。だってよ、校長が食われたシーンとかマジで生々しい感じがしたからな。あんなん二度と見たくねぇ……。


「フフ、それは失礼。だが先程のダンジョン化は実際に起こった現象をトレースしたものでね、5年前に各地で発生したダンジョン化現象は正にあのような感じだったのだよ。私としても同じ苦痛を味わわせるのは本位ではない。寧ろあのような現象が現実に起こりうるという事を脳裏に留めてほしいのだ」


 お陰でしっかりと脳裏に焼き付いたがな。


「しかし生き残ったのは4名だけか……」

「お言葉ですが――」


 校長による4名だけというフレーズに、ある男子生徒がムッとして噛み付く。


「ボクたちは何も聞かされてはおらず、本来ならあのまま入学式は終わりとなる流れであったはずです。寧ろ事前通達も無しに良く耐え抜いたと言うべきでは?」

「ふむ、そういう見方もあるか」

「それにですよ? 近年におけるダンジョン化現象は頻度が急激に落ちていると聞きます。そこへ来て強制的に別の学科に編入というのは(いささ)か納得がいきません」

「う~む……」


 言ってやったぞという感じで校長に指を突き付ける男子生徒。だが校長は冷静さを崩さず……


「やはり()()()()()しかないか。18歳未満には見せられないのだが、気にしてる場合ではなさそうだ」


 18禁? いったい何を見せようってんだ?


「よかろう、付いて来なさい」


 訳も分からず校長の後ろに続く俺たち。体育館を出て校舎に入るのかと思いきや、何故か裏側へと向かって行き、駐車場に待機していたスクールバスに乗せられると、どこかに向かって走り出した。


「こ、校長、いったいどちらへ?」

「都市部――つまり前線だよ」

「「「前線!?」」」


 5年前の侵略により、日本の都市部は軒並みダンジョン化してしまった。一度ダンジョン化するとそこのボスを倒す以外に戻す方法はなく、東京を始めとする都市の殆どは立入禁止区域となっているんだ。

 ちなみに首都機能は京都に移され、東京を解放するための戦いが日々繰り広げられているんだとか。

 そして俺たちが居るのは札幌郊外。つまり札幌の中心へと向かってるってわけだ。



 フィキーーーーーーン!



「ん?」


 外を眺めていた俺は不意に空気が変わったのを察知した。何がどう変わったかは分からないが、どこか不穏なものを感じたのは確かなんだ。

 すると俺が困惑しているのに気付いた校長が、現状を説明し始めた。


「ダンジョンに入ったのだよ。ここから先は既に安全ではなくなっている。いつでも戦えるよう各自アバターに切り替えておきたまえ」


 見れば運転席の校長は人狼へと姿を変えていた。


「ものはついでだ、今のうちに自己紹介を済ませておこう。私の名前は吉岡秀(よしおかすぐる)、ハンドルネームはジン。チャンネル登録者数は12000といったところかな? BattleランクはAランクだ。今後とも宜しく頼むよ」


 校長が話し終えると、次に魔術師の姿となっている例の男子生徒が挙手をした。


「次はボクが。ボクの名前は一条現ノ助(いちじょうげんのすけ)、ハンドルネームはイチゲンと名乗っています」

「イチゲン? まさか……」


 イチゲンという名前に覚えがある。確か謎解きゲームを主体に配信しているVTuberがイチゲンという名前だったはず。かなりの切れ者で人狼ゲームも得意にしてたっけな。


「あの謎解きのイチゲンか?」

「フッ、キミは知っているようだね。いかにも、そのイチゲンと思っていただいて差し支えないよ。ちなみにチャンネル登録者数は30000を超えた辺りだったはず。Battleランクは校長と同じくAランクさ。以後宜しくお願いするよ」


 道理でまとめるのが上手いわけだ。将来の有望株っつ~感じか? その割りにはコイツと一緒に生き残った奴は1人しか居ないようだが(←一言余計)。


「じゃあ次はウッチね。ウッチは三好輝(みよしきらら)、ハンネは猫柳香(ねこやなぎかおる)だよ~。キララでもカオルでも好きな方で呼んでね~。あ、BattleランクはCランクだよ~」


 でもってイチゲンと生き残ったもう1人がコイツだ。というかハンネの方が普通っぽくて草。しかもスリットスカートを履いた金髪エルフになってるし、何を考えてるかよう分からん陽キャJKってとこか。


「ついでに宣伝しとくけど、ウッチが開設したKIRARAチャンネルは登録者数600人なんだよね~。まだリア友とか家族しか登録してないっぽいから、皆もバンバン登録しちゃって~」


 そんだけいて一般登録者が0なわけねぇっつ~の! いったいどんだけリア友おんねん! いや、寧ろ親族が多いのか? 逆にスゲェわ!


「じゃあ私もいいかな? 名前は成宮友結(なるみやゆい)っていいます。ハンドルネームはレミエマです」


 わけあり美女の成宮か。黒いローブに翼を生やしてるという悪魔っぽい格好だ。


「こんな成りなのでよくギャップが凄いとか言われるけれど、個人的にはとても気に入ってます。チャンネル登録者は1500人くらいだったかな? あと……BattleランクはCランクです。宜しくお願いします」


 成宮も配信してたのか。まぁそれはいいとして、さっきから出てくるBattleランクってのは何だ? 聞き覚えのないワードだが。


「…………」

「どうしたんだい? 最後はキミの番だよ?」

「ほら、幅滝くん」

「ん? お、おう……」


 イチゲンと成宮に促されて我に返った。


「あ~、俺は幅滝亮(はばたきりょう)。ハンネはまだ考えてない。チャンネルも開設してないから登録者は0だ。Battleランクってのはよく知らない。まぁ宜しく」

「「「…………」」」


 全員が信じられないって顔で俺を見てくる。いやいや、自己紹介だろ? 何がいけなかった? ――あ、まさか!


「なんだよ、チャンネル開設してないのがそんなに悪いか? 別に配信そのものは義務化されてないんだし、個人の自由だろ」

「い、いや、そうじゃない、そのことじゃないんだ。ただ……」


 イチゲンが言いづらそうに眉間を押さえる。それほどかとショックを受けていると、校長が苦笑いを浮かべつつ助け船を出してきた。


「ハハッ、無理もないさ。BattleVTuberにとってチャンネル登録者数は生命線。ダンジョンフィールドにおいて生命力に上乗せされるのだからね」

「生命力に上乗せ? じゃあイチゲンとかは3万もプラスされんのか!」

「そういう事さ。だから世のVTuberは登録者数を気にする」


 純粋に収益にも直結するのもあるだろうし、自分も気にした方が良さそうだ。


「けどそれなら全員が登録し合えば……」

「そこまで人心はコントロール出来んよ。そういう慈善団体もあるにはあるが話を通すのに予約が必要だし、しばらく先まで空かないだろう。結局のところ地道に努力するしかないのではないかな」


 0からのスタートってやつか。まぁやるしかねぇよな。


「ところで校長……」

「今はジンだよ。ジンロウのジン、ジンと呼んでくれたまえ」

「あ~はいはい。ジンね、はいはい。それで校長、1つ聞きたいんだけど」

「…………何かな?」

「さっきのデモンストレーションで変なローブ姿の男が出てきたよな? あれって誰なんだ?」

「「…………」」


 あれだけ滑舌だった校長が口を閉ざしている。成宮も話そうとはせず、妙な沈黙が車内を包み込む。この露骨な反応、触れてほしくない話題のようだ。


「……その話は別の機会にしよう。一度に多くの情報伝達は混乱を招くだろう? 今日のところは保留とさせてくれたまえ。代わりと言ってはなんだがラジオでもどうかな」


 そして露骨な話題逸らしキター。


『――続いてのニュースです。本日午前10時過ぎ、札幌市郊外の山林で30代の男性が瀕死の状態で発見されました。身元を確認したところ、サイバーロジック教の信者である事が判明。またこの男性は全身を鋭いキバのようなもので噛まれた形跡があり、警察では熊に襲われたものとして事件性はないと判断したもよう』


 熊被害ぃ? 都市部を追われた人間が山の開拓を余儀なくされてから数年は経つ。今さら熊に襲われるなんてレアな事件だな。

 それにサイバーロジック教。この教団は手当たり次第にVTuberを勧誘しまくってるって噂が多い。何の目的かは知らんが、胡散臭い連中というのが世間一般の評価だ。

 警察も関わりたくないから熊に責任を擦り付けたんだろう。

 そう言えば成宮に接触していた男もサイバーロジック教のローブを着てたような……いや、気のせいか?


「さて、着いたよ。ここが前線の拠点となっているオフィスビルだ」


 校長が言うオフィスビルからバリケードらしきものが左右に伸びており、空を飛ばない限りは侵入できない構造のようだ。


「ご苦労さん」

「これは吉岡様、どうぞ中へ」


 入口を塞いでいた2人が校長を見るなり素早く避けた。もしかしなくても常連?

 そう疑問に思いながらも当の校長は俺たちにロビーでの待機を指示し、迷うことなく受付に向かって行く。

 残された俺たちは近くのソファーに腰を下ろすと、この状況に堪えかねたイチゲンが口を開いた。


「どう思うキミたち? これまでの流れ、何か意図的なものを感じないかい?」

「あ~、バリバリ感じる~。外観はオフィスビルなのに、中に入ったらゲームキャラみたいな外見の人たちが彷徨いてるもんね~。ラノベでよく見る冒険者ギルドみた~い」

「いや、そうじゃなくてねカオルくん……」


 それは分かる。受付の姉ちゃんが猫耳なのは凄い魅力的だからな(←何が?)。だがイチゲンの言いたい事は別だろう。


「つまりあれだ、ここに俺たちを連れてくるのが予定調和だって言いたいんだろ?」

「その通りだよ。入口の様子を見て分かる通り、ここは一般人の立ち入りを禁止しているはず。にも拘わらずボクらを連れてここまで来た。まるで拒否権なんて最初から無いかのように」


 サイバーロジック教とは別に、校長もVTuberを集めてるってわけか。いったい何が裏で行われてるやら……。

 だが俺にとっては希望の光だ。両親が揃って海外赴任している今、俺の懐事情――もとい小遣いを握っているのは姉貴なんだ。VTuberでの収益は大歓迎さ!



 タッタッタッタッタッタッ――



「何だ? フロアの奥から大勢のVTuberが走ってくるぞ――って何だそりゃ!?」


 思わず叫んだ俺を非難しないでほしい。何故ならこのVTuberたち、俺たち4人を取り囲んで来やがったからな。


「やはりこうなったか。キミたち、互いに背を向けて外敵に対抗するんだ」

「いやいや待て待て、意味分からん意味分からん! 何で戦わなきゃならん!?」

「言ってる場合じゃないよリョウッチ、まずは敵を倒さなきゃ」


 勝手に熱くなる2人とは反対に、成宮は冷静に見ていた。そう、イチゲンとカオルを。


「いいえ。敵はあなたたち2人だよ」


 そう言って俺の手を引き2人から離れた。


「何をバカな!」

「フフ、バカではないと言いたいのかい?」


 叫ぶイチゲンを嘲笑うかのように校長が戻って来た。俺はいまいち理解できていなかったが、次の校長の台詞によりハッキリと理解する。


「イチゲンくん、キミの正体は世界共通で危険視されているネット集団ワールドブレイキングの一員。そうだね?」

「ワールドブレイキング!?」


 校長の言うワールドブレイキングとは国籍を無視したネット民の集まりで、BattleVTuberだけの世界を作ろうとしている集団の事だ。

 弱き者は排除せよというのが教訓で、駆け出しのVTuberを襲って悦に浸っているとかどうとか。要は雑魚狩りして喜んでいるクズ共だ。


「…………」

「無言は肯定したと受け取るよ。そしてカオルくん、キミはサイバーロジック教の幹部だね?」


 おいおいマジかよ!


「このちゃらんぽらんが教団幹部!? さすがに冗談だろ校長?」

「ちゃらんぽらん言うなし!」

「残念ながら……」

「そうか、このちゃらんぽらんが……」

「だからちゃらんぽらん言うなし!」


 なるほど、ようやく合点が行った。


「これまでの行動は不審者の炙り出しだったわけだ」

「その通り。あのデモンストレーションでは普通の生徒では生き残れないレベルに設定していた。レミエマくんの事は諸事情により知ってはいたのだが……幅滝くん、キミを含む3人は外部からのスパイである可能性が高かった。だからこうして回りくどいやり方で誘導せざるを得なかったのだよ」

「それで、俺に対してはどう考えてんだ?」

「うむ、それなのだが……」




「……正直なところまったく分からん」

「おい!」

「いや、仕方がないのだよ。素人が生き残る可能性を想定してなかったのだから。そんな中でもレミエマくんは、キミを敵ではないと判断したようだがね」


 そりゃありがたい。イチゲンやカオルのような胡散臭い連中と共闘はしたくなかったからな。


「そこで幅滝くん、先ほどギルドを通して正式に依頼を出したのだが、引き受けてくれるかな?」


 予想はつくが一応確認しておこう。


「……どういった依頼だ?」

「スパイを……イチゲンくんとカオルくんを倒して欲しい」


 はい予想通りの展開キター(←棒読み)。


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