第49話 街にて
「思ったより試験簡単だったね…」
『そうですね!主様』
今、私とベルは街でも人気のパイ屋さんへと向かって歩いている。
昇格試験の結果が出るまでは特にする事もなかったので、この街で人気だという噂で聞いたお店へと向かう事にしたのだ。
『あまーいのも良いですが、新しい味も気になります!』
甘いものをすっかり気に入った精霊達は今や人間の食べ物に興味津々である。
リンゴやベリーの入ったパイもあるけれど、ミートパイも美味しいと聞いてベルの期待は高まっているらしい。
精霊情報では、そのパイ屋さんはリピート率も高いらしく、明るい時間帯に売り切れる事も多いので依頼後では遅いらしい。
既に何事もなく終わった昇格試験よりも美味しいパイ屋さんの方が余程気になっているのだろう。
そしてそんなベルと同じ様に周りの精霊達も嬉しそうに飛んでいる。
まぁ、気持ちはわかる。
すっかり甘いものにハマっている精霊達を生暖かい眼差しで横目に見ながらそのパイ屋へと向かう。
しかし、パイ屋へ向かう途中、見覚えのある人物を見つけ思わず歩みが止まった。
「あ、こんにちは」
「おや…あんたは教会のお嬢さんじゃないかい」
そう、そこには教会で庇ってくれたお婆さんの姿があったのだ。
ちょうど買い物に来ていたのか手には籐で編んだ籠のような物を持ち、広場近くを1人で歩いていたようだった。
私は、つい嬉しくなりお婆さんの元へと寄っていく。
「教会ではありがとうございました」
そう言ってお婆さんに頭を下げればお婆さんは笑いながら頭を上げるように言う。
「いやいや、無事で良かったよ。実はちょっと心配していたからね、今日元気な顔が見れて安心したよ」
そう言って笑うお婆さんはニコニコと嬉しそうに笑うのでなんだかこちらまで嬉しくなる。
「…実はね、私にも孫がいるんだけど、年齢的にも見た目的にもあんたに似ているものだから…なんだか他人事と思えなかったんだよ…」
「…へぇ、…お孫さんがいるんですか?」
……しかも、私と似ている?
「ま、あんたほどの美人じゃないが、うちの孫もなかなか美人でね…」
嬉しそうにお婆さんはお孫さんの話を聞かせてくれた。
優しくて気の利くとても可愛い自慢のお孫さんのようで可愛がっていることがすぐにわかる程、ニコニコと孫自慢を聞かせてくれた。
「…そんな素敵なお孫さんに似ているなんて…嬉しいです」
私もニコニコと笑ってそう言うとお婆さんの笑顔が更に輝いた。
「…実はもうすぐ孫の誕生月でね、この間の教会も祝福を頂こうと思って行ったとこだったんだよ。そこで孫によく似てるあんたが居てね……」
そうか、お婆さんのお孫さんに似ていたのか…
「…そうだったんですね。誕生月なんておめでたいです。…そのお孫さんはおいくつになるんですか?」
「ふふ…もうすぐ10歳だよ。あっという間に大きくなってねぇ、最近では随分と娘らしくなって……」
「……」
……10さい…。
……私に年齢的にも見た目的にも似てる…10歳か…。
ま、まあ、海外で日本人が幼く見えるのはよくある事だしね…。
…いや、そうか…10歳か…。
少しだけ笑顔が固まり、軽くショックを受けつつも悪気の無さそうなお婆さんの話に突っ込みを入れる事も出来ず、つい乾いた笑いをしてしまった。
軽くショックを受けているわたしの横で何故かベルが落ち着かない様子でソワソワとしていた。
不思議に思いつつ視線を送るとベルもこちらへと視線を向けた。
『あ、あの…主様、あまーいパイと新しいパイは無くなりませんか?』
「…」
…なるほど。人気のパイ屋さんだから売り切れの心配をしていたのか。
私としては微笑ましいお孫さんとの話をもう少し聞いていたい気もしたけれど……
「…お婆さん、とても楽しい時間なんですが、お店のパイが売り切れてしまうといけないので、この辺で失礼しますね」
「…おやおや、こりゃ悪かったねぇ…。年寄りの話は長くていけないわ。…あ、あんたパイ屋って事は、この先にある人気のパイ屋に行くのかい?」
「はい。美味しいと噂を聞いたので…」
「それなら、間違いなく美味しいからお勧めだよ。雑貨屋のマール婆さんと知り合いだと言えばちょっとだけオマケをして貰えると思うから店主に伝えてみな……」
話を途中で遮る形になってしまい申し訳ないと思ったのだけど、お婆さん…マールお婆さんは全く気にしていない様子でお得情報まで教えてくれた。
「ありがとうございます!やっぱりお勧めはミートパイですか?それともリンゴとかのフルーツ系ですか?」
「ふふ…、全部美味しいけどね、我が家の人気はポテトパイだよ!…チーズが入ってて熱々は最高だよ」
お婆さんの言葉に後ろに見えるベルが飛び上がる。
『主様、その“ぽてとぱい”も食べたいです』
「ありがとうございます!ポテトパイも買ってみます!」
「あたしゃ、噴水通りで店をやってるからね。良かったら、また今度ゆっくりと遊びに来ておくれ」
「はい、ぜひ。またお孫さんの話も聞かせて下さい」
こうして、新たにポテトパイの情報を貰った私達は意気揚々とパイ屋さんへと向かったのだった。
残念な事にお婆さんお勧めのポテトパイは既に売り切れていたがオマケに飲み物を付けて貰った。
ぜひ、もう一度来ようと心に決めた。
パイを片手に噴水近くの広場でのんびりと街を見渡す。
精霊達の食事は元々嗜好品のような物でそこまでの量は必要ないらしく、パイの半分を渡す。
それだけでベルだけでなく他の光った精霊達も十分満足出来るようだ。
大通り沿いの道は人や馬車の往来も多いが、少し逸れるとこうして落ち着ける場所もある。
同じ様に座って何かを食べていたり、待ち合わせをする人達も多く、フードを被った私も目立つことなく街に馴染んでいた。
「良い街だよね…」
活気もあるし、人々も楽しそうに生活している。
観光出来るような教会もあるし、領主様も良い人だった。
…いや、本当に…あの司教さえいなければもっとのんびりと街を楽しめたのに…
面倒なので、すぐにこの街を出る気でいたけれどなんとなくそれも癪に障る気がしてきたな…
あの司教……必要かな……




