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第3話 華のJK生活

ウキウキでむかえた高校生活。

私が入学した高校は、地元でも進学校として有名だった。どんな人がいるんだろうと少し緊張していたけれど、それを吹き飛ばすような存在がいたのだ。


それが、八神という絵に描いたような文武両道な上にお金持ち、そして性格も良い超イケメンなモテモテ男子だった。


その男子は、まるで漫画の中から飛び出してきたかのような存在だった。

整った顔立ち、透き通るような白い肌に柔らかな黒髪が春の日差しに輝いていた。日本人の筈なのに何故か欧米人モデルを創造させるような身長とスタイルで制服の着こなしも完璧。ボタン一つの位置ですら計算されたように感じられるほどだった。


入学式では新入生代表を務めた事から、きっと彼は成績も良いのだと思う。


『え、あの人……めっちゃイケメンじゃない?』


入学式の時点で周りの席から、ひそひそ声が聞こえた。私もちらりと視線を向けるが、その目を引く存在に思わず見入ってしまった程だ。


そして、なんと偶然にもそんな彼がクラスメートとなったのだ。


教室に入れば彼の席の周りにはすでに人だかりができていた。明るく笑いながら話す彼の声は、自然と周囲を引き寄せる力があるようで、クラスメイトの男女が彼に話しかけている。


誰かが彼に名前を尋ねると、涼しい声が教室中に響いた。


「…俺は八神怜斗ヤガミ レント。これからよろしくね」


その言葉に教室中がざわめく。どうやら、八神は地元でも有名な名家出身らしく更に成績優秀な上に、スポーツでも全国レベルの実績があるらしい。


『え、あの八神家の?』


『しかも頭もいいのに、あの見た目とか反則じゃん!』


周囲の声が大きくなり、ついつい私の視線も八神に釘付けだ。


彼の視線がふとこちらに向き、目が合った。深い夜空のような瞳に吸い込まれそうになる。すると、八神は柔らかい笑顔を浮かべて軽く手を振った。


「…これからよろしくね」


ただの挨拶のはずなのに、教室中の空気が一瞬止まった気がした。周りから羨ましそうな視線が集まり、私は慌てて小さく頭を下げる。


……こんな、本当に漫画みたいな人がいるんだ。


そんな驚きと、彼が巻き起こすであろうこれからの高校生活を、クラスメートとして身近で見られる予感に、私は早くも胸が高鳴っていた。


彼は…


そう、彼は正に恋愛漫画に出て来そうな女子達理想の正統派スパダリヒーロー系の男の子だ。


クラスメートであればそんな彼を間近で観察出来るかもしれない。華の高校生活に更なる楽しみが増えて私は嬉しくなった。


ただし、私は決して自分が彼とどうにかなりたいなどという事は全く考えていなかった。


そして当然、そんな女子達の理想を詰め込んだような彼は高校生活においてモテにモテた。


しかし、そんなモテにモテる彼の周りは熾烈な競争に打ち勝ったハイレベルな女の子達が常に固めている。


まぁ、当然な自然の摂理だと思う。


幼馴染から始まり、クラスの学級委員長やら、図書委員長やら、従姉妹やら…。


彼には元々昔からの取り巻きが存在したらしいが、高校へと入学して更に追加されたそうだ。


清純派、眼鏡っ娘、ロリッ娘、僕っ娘、セクシー系、ツンデレ…等なんと、彼は入学するとこの学校の各種美人をあっという間に独占してしまったのだ。


こうなると、もはや少女漫画系ではなく少年漫画系かもしれない。


おまけに、彼には幼なじみの少し地味(でもよく見るとそれなりにイケメン)な男の子の親友もいる。


幼馴染な彼は八神にコンプレックスを抱いてるようだが、そんな葛藤を抱えた彼もまた陰で人気がある。


八神も良いが正直その親友君もなかなか良い味を出している。


そして、そんな2人の様子は一部女子から絶大なる支持を受け、陰ながら八神と彼がくっつく事を応援されてもいるのだ。


正直、初めて彼らを見た時はあまりにも定番の主人公要素満載で大分興奮して胸も高鳴った。


彼らならどんな物語の主人公でもヒーローでもいけるだろう。


そう、どんな物語の主人公でも…



私は今世生まれ変わってからというもの、ぽかぽかと暖かな陽射しが差し込む縁側で読む本に夢中だった。


本が大好きな私にとって物語が始まりそうな彼等は正に読み始めた物語の登場人物の様で目が離せなかった。


アクション、ホラー、ミステリー、コメディ、恋愛とジャンル問わず読んでいたけれど、その中でも特に気に入ったのがファンタジーだった。


あ、もちろん恋愛もそれなりに好きではある。


いつかは父のような程々に安定した穏やかな人と結婚して安定した生活をおくれたら素敵だとも思っている。



でも、やはり一番心ときめくのはファンタジーだ。


異世界の騎士や精霊、魔法使い達の冒険が繰り広げられるページをめくるたび、心が踊った。

前にいた世界によく似た設定とよく出来たお話に、懐かしい気持ちと共になんだかワクワクしてしまう。


『…お姉ちゃん、また本読んでるの?』

妹にもよく笑いながらそう言われた。


それくらいに大好きだった。


本の世界は想像で書かれたファンタジーの世界だけれど私は実際にそっくりな世界が別の次元に存在している事を知っている。


そして、別の世界軸からこちらに私が渡って来たように、彼らがあちらへ行く事が可能な事も知っていた。


それが中身だけなのか、肉体ごとかは別れるだろうが、世界を渡る事は可能なのだ。


だからこそ、なんだか妙にリアリティのあるファンタジーが私は1番好きなのだ。


…きっと、現実でも召喚的系や転移系のファンタジーはワンチャンありだと思う。


いや、ワンチャンどころか八神くんは本当に召喚とかされると思う。


それくらいにはリアリティのあるお話なのだ。



だからこそ、いつかその瞬間が来る時はぜひちょっとだけでも生で見てみたい。


そんなワクワクの予感に浸りながら始まった高校生活はとても楽しくて少し浮かれていた。


…そう、私は浮かれていたのだと思う。



この平和な生活に馴じみ、少し気を抜いていた部分もあった。


だからこそ…うっかりやらかしてしまった。


…そう、私はついうっかりと予定外のやらかしをしてしまったのだ。






入学当初から彼は当たり前だがとても人気があり、クラス中が彼に興味を持っていた。


最初はみんな、彼と話をしようとなんやかんや頑張っていた。


…が、彼の取り巻きのガードはなかなか素晴らしい上に、何故か取り巻きが更に増えた為(生徒会長と陸上部エースの先輩などなど…)彼に近づくのはとても困難な事であった。


そのため当初の興奮状態は徐々に落ち着き…暫くすると皆は理性を取り戻した…ようにみえた。


実際には、さすが進学校だけあり皆頭が良いのか程々に現実的で通常以上の関係を望む事は早い段階で諦めたようだった。


しかし、その代わりのように彼の写真や情報があっという間に出回っていったのだ。


だが、この写真や情報も勝手に自分で写真を撮ったり個人情報を調べる事は非常に難しい。


この情報化社会なら簡単な事だと思うだろう…


…しかし、鉄壁のガードによる警備は厳しく、彼の近くでは携帯禁止、個人情報を迂闊に上げれば本気の犯人特定の捜査が始まるのだ。


熾烈な争いに勝ち残った彼女達は優秀な頭と財力を取り揃えたガードでもある。そんな彼女達により、穴は徹底的に潰されていった。


それではどうやって写真や情報を手に入れるのか。


そう、それはとても難しそうで簡単な事だったのだ。


彼女達の気にいる情報と写真を撮って提供すれば良いのだ。


一部の者がたまたま偶然にも八神君の素敵な写真を撮った所、消させる事もできず、困った彼女達は『たまたま撮れた写真は仕方ない』枠を作ったのだ。


そして、ここでカメラマン達の腕が鳴った。


素晴らしい写真の数々にいつの間にか、一部のカメラマンだけ、暗黙の許可が降りたのだ。


と、まぁ長くなったが、つまり許可された写真や情報は陰で取り引きすることが出来る事になったのだ。


そう、手順を踏めば写真などの入手は誰でも比較的簡単に出来るようになったのだ。



そして…そんなある日、私はやらかした。



私の可愛い妹が近頃反抗期で昔ほど『お姉ちゃんお姉ちゃん』と、言わなくなってしまった事に不満を持っていた私はやってしまったのだ。


浅知恵を絞った結果、そんな妹との交流のひとつとして、八神の話を教えてあげたのだ。


可愛い可愛い妹もそれはそれは喜んで楽しんでくれた。


思った以上に妹は彼が気に入ったようで、彼の写真を欲しがった。


隠し撮りは出来ないが、その頃には人気者の彼の写真は出回っており、手に入れるのは然程難しい事ではなくなっていた。


可愛い妹のために気軽に彼の写真の入手を試みた。


写真はすんなりと手に入れる事が出来、妹も喜んでいた。


そう、ここまでは良かったと思う。

まだセーフだった。


しかし、妹は更に追加で写真を欲しがったのだ。


…これ、これを了承したのが…今思えば最初の間違いだったのだと思う。


私はもちろんすぐに新たな写真を注文して受け取り日時もすぐに決めた。


そして、一応暗黙の了解として人気のない放課後の教室にて追加での写真受け取りが決まったのだ。


夕方の人気のない教室。

そして、そこで提供者の子に聞かれたのだ。


『八神君かっこいいよね。…今井さんも好きなの?』


皆が帰った後の教室には既に他の生徒達の姿はない。


私も早く用事を済ませて帰りたかったのでわざわざ妹の話はしなかった。


適当な相槌で流してしまったのだ。


『そうだね。…かっこいいよね』


と、適当に返事をした気がする(あまり覚えていないけど)。


とりあえず、相手の子も私もその場の共通の話題として、好きな芸能人話並みに軽い気持ちで話していたのだ。


これが多分、今回において私の1番のやらかしだったのだと思う。



他人に対してはちゃんと誠実に向き合うべきだったのだと反省している。


妹が彼を好きだと言えば良かった。



……まぁ、よくある(?)話で、偶然にも彼がこの話を聞いてしまったのだ。


しかし…しかしまだこの時は私も軽く考えていた。


女の子にモテモテの彼からしたらこんな事よくありそうなモノだし、告白だって飽きる程されている筈だ。


こんな微妙な会話を聞いてしまい多少は気不味いと思うけれど、きっとすぐに忘れるだろうと思っていた。


むしろ、自分の写真が勝手に出回ってる事を知って怒られるのではないかという不安のほうが大きかった。


……それなのに、この日から彼は何故か妙に私を気にかけるようになったのだ。


名前も覚えて、声も掛けてくれる。


普通のクラスメートだったら当たり前の行動だけれど彼の場合は鉄壁のガードの存在故に普通ではない。


そしてさらに会話の際、距離感がおかしい。(気がする)


彼のことが好きだったならば思わず勘違いしそうな状況…


しかし、私は彼自身には全く興味がない。


…だからもちろん勘違いはしない。



そして、そんな彼のささいな行動によって鉄壁のガードによる軽い嫌味やプチ嫌がらせがあったりなかったりするようになったのだ。


正直、私が戸惑うように鉄壁のカードな彼女達も戸惑っている為、まだ私への対応方針が定まっていないのだと思う。


正直、迷惑な話だと思うけれど原因が原因のため私から何か言うことも出来ない…


と、いう事で最近の私は彼の意識からこのまま再びフェードアウトできるようにそっと頑張っているのだ。





…早く勇者召喚されたら良いのに。



最近よく願うこの気持ちが天に届いたのか、私のこの願いは割とすぐに叶う事となったのだ。



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