旅の果てに見つけたのは和菓子屋にひそむ愛だった
なろうラジオ大賞5
テーマ:和菓子
「あれ、あれ買ってきて。赤くて白いやつ」
学校から帰るやいなや、玄関のドアから顔を出した花ばあに五百円玉を渡された。
かくして俺は旅に出た。
気の強い花ばあのことである。それじゃわっかんねーよ、とでも言おうものならこてんぱんにやり込められる。間違った物を買っても結果は同じであるが、俺は傷つくことに怯え事態を後回しにしたのだった。
小さな背中を丸め怯えながら新聞を読む作じいの姿が目に浮かぶ。退職してすぐ死んだのは、きっと花ばあがこき使ったせいだ。
公民館の前ではゲートボール大会が開かれていた。早速、情報収集といこう。花ばあと同世代の人たちなら答えを知っているかもしれない。
「赤くて、白いの?」
「そりゃあれじゃないか? ほれ」
指差された場所には和菓子屋があった。
「作さんはあれが好きだった」
「そうだねぇ。花さんは、出来立てを食べさせてあげたいって朝一番に買いに行ってあげてたね」
話を脱線させながら、花ばあと同世代の人たちは試合に戻ってしまった。だからあれってなんだよ。教えてからいけよ。
和菓子屋に行くと、おじさんが顔をだす。
「あれを買いにきたのかい?」
お前もか。おじさんが指差す方向を見ると紅白団子が並んでいた。
「作さんはこれが好きだった。花さんもよく買いに来てくれた。命日が近いからお使いにきたんだろう?」
おじさんは「おまけ」と言って、家族分の紅白団子を包んでくれた。作じいの分もちゃんとある。
「花さんのことを大事にしてあげなね。いつまでも生きてるわけじゃないんだよ」
冬空の下、俺の心は温かかった。花ばあはちゃんと作じいを愛していたのだ。
倉庫から石油ファンヒーターを出した。この寒さで花ばあが風邪を引いたら大変だ。
「あぁ、それ。それよ!」
俺が玄関のドアを開けた瞬間に花ばあは歓喜の声を上げた。紅白団子の入った袋を差し出すと、花ばあは逆の手に持っていたものをひったくるようにして取った。
「灯油じゅぽじゅぽするやつ!」
あ、灯油ポンプね。確かに赤くて白い。
「なんで紅白団子なんか買った? 私は嫌いだから食べんよ。おかしな子。あ、熱い風が出るやつ倉庫から出しといてよね」
玄関のドアは音を立てて閉まった。
俺は空を見上げる。
――作じい。仏壇に供えるから、後で一緒に食べような。