今日も学校一の美少女幼馴染に「お前が大好きだッ!!!」と告白したら「私も大好きだよ」と言われた。でも俺は騙されないぞ……! あんなに可愛い幼馴染が、俺みたいなモブ男を好きなわけないだろう……!
「透果、俺は……お前が大好きだッ!!!」
多くの生徒が登校している真っ最中の朝の校舎前。
今日も俺は幼馴染の透果に、全身全霊で俺の真っ直ぐな気持ちを伝えた。
嗚呼、今日の透果も何て可愛いんだろう……。
銀河を散りばめたかのような輝く大きな瞳。
最高級の絹糸もかくやというほど艶のある黒髪。
常に後光が射しているようにさえ見える神々しい笑顔。
更に容姿だけでなく性格も完璧で、誰に対しても優しく趣味は何とボランティア活動!
こんなパーフェクト美少女、惚れない男がいるだろうか? いや、いない!(反語)
……だが、そんな透果からの返事は、今日も――。
「ありがとう勝琉。私も勝琉が大好きだよ」
「――!」
透果は天使のような笑顔で、そう言った――。
……くっ!
「うおおおおおおおお!!!!!」
いたたまれなくなった俺は、透果をその場に残し一人校舎の中に逃げた。
「ハァ……」
教室に着いて自席に腰を下ろした俺は、クソデカ溜め息を一つ吐く。
窓の外はこんなにも晴れ渡っているというのに、俺の心は分厚い雲に覆われている。
「ヨォ勝琉! 教室から見てたけど、今日のお前の告白も傑作だったぜ!」
「……」
悪友の敦也に、バンバンと背中を叩かれた。
こいつ……!
「ふん、俺の気も知らないで」
「ハァ? ラノベ主人公も全裸で逃げ出すレベルの超絶リア充のお前に、そんなアンニュイな発言が許されると思ってんのか、オォン!?」
「……お前は大きな思い違いをしている。透果が完全無欠のパーフェクト美少女であることは、お前もとっくにごぞんじなんだろ?」
「何だその初めてスーパーサイヤ人になった時の悟空みたいな言い回しは。あとお前の『美少女』を『ソルジャー』と読むセンスには失笑を禁じ得ないが、まあ透果ちゃんがパーフェクト美少女であることは、紛れもない事実だろうよ。うんうん」
敦也が腕を組みながら、深く頷く。
「だろ? ――そのパーフェクト美少女である透果が、俺みたいなモブ男を好きなわけないだろうッ!」
「ん?」
「透果は道端で干からびているミミズにすら同情するレベルの優しい子だから、幼馴染である俺を傷付けまいと、噓をついているに違いないんだよッ!」
「……ふぅむ、これは大分重症だなぁ」
ああそうさ!
俺は恋の病という、厚生労働省指定難病に罹っているのさッ!
「おはよー」
その時だった。
透果が目視できるレベルのマイナスイオンを振り撒きながら、教室に入って来た。
嗚呼、透果がこの場に存在するだけで、教室全体のストレス値が530000くらい軽減された気さえする……。
「おはよう透果ちゃん。いやあ、透果ちゃんも勝琉がこんな調子じゃ、いろいろ大変でしょ」
敦也がケラケラ笑いながら、透果に声を掛ける。
「ふふ、いいの。そういうところも、勝琉のいいところだから」
「かーっ、だってよ勝琉! この果報者め! 地獄の最下層、阿鼻地獄に落ちやがれ!」
「……」
敦也に頭を抱えられて、拳でグリグリされる。
ふん、これも透果が気を遣ってそう言ってくれているだけなんだってこと、お前はわからないのか?
透果はそんな俺と敦也の遣り取りを、聖母のような笑顔で見守っている。
「透果ー、ねー、昨日の宿題教えてよー!」
「えー、しょうがないなぁ。じゃあまた後でね、勝琉」
「オ、オウ」
友達に呼ばれて自分の席に歩いて行く透果。
そんな透果の背中を見ていたら、俺は――。
「なあ敦也、実は前から気になってたことがあるんだが」
「ん? 俺のスリーサイズは、上から98・58・88だぜ」
「ワンピースのナミかよ。お前男だろ。そうじゃなくて、パーフェクト美少女である透果に、俺の知る限り俺以外に告白した男は一人もいないんだが、何でだと思う?」
微生物も含めて、世の男全てを魅了していると言っても過言ではない透果のことだ。
それこそ毎日のように告白されてても全然おかしくないと思うのだが……。
「んん? 何だお前、透果ちゃんに他の男が告白してもいいってのか?」
「いや、いいわけないだろッ! 万が一そんな現場を俺が目撃してしまったら、相手の男を刀鍛冶の里編の『鍛人の断末魔』みたいな芸術作品にしてしまうかもしれん……」
「お労しや兄上。だったらむしろ僥倖じゃないか。お前が猟奇殺人鬼にならずに済んでるんだから」
「でもさッ! やっぱ好きな女の子には、全人類から愛される存在でいてもらいたいのが男ってもんだろ!? 推しのアイドルには武道館に行ってほしいけど、熱愛報道は死んでも聞きたくないファン心理とでも言うか!」
「……お前が金八先生でも匙を投げるレベルのメンドクサイ男だってことが改めてわかったよ」
何でだよ!?
これって普通のことだろッ!?
そして迎えた放課後。
「勝琉、一緒に帰ろ」
「オ、オウ」
今日も透果に誘われて、二人で教室を後にする。
そんな俺たちに、敦也は生暖かい目線を向けていた。
「ねえねえ勝琉、昨日から始まった『転生したらヌーブラだった件』っていうアニメ観た? エンディング曲歌ってるのが何と『ミニスカシスター泰恵』だったの! やっぱ泰恵の声は癒されるわぁ」
隣を歩く透果が、手と手を合わせながら恍惚とした表情でそう言う。
「ああ、観た観た。透果、ミニスカシスター泰恵好きだもんな」
「うん、大好き」
「……!」
この「大好き」は、俺に対する「大好き」と違って本物なんだと思うと、心が沈む……。
「あ、ねえ勝琉、私ちょっと読みたい雑誌あるから、本屋さん寄っていい?」
本屋の前で透果が俺の袖をちょんちょんと引っ張ってきた。
か、可愛い……!
「ああ、もちろんいいよ」
こんな可愛い幼馴染のお願いを断れる男がいるだろうか? いや、いない!(反語)
「すぐ終わるからまた後でねー」
「オウ」
女性誌のコーナーにトテトテと歩いて行く透果を見送り、俺は一人漫画コーナーを物色する。
最近ハマっている『チュパカブラ VS PTA役員』の最新刊が出ていたので、手に取ってレジへと向かった。
「……あ」
清算を済ませて女性誌のコーナーに戻ると、透果がいかにもチャラそうなイケメンに声を掛けられていた。
こ、これは……!
「いいでしょお茶の一杯くらいさぁ。オレ奢るからさ! ね? ね?」
なんだァ? てめェ……(勝琉、キレた!!)。
俺の透果を気安くナンパするとは、どうやら命が惜しくないらしいな?
――いいだろう、そこまでお望みならしてやるよお前を、芸術作品に……!(倒置法)
「すいません、私、好きな人がいるので」
「――!!」
が、透果はナンパ男に対して、キッパリとそう言ったのであった。
――と、透果に、好きな人、だと……。
そんな……。
透果、好きな人いたのか……。
あまりに突然突き付けられた残酷すぎる現実に、世界がガラガラと音を立てて崩れ落ちていく感覚がした。
「いやいや!? 絶対その男よりオレのほうが君のこと満足させられるから! マジ自信ある!」
「ゴメンなさい、連れを待たせてるので。――あっ、勝琉! 帰ろ!」
「オ、オウ……」
満面の笑みで俺の腕にギュッと抱きついてくる透果。
だが俺の頭の中は、透果が好きだという男のことでいっぱいだった――。
――この夜俺は、結局一睡もできなかった。
そして迎えた翌朝。
「……」
「あれ? 勝琉?」
いつもなら透果に告白している校舎前。
今日はとてもそんな気にはなれず、俺は立ち竦んでいる透果を一人その場に残し、校舎の中に入って行った。
「…………ハアアァァ……」
教室に着いて自席に腰を下ろした俺は、過去最大のクソデカ溜め息を吐いた。
嗚呼、今日から俺は、何を糧に生きていけばいいのだろうか……。
「オイ勝琉! どうしちまったんだよ今日のお前は! お前の朝の告白を見なきゃ、一日が始まった気がしねえよ!」
「……」
事情を知らない敦也がグイグイくる。
まったくこいつは……。
「今日だけは放っておいてくれ。俺は今必死に、失恋の痛みに耐えている真っ最中なんだ。少しでも気を抜いたら、この窓から飛び降りて異世界に転生してしまうかもしれない」
「ハァッ!? お前が失恋だとォ!?」
青天の霹靂みたいな顔をする敦也。
ふん、そこまで意外なことでもないだろうに。
「ああ、昨日本屋で透果がナンパされたんだけど、そのナンパ男に対して透果がハッキリ言ったんだよ、『好きな人がいる』ってな」
嗚呼、思い出しただけで心臓がズグンと重くなる……。
「……! いや、お前、それって――」
「勝琉ッ!」
「「「っ!?」」」
その時だった。
透果がかつてないほどの剣幕で教室にズカズカと入って来て、俺の目の前でガイナ立ちをした。
透果のこんなに怒ってる顔は生まれて初めて見たので、思わず俺も立ち上がる。
と、透果……?
「何で今日は告白してくれなかったのッ!?」
「…………え」
もしかして透果は、いつもみたいに俺が告白しなかったから怒ってるのか?
いや、でも……。
「……そんな残酷なこと言うなよ透果。昨日本屋で言ってたじゃないか。透果は、好きな男がいるんだろ?」
「うんそうだよ! そんなの、勝琉のことに決まってるでしょッ!!」
「――!!!」
透果は目元に大粒の涙を浮かべながら、そう怒鳴った。
そ、そんな……!
そんなの噓だ……!
透果みたいなパーフェクト美少女が、俺みたいなモブ男のことを……。
「鈍い勝琉も可愛かったから放っておいたけど、こうなった以上ハッキリ言うわ! 私は勝琉のことが好き!」
「――!」
……透果。
「いつも私のことを優しく見守ってくれている勝琉が好き! 私が作った下手クソなクッキーを美味しそうに食べてくれる勝琉が好き! 漫画のことになると早口になる勝琉が好き! 猫の動画を観てデレデレしてる勝琉が好き! 毎日私のことを大好きだって言ってくれる勝琉が好き! ――私は勝琉のことが、大大大好きッ!! ……どう、これで伝わった」
「……」
透果は両手で俺の顔を左右からガシッと掴み、潤んでキラキラした瞳で真っ直ぐ俺の目を見つめてくる。
……くっ!
「ゴメン透果! 俺がバカだった!」
「――! ……勝琉」
俺は透果の肩に両手を置き、その瞳を真っ直ぐ見つめ返す。
「俺も透果が好きだ! いつも眩しい笑顔を向けてくれる透果が好きだ! 俺のために苦手な料理を頑張ってくれている透果が好きだ! アニメのことになると早口になる透果が好きだ! 犬の動画を観てふにゃふにゃになってる透果が好きだ! 毎日俺の全力の想いを真正面から受け止めてくれる透果が好きだ! ――俺は透果のことが、大大大好きだッ!!」
「――勝琉ッ!」
「――透果ッ!」
クラスメイトたちが凝視しているにもかかわらず、俺たちは互いの愛を確かめ合うかのように、熱く抱き合った。
「……何だこれ」
オイ敦也、その感想はないだろう?
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