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ちょっと長いです。
カーテンの隙間から太陽の光が差し込む
ぱちりと目が開きルフがベットから起き上がる。
「よし!今日はお出かけだ!」
自分の部屋から出ると既に起きていた母さんが朝食を用意してくれていた。
「おはようルフ、顔を洗ってきなさい」
「おはよう母さん」
顔を洗うために外に出ると父さんが井戸から水を汲んでいた。
「おはよう父さん」
「おう、おはよう!ジンクさんから聞いてるぞ!今日は村の外にお出かけだってな楽しんで来いよ!」
「うん!今日も色々教えてもらうんだ!」
昨日結局やり方を教えてもらえなかった受け流しや、魔法使いについて、他にも村の外でしか見れない植物や動物についてなど聞きたいことが沢山ある。
父さんが家に戻り、井戸が空いた。すぐさま冷たい井戸水で顔を洗う。
少し残っていた眠気も一切なくなったので朝食を食べに家に戻る。
「それにしても心配ねぇ」
朝食を食べていると母さんがそう言って心配そうに僕を見つめた。
「ミレイ、そんな心配しなくてもルフは大丈夫だ!一年前に比べて体はたくましくなったし、今回はジンクさんも一緒なんだ危ない事は無いはずだ!」
「ユーリ、そうは言ってもルフはまだ9才なのよ!心配しない訳がないじゃない」
「だから言って、村の中に押し留める訳にはいかないだろう?ルフはまだ若い、若いうちに色々やらせてあげないと、親が子供の将来の選択肢を狭めるようなことはしてはいけないよ!」
「……そうね、ルフがやりたいと言ったことだし、いくら心配でも応援してあげないとね」
「ありがとう!父さん!母さん!」
剣をジンクさんに教えてもらいたいと言った時も母さんは真っ先に僕の心配をしてくれた。僕は本当に大切にされている思う。
そんな母さんを心配させない為にも僕は強くならないといけない
★
朝食を食べ終わり、食器の片付けをしていると玄関からノックする音が聞えてきたので、急いでドアを開けると予想通りジンクさんが立っていた。
「おはようございます!」
「おはようルフ君、昨日はよく眠れたかい?」
「はい!今日に備えて睡眠はしっかり取りました!」
「それは良かった、今日はちょっと体力を使うからね!しっかり回復で来ている様でよかったよ」
他愛ない話をしながら、今日一番気になっていることを聞いてみる。
「今日は何をするんですか?」
「それはね……」
ジンクが目的について話そうとしたとき家の中からユーリが出てきた。
「おはようございます!ジンクさん!」
「おはようございます!ユーリさん!」
「今日はルフの事よろしくお願いします、ジンクさんが一緒なら大丈夫だと思うんですが……」
「絶対怪我しないなんて保証はできないですが、できる限りの事はやるつもりです!」
「よろしくお願いします、ルフが無事”魔物討伐”できたという報告を家で待ってます」
ん!?
「ジンクさん!僕今日魔物討伐するんですか!?」
「あれ?ルフは聞いてなかったのか?」
「聞いてないよ!?今日は遠出するとしか言われてないもん!」
「ルフ君には今から説明しようとしたんですが、タイミングよくユーリさんが来たので伝えられてなかったですよ」
「そうだったんですか、ルフそういう事だ、頑張ってくるんだぞ?」
正直突然の事で頭が理解するのを拒否している。
だがわくわくしている自分が確かにいる事には気づいていた。なぜいきなり魔物討伐?という事よりもどんな魔物に会えるのか、どんなことが起きるのかそれを知りたくてしょうがない。
「うん!父さん、僕頑張って魔物を討伐してくる!」
そんなことで頭が一杯だった僕は父さんに対してそんな返事しかできなかった。
「じゃあ、ルフ君行く支度をしてくれるかな?しばらくユーリさんと話しているから焦らなくて大丈夫だよ!」
「はい!わかりました!」
自分の部屋に戻り、一番にジンクさんからもらった剣を取る、一ヵ月前初めて剣を持った時は重いと思ったものも今では手によくなじむ、遠出という事で持っていくものは最小限、剣とバックの二つだけ、バックの中にはタオルが一枚しか入っていない。
その理由は村の外で珍しいものは見つけた時持って帰る為である。
荷物を持って部屋から出ると母さんに呼び止められる。
「ルフ!」
「母さん、どうしたの?」
「これを持っていきなさい」
渡されたのは弁当箱だった。しかも二つ
「ジンクさんの分も作っておいたから、一緒に食べるのよ!」
「ありがとう!」
「心配だけど応援してるわ!頑張りなさい!」
母さんと玄関で待つジンクさんの所に向かう
「ジンクさんルフをお願いします!」
「先ほどユーリさんにも言いましたが、絶対怪我無く返すという約束はできません、ですができる限りの事はするつもりです」
「それで構いません、ジンクさん自身も十分気を付けて行ってください……」
「はい、二人の大事なお子さんをお借りします!」
そう言ってジンクさんが森に向かって歩き出す。
「じゃあ行ってくるね!」
父さんと母さんに行ってきますと伝えジンクさんを追いかける。
「ジンクさんなんで魔物討伐うをするの?魔法使いについて教えてくれるんじゃないの?」
歩き出して数分もしないうちに一番疑問に思っていることをジンクさんに聞いてみる。
「そうだね……先に説明しておいた方がいいかな?ルフ君は魔物がどういう生き物か知っているかい?」
「魔物とは……うーん難しい質問ですね……しいて言うのなら、とても危険な生物という事しか……」
「まぁ間違ってはないね、そう危険な生物だ!ではどうして危険なんだと思う?」
「それは……どうしてでしょうか?人間を積極的に襲うからですか?」
「それも一つの答えだね他には?」
「魔物自体が強いから……?」
「うんうん、そう!魔物は強いその強さには秘密があるんだよ!」
「どんな秘密が……!?」
「それはね、魔物は必ず”魔力”と言う物を持っているんだ」
「……魔力ですか?」
「そう、魔力だ!」
「その魔力が魔物とどういう関係が?」
「魔力と言うのは不思議なものでね、体にあるだけでその生物の身体能力をあげる力があるんだ」
「そんなすごい効果があるんですか!?」
「と言っても魔力を強化したい場所に送り込む必要があるんだけどね……」
「なるほど……万能の力ってわけではないんですね……」
その中でふと気づく違和感……
なんでジンクさんは魔物の力が魔力の物でそれが体に流れているものだと知っているんだろうか?おまけに強化するには強化したい場所に魔力を送り込むことを……
「ジンクさんは魔力を持っているんですか?」
「……!?驚いたよ!よくわかったね?どうしてわかったんだい?」
「話に聞く限り魔力と言うのは目に見えない物です、その存在も持ってないと分からないし何より強化することが出来ると言う時まるで自分の事を話しているみたいだったので……」
「いい洞察力だね、それはルフ君の探求心が生み出したものなのかな?」
確かに最近は考えることが多くなってきた。
新しい物を知るたびに、これはどんなものでどういう使い方なのか……危なくないか?などを考えることが多い為、必然的に考える力が上がったのではないだろうか?
「確かにそうかもしれませんね……」
「いい事だよ、そう!俺は魔力を持っている、まぁ答え合わせをするとあの村の人達以外はほとんど持っているんじゃないかな?」
「なんで僕の村の人達は魔力を持ってないんですか!?」
その言い方だと魔力と言う物は一般常識にあたる物である……なのにも関わらず僕はこの年になるまで聞いたことがない……
「魔力はね、魔物を倒すことで手に入れることが出来るんだ」
「魔力を手に入れられる?」
「そう、魔力を持って生まれるのは魔物だけだ、だけど人間が持てない訳じゃない、魔物の姿と言うのはあくまで器であって器が壊れれば中身である魔力が出てくる、そして魔力は新しい器を求めてさまようわけだ、そして当然近くに居た人間にその魔力が入ってくる!そうして人間でも魔力を持てるんだよ」
「言い方が寄生虫のそれですけど……体に害はないんですか?」
「ない……わけではないかな」
「あるんですか!?」
「魔力と言うのは体力と同じで使いすぎると異常なまでな疲労が襲ってくる、さっき言った通り魔力は魔物から得ることが出来る、だけど魔力と言うのは無限にあるわけではなく手に入れた分しかない、それなのに手に入った分以上に魔力を使うと体が耐えられなくなってしまうんだよ」
「使った魔力はなくなるんですか?」
「いいや、体力と同じで時間が経てば回復するよ」
「じゃあ使いすぎなければ、特に害はないんですか」
「ないよ!」
「ふぅ、安心しました!ではなぜ僕の村の人は魔力を持ってないんですか?」
「ルフ君は国と言う物を知っているかい?」
「国ですか?」
「やっぱり知らないか……国と言うのは人が治めて土地の事を言うんだ」
「人が治めている土地ですか?」
「そう、ルフ君の村がある土地も一つの国の中にあるんだよ」
「そうなんですか!?」
「ルフ君の村がある場所はアルカナ帝国という国の一部でありその場所はアルカナ帝国最南端かつてドラゴンが巣を張っていた領域だよ」
ドラゴン!?聞いたことがある!!父さんから敵対されれば命は無いと言われていた魔物の名前だ!!
「じゃああの村の近くにドラゴンがいるんですか!?」
「いや、その心配はいらないよそのドラゴンはもう死んでいるからね、ただドラゴンの領域はちょっと特殊でね、ドラゴンが魔力を使って跡を残すんだ、ここは自分の物だってね、その魔力に怯えて魔物が近づかないんだよ」
「じゃああの村に魔力をもった人がいないのは安全だからですか?」
「そう、あそこなら魔物に襲われる心配はないし、わざわざ自分から危ない事をする必要もないからね、多分あの村は数百年単位で存在してるんじゃないかな?そんな安全が続けば当然魔力を持った人は居なくなるし、その存在が消えるのも当然だと俺は思うよ、まぁこれは俺の考えなんだけどね、ただ初めてこの村を知った時にこんな村が存在するんだと驚いたけどね」
僕の村がそんな古い歴史があることに驚きをもってしまう正直絶句である。そんな理由があったのか……
「そういう事だったんですね……」
「まぁ村の位置が最南端にあるから外部から人が来ないと言うのも理由の一つだろうね」
色々知りすぎて頭がパンクしそうである。
ただ一つ分かったことがある
「魔法使いとはその魔力を使った技の事なんですね……」
「正解!ルフ君は頭の回転が速いね!」
つまり僕は今から魔力を手に入れようとしているのか……
正しく未知、どういう物か一切分からない、村にずっといては知ることのできない未知、今僕は冒険をしている。村と言う狭い世界から飛び出している。
ようやく、その実感が湧いてきた。