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僕には楽しみがあった。それは剣を教えてもらうという事だ!
「ジンクさん!今日から剣を教えてくれるんだよね!」
「やあ、ルフ君よく来たね」
ジンクさんは五年ほど前から村の離れに住んでおり、危険な生物が村に来た時に対処してくれていた。
村の離れに住んでいるのは動物の血の匂いに釣られ魔物と呼ばれる存在や肉食動物が来ることがある為だそうだ。
「今日で丁度一年経ったよ!」
「そうだね、そろそろ教えても大丈夫かな?」
この一年間ルフはひたすら走り、農作業をしていた。
その理由はルフが初めて森の中に入った時助けてくれたジンクさんに剣を教えてほしいと頼み込んだ結果、親の許可と一年間は体を鍛える期間が必要と言われたからである。
農作業は今まで以上に気合を入れ取り組んだ。
クワを振るう事で腕に筋肉が付き、収穫物などを籠に入れて運ぶことで足腰が強くなった。
そして走ることで体力を増やした。
一年前のルフと比べ今のルフは随分とたくましい体つきになっていた。
親の許可は父と母が話し合い
今まで狭い村の中で子供の探求心を満たしてあげられなくてごめんねと謝ってきた。
そしてやりたいことを好きにやりなさいと許可してくれた。
「ジンクさん、一体何を教えてくれるの!?」
「うーん、実は悩んでいてね……俺の剣は我流だから教えるのが困難なんだよ」
「我流?って何ですか?」
「我流と言うのは剣の使い方を自分なりに考え編み出したという事だね」
「自分で編み出した?」
「なんていえばいいかな……剣は扱うには剣術というのがものすごく大切なんだ」
「その剣術と言うのが我流とどんな関係が?」
知らない事を知れるというのはすごく面白く次々に質問をしてしまう
ルフは一年前に森に入ったあの日から未知への探求心が止まることが無くなっていた
「剣術と言うのはある程度の型が存在するんだよ、例えばただ上から下に剣を振り下ろすというだけでも動きが違うだけで切れるもの硬さが違ったりする。
「ただ上から下に下ろすだけで?」
「簡単に言えば片手で振り下ろすのと両手で振り下ろすのじゃ力の入り具合が違う、そう言った一つ動きにも違いがあるわけだ、そしてその動きのフォームがある程度決まった物を型と呼ぶんだ」
「その型を自分なりに考えたのが我流という事ですか?」
「おお、正解だ!」
「では何故我流だと教えずらいんですか?」
「言い方を変えれば我流って言うのは自分勝手に剣を使っていることになる、自分勝手という事は自己中心的つまり自分が一番使いやすいという事だ」
「それの何がいけないんですか?」
「俺とルフ君じゃ体格や手足の長さがまるで違う、それなのに俺の我流を教えてもうまく使えないんだよ」
なるほどそういう事か
確かに僕とジンクさんでは体格が違う、ジンクさんが使いやすい剣が僕も使いやすいなんてことはないのか。
じゃあどうすればいいんだろうか……?
「じゃあ、僕は何から覚えるべきなんですか?」
「しばらくは素振りをしてもらおうと思ってる」
「素振り?」
「剣をただ振るんだ、剣って言うのはルフ君が思っているよりも重いからね!慣れておかないと只振るだけで体力が持ってかれちゃうんだよ」
「何回振ればいいんですか?」
「そうだね、右手で五十回、左手で五十回、両手で百回の合計二百回くらいかな?一度に五十回振るえってことじゃなくて一日でって事だからね!無理せず休みながらやっていこう」
ジンクさんから剣を渡される。
重い!?
想像の数倍の重さだ、確かにこれを何十回と振るうのは今の僕には厳しいかもしれない……
だが泣き言なんて言ってられない。剣を真っすぐに振り下ろす。
実際は真っすぐに下ろしたと思っていただけで斜めに振り下ろすような形になっていた。
「素振りっていうのは難しいですね……」
「そう落ち込まなくていいよ、ルフ君はまだまだ剣の扱いに慣れていない状態なんだ、初めから何も知らない状態で出来る人なんていないよ、これからじっくり覚えて行けばいいさ」
そう励まされ剣を振り続けた。