プロローグ
少年ルフが憧れを持ったのは八才の時だった。
静かな村で農作業をして暮らしていたルフは毎日に退屈していた。同年代の友達は居らず遊ぶ場所もない。まだ八才で遊び盛りのルフにとってそれは正に地獄のような日々だった。
農作業がつまらない訳ではなかった。ただ変化を求めていた。
だからだろうか、村の人に入るなと言い聞かされていた。森の中に入ってしまったのは……
ただの興味本位だった。
自分が知らない、新しい何かを見たい。その気持ちにルフの感情は支配されていた。きっと退屈と言う物が言い訳になる。そう自分に言い聞かせて。
森の中は自分の知らないものでいっぱいだった。
見たこともない木の実や村には無い植物そこは自分が過ごしていた村と言う世界より広く自由だった。
綺麗な川が流れ魚が泳いでいる。
ルフにとってたったそれだけの事でもずっと眺めていられた。
未知と言うのは怖い反面、知らなかった楽しさや面白さがある。いまルフは村の外と言う未知に踏み込みその楽しさを知った。
その楽しさの中には怖さがあるとは知らずに……
ルフは辺りが暗くなるまで森の中で遊んでいた。
そろそろ帰ろうと思った時近くの茂みががさがさと揺れ動いた。
ルフはドキドキしていた。次はどんなものが見れるのか。どんな楽しいことが起こるのか。
しかしそのドキドキは恐怖によってかき消される。
一匹の狼が茂みの中から現れたのだ。
狼は危険な生物であるという事は村から出ないルフでも知っている事だった。自分より大きな体に噛まれたら一溜まりもないであろう牙。
その牙が生えている口から滴る涎は正に恐怖の象徴とも言えた。
幸い、狼はルフの存在にまだ気づいていない
既に小さい体を更に小さくし何とかやり過ごそうと息を殺していた。
しかし逃げたいと言う気持ちがどんどん強くなる。今すぐにここを離れたい。
バクバクとうるさい心臓の音を止めたい。
そんな気持ちでいっぱいだった。
だからルフは狼がすこし離れたタイミングで走り出してしまった。
狼の聴覚がとんでもなくいいという事を知らず。
狼はピクリと耳が動くとルフが走り去った方向に視線を向け走り出す
ルフは一心不乱に走り続けた。
森の中で足元が悪く小さな枝などが足に当たるが一切気にしている余裕は無かった。ただただあの場所から離れたかった。その気持ちで一杯だった
そんなルフの後ろから自分よりも大きな巨体がどんどんと迫ってくる。
当然簡単に追いつかれてしまう。
ルフがこっちに来るなと言わんばかりに手をぶんぶんと振るがどんどん距離を詰められてしまう。
そして狼が大きく口を開けルフの左肩の噛みつく
痛い!痛い!痛い!
生まれた初めて感じる痛みだった。
自分が知っている走って転んだ時の痛みが霞んでしまうほどの痛みにルフは悶える。
ルフは手で狼を殴りつける。
そして、幸運なことにその拳は狼の目に当たり狼を離すことに成功する。
狼がひるんでいる内に慌ててルフは走り出す。
風が傷口にあたり、ズキズキと痛むが止まることはできない。止まればそれ以上に恐ろしいことが起こると分かっているからだ。
一秒が長く感じる。もう分単位で走っているような感覚に陥るが狼との差がまるで開かない
目の痛みから立ち直った狼がどんどんと近づいてくる。
これはきっと入ってはいけないと言われた森に入った。罰なのだろう。そうルフは考えた。
狼がルフに飛び掛かる。
もうだめだ。そう思ったルフの頭の上をきらりと輝く鉄の刃が通り過ぎる。
次の瞬間
狼が上下に真っ二つになる。
「大丈夫かい?ルフ君」
そう声を掛けてきたのは村の離れに住むおじさんだった。
その時ルフにはそのおじさんが物語の英雄の様に見えていた。
ピンチの時に駆け付け助けてくれる。
そんなかっこいい存在に見えたのだ。
それがルフの剣の師匠との出会いでもあった。
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