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善悪二刀  作者: 生姜寧也
第3章:貪食臥龍編

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第88話:自堕落な半日

 少し遅めの朝食を皆でとり(メローディアの分は家人が既に作っていたので、美羽の方の完成に合わせて温め直した)、再び鉄心の部屋へ集まった。何かがあるという事でもないが、ただただ離れがたいのだった。

「今日は、トレーニングは良いのかしら?」

「はい。今日は超再生の日ですから。てか昨日、今までしたことない動きしたから内腿が痛いんですよね」 

 鉄心の返答に、「もう」とメローディア。朝っぱらからデリカシーがない。

「テッちゃんくらい普段から体を使ってる人でも筋肉痛とかあるんだ……」

 美羽も実は、鉄心を受け止める際に踏ん張っていたせいか、腰の周りに筋肉痛がある。運動不足だなと凹んでいたが、そう内省する話でもないのかと気持ちを切り替えた。

 メローディアが、ここら辺かと鉄心の内腿を軽く擦る。少し際どい部分だが、何の躊躇もなく触れている。体の関係がある男女特有の、相手の体も自身のそれの延長かのように扱う、そういう無遠慮が見て取れた。鉄心の方も気遣いありがとうと言う感じで、彼女の額にキスをした。「あ、ズルい」と美羽まで飛びついてくるので、鉄心はその頬を優しく掴んで、唇にキスをしてやる。そのまま少しだけ深め、唾液を混交させて、顔を離す。反対側から腕を引かれるので、振り向いて、金の美しい髪を梳きながら、舌を絡め合った。

「これ以上はしたくなるから、ダメですよ」

 メローディアも美羽も初体験を済ませたばかり。まだ痛みや違和感が残る体に鉄心も無理をさせる気はなく、次は明日の夜あたりに試してみようという事で三人、話はついている。

「じゃあ今日は何をしようかしら?」

「デートは二度もしましたし、家で三人でまったりしてたいですね」

「賛成」

 そういう運びとなり、インドア派の美羽が張り切る。

 自室へ遊び道具を取りに向かい、細長い箱を抱えて戻ってきた。中身はブロックタワーだった。小さな木片を三つで一面、縦横交互に組んで積み上げ、順番に一本ずつ引き抜いて行って、倒した人が負け、というシンプルなルールの遊戯。

「ゴルフィールにもあります?」

「ええ。あまりやったことはないけれど」

 三人で組み上げ、メローディアから時計回りで進んでいく。「怖い怖い」とか「セーフ」とか、割と単純な言葉しか発しなくなった三人だが、みな自分が抜く時以外は笑顔だった。子供の頃の遊びを今やってみると中々に楽しい、というのが共通見解だった。

「そこ、取れるんじゃないかしら?」

 メローディアからアドバイスを受ける美羽。鉄心はその横顔に熱い視線を送る。美羽は少し戸惑いながらも、「なに?」と聞いた。

「いやあ、改めて可愛いなって。こんな子がお嫁さんに来てくれるんだなって」

「ひゃああ!」

 美羽の手元が狂い、タワーを崩してしまう。赤い顔で「もう」と怒っている。鉄心はそんな彼女を横から抱いた。それだけで不満が霧散してしまうのだから、我ながら簡単すぎると美羽は嘆息する。

 メローディアはやや嫉妬しながらも、タワーを積み直す。そうしてまた十数巡、穴ボコだらけになっていく木製のタワー。

「メロディ様、そこ動きますよ」

 先程とは逆に美羽がメローディアに助言。真剣な顔をして、慎重な手つきでブロックの一つに触れ……

「やっぱり真剣な顔は見惚れるくらいキレイだね、メロディは」

「きゃああ!」

 メローディアの手元が狂い、タワーを崩してしまう。

「鉄心!!」

「テツ野郎!!」

 ガチャーンという大きな音に負けないくらいの抗議の声を二人そろって上げた。忍者らしい姑息な手口を使いながら、鉄心は笑っていた。二人も当然、本気で怒っているワケではない。ポカポカと両隣から想い人を叩くが、仕舞には抱き着いてピタリとくっついてしまった。あんな冗談の策略ついでに掛けられた褒め言葉でも嬉しいのだから、重症だと二人とも自覚しているが、嬉しいものは嬉しいので仕方ないのだ。

 ただそれはそれとして。二人は彼の体温を一しきり堪能すると、パッと離れ、再びタワーを積んでいく。少女二人、心は一つだった。即ち、打倒・鉄心。

 そして始まった三回戦。またも十数巡。良い具合に煮詰まってきた。鉄心がまた仕掛けてくる前に、少女たちが先に動いた。まず鉄心の前の番、美羽が四つん這いになって取りやすい所を探すフリをする。ニットを押し上げていた乳房が重力に従い揺れる。鉄心の目がそこに向かったのを確認すると、予め狙いをつけていたブロックを素早く取った。即ち鉄心の番になったワケだが、そこですかさずメローディアが体を摺り寄せ、さりげなく彼の手を自分の太ももに当てる。スカートから伸びる素足の滑らかな感触に鉄心の平常心がグラつく。

「こことか良いんじゃないかしら」

 アドバイスを送るフリをしながら、彼の掌を両腿で挟んでしまった。淑女たるメローディアらしからぬ作戦だったが、躊躇いなしだった。鉄心はよく吟味もせずにその助言通りのブロックに触れる。硬い、と気付いた時にはタワー全体がグラリと揺れていた。斜めに加速していく木の塔。だが、途中でピタリと止まった。

「やった! あ、あれ?」

 美羽が喜びかけて、困惑に固まる。斜塔はまるで時が止まったかのように動かない。

「鉄心! アナタ、匣を使ってるでしょう!?」

 最高練度の透明度を誇る匣を惜しげもなく使っていた。

「え!? あ! コラ!」

 美羽もメローディアの指摘で遅れて気付き、怒ってみせる。だが二人の抗議を嘲笑うように、グググと斜塔の角度が戻っていく。

「美羽! くすぐるわよ!」

「はい!」

 二人が鉄心の両脇に素早くつき、全力で脇腹や首筋を爪の先でくすぐった。

「ふふっ」

 鉄仮面を保っていた彼の口から堪えきれず音が漏れた。なおも続く猛攻に身を捩って逃げるが、少女二人はしな垂れかかるようにして追い縋る。そしてついに三人もつれ合って床に倒れ込み、

「あはははは、ちょっと、そこは」

 ついにメローディアが鉄心のシャツを捲り上げ、脇と脇腹の両方を直接攻撃。それと同時、ガシャッと大きな音がして、塔が倒れた。

「降参、降参ですから」

 脇腹にくっつく新妻二人を抱き寄せながら、鉄心が負けを宣言。卑劣のツケを払わせ、ここに正義は成った。

 だがそれとは全く別の問題として、

「ちょっと大きくなってない?」

 美羽の少し呆れたような可愛がるような声音。鉄心の鉄芯が90%ほどになっていた。

「すごいわね、男性は。もう、その、アレが出来るようになってるの? というか、今の流れでしたくなるものなの?」

「いえまあ。大好きな子たちにこんなに密着されてしまうと、どうしても欲しくなってしまうというか」

「大好きって言っとけば、何でも許されると思ってないかしら?」

 メローディアが可愛く唇を尖らせてみせる。

「許してくれないんですか?」

 その唇にそっと自分のそれを近づけて囁く鉄心。許すしかないメローディアは尖ったままの唇で迎える。小さな水音が鳴った。鉄心はそのまま反対側から自分の体を登ってくる美羽を振り返ると、舌を出すように指示し、それを唇で挟んで吸いつく。ジュルルと先程より遙かに卑猥な水音が鳴り響いた。

「明日までしないって」

 そう言ったが、鉄心は完全に臨戦態勢になっていて、

「く、口でする方法もあるのでしょう? 昨日は美羽ばかり受け止めていたから、今度は私が鎮めてみせるわ」

 意外にもメローディアが積極的な提案をした。鉄心は頭がクラクラとする。この麗しの公爵の美しく瑞々しい唇が自分の醜悪なモノを咥え込むビジョンが明確に浮かんでしまい、そこで彼の理性の糸は切れた。



 結局、午前中に予定外の体力を使ってしまった三人。昼食を摂り、その失われたタンパク質を補給すると、皆で川の字になってベッドで休む。こんなに自堕落な休日は、三人とも人生で初めてだった。

 鉄心は二人の少女の温かな体温を両隣に感じながら、うつらうつらと意識を手放す。

 そしてすぐに、自分が夢を見ている事に気付いた。例の、九層の奥、秘められた扉の夢だった。またか、と意識の片隅で思う鉄心。だが今日は少しだけ様子が違った。扉を開け、例の小部屋に視点が移るが、どうにも繭の脈動が小さく弱い。傍目の鉄心ですら生命力の弱まりを明確に感じ取った。

(テッシン。早く。早くしないと、邪刀が失われてしまうよ……)

 脳に直接語りかけられるような不思議な声も、前回より遙かに弱々しい。邪刀が失われる。何の話だとは思わなかった。彼自身、邪刀からの()()に距離を感じ始めていた。観念的な話で、自分でも消化しきれていなかったせいで、少女たちには相談できずにいたが、例のモールで三下相手にハゲ呪術を試した辺りで既に兆候を感じていた。

(早く。早く会いに来て)

 少女のようにも少年のようにも聞こえる、(恐らくは)繭の中の生物の声はそれでパタリと止む。そして徐々に鉄心の意識が覚醒へと浮上していく。

「ま、待ってくれ!!」

 体が跳ね起きてしまう。それと同時に伸ばした彼の手が、何かを掴んだ。ふにゅっと柔らかい感触。

「て、鉄心、またなの? さっきもあれだけ放ったのに」

 メローディアの驚きと困惑の声。魘されている夫を気遣って顔を覗き込んできた彼女の、その乳房を鷲掴んでいた。てっきり二回戦かと少女たちが身構えるが、

「すいません」

 鉄心は小さく謝って手をどけるだけ。寝る前までとの明らかなテンションの違いに、二人は困惑した。

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