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善悪二刀  作者: 生姜寧也
第3章:貪食臥龍編

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第85話:美羽の献身

 夕方を過ぎてようやく完成したイヤリングを、既製品のケースにしまい、鉄心は立ち上がった。美羽が差し入れてくれた昼飯は食べたが、それ以外はただひたすら没頭していた。

 総括すると、鉄心に手芸の才能はあまりなかったらしい。失敗を見越して予備を多めに買っておいて正解だった。まあ最終的には納得のいく出来に仕上がったので、失敗作たちも浮かばれよう。

(よし)

 鉄心はメローディアの部屋の前に立つ。拳の背で扉を二度ノックすると、

「美羽?」

 と中から返事がある。

「俺です。鉄心です」

 途端に、室内で息を殺すような気配。

「メロディ様。明日、俺ともう一度デートしてくれませんか?」

「え?」

 あまりに意表外な内容だったらしく、メローディアは思わず声を出してしまった。

「朝の10時半にGGアミューズメントパークの正門前で待ってます。来てくれるまでずっと待ってますから」

 それだけ言って、鉄心は踵を返す。室内から困惑した雰囲気で「え、ちょっと」と微かな声が聞こえてきたが、振り返らずに去って行く。

 メローディアは混乱の極みだった。今日一日、鉄心が結局一度も部屋を訪ねて来なかったせいで、いよいよ見捨てられたと半ベソかいていたところに、突然やって来たかと思うと、有無を言わせないデートの誘い。メローディアは一人では処理しきれないと判断し、美羽に電話をかけた。

 少し長いコールの後、

「もしもし? どうされたんですか?」

 という美羽の応答があった。のほほんとした声音が、メローディアには癒しだった。

「美羽? いま私の部屋まで来れないかしら?」

「ああ、えと。ご飯を作ってて。もう少し待ってもらえますか?」

「あ。もうそんな時間なのね」

 メローディアは今現在は家人が作った食事を部屋まで運ばせ、一人でとっている。時間を見て食堂に行くという事をここ数食はしていなかったので、失念していた。

「どうかしたんですか?」

「えっとね。鉄心にデートに誘われたの。GGアミューズメントパーク。市の西側にある遊園地ね」

「おお! ついに話せたんですね!」

 美羽の弾んだ声音。それを聞いたメローディアはバツが悪い。

「……えっと、一方的に誘われたというか。私は何も」

「ああ、話せたワケじゃないんですね」

「ええ。ど、どうしましょう? 私が来るまでずっと待っているなんて言うのよ?」

「行けばいいじゃないですか」

「そ、それはそうなのだけど。み、美羽。アナタも来るのよね?」

「多分テッちゃん、夕食の席で誘ってくれると思いますが……どうしよう、私だけハブられたりしたら」

 美羽まで全く別角度から不安がる。

「だ、大丈夫よ。鉄心はアナタだって大切に……むしろ私より大切に思っているハズよ」

「そんなことないですから。初体験の時だって、どっちも彼の初めてが貰えるように工夫してくれたじゃないですか。差はつけたくないって」

「でも……アナタだけ最後まで入ったけど、アタシは硬すぎて半分だけ。きっともう彼の中では差がついてるわ」

「メロディ様……」

 変な方向に煮詰まり、面倒くさくなっているメローディア。彼女本人も反応に困ることを言ってしまったと気付いたのか、少し声の調子を変えて、

「と、とにかく大丈夫よ。アナタも誘われるハズだし、そうじゃないと……いま彼と一対一で出かけるなんて無理よ」

 そう続けた。

「そ、そうですね。私も正式に誘われたら、お部屋に行きます。そこで話しましょう」

 一先ずはそういうことになった。



 夕食は油淋鶏とイカの刺身、マリネサラダ、納豆。日本食スーパーで食材の宅配サービスを提供している店を見付けたお陰で、美羽も存分に腕を振るえている。ただ当然だが割高になるので、最初彼女は自転車で買い物に行くと言ったのだが、鉄心の方が「心配だから」と止めた。お金なんか良いから、美羽ちゃんの安全の方が遥かに大事だから、と真剣に諭され、美羽はますます彼への想いを強くしたものだった。

「ごちそうさま。すごく美味しかったよ」

 二人だけの夕食を終え、鉄心は向かいに座る美羽を労った。ありがとう、と顔を綻ばせる彼女に、鉄心は例の遊園地の話を始めた。

 美羽は内心でホッとする。自分だけハブられるかもという心配は杞憂に終わった。

「この件じゃ美羽ちゃんに支えられてばっかだけど、もう少し力を貸して欲しいんだ」

「うん。私もメロディ様と一緒に、って決めてるから」

 あの魔界を生き延び、同じ相手に惚れた戦友。美羽自身は既に鉄心の鉄芯、その全長を受け入れたが、そこまで。まだ本当の意味で本番を経験したワケではない。そしてそれはメローディアも入れた三人で経験したいと思っている。

「ありがとう」

 鉄心は再び、美羽と出会えた幸運に感謝するのだった。



 美羽は夕食の片付けを済ませると、約束通りメローディアの部屋を訪れた。

 部屋の主は美羽の顔を見るなり、開口一番、

「どうだったの?」

 と聞いた。

「大丈夫でした。私も誘われました」

「そう……良かったわ」

 メローディアも安堵の息をつく。そして、急にフッと鼻から息を漏らした。

「改めて、おかしな話よね。自分の想い人が自分以外の女の子を堂々と誘ってるのに、良かったって」

「言われてみれば。でも今更ですよ。二人まとめて抱かれようとしたんですから」

「そう……よね」

 メローディアは腰掛けていた自分のベッドの上へ背中を預ける。大の字のようで、はしたないが、美羽しか見ていないので問題なし、ということのようだ。それだけ心を許してきてくれているんだ、と美羽も嬉しかった。

「行きましょう、メロディ様。変な言い方ですけど、私に先越されちゃいますよ?」

「ええ!? 待っててくれないの!?」

「だって……テッちゃんに求められたら断れないですもん。そうしたら、私だけ彼と最後の最後まで」

「だ、だめよ。そんなのズルいわ。アナタそういう所あるわよ?」

 慌てふためくメローディア。洞窟内での氣の授受に伴う性接触で先を越された件を蒸し返す。

「だったら、やっぱり三人で進みましょう?」

 メローディアは返答に詰まり、やがて力なく首を左右に振った。

「私もそうしたいけど、無理かも知れないわ。私の、その、あそこはきっと小さいのよ。入らないわ」

 鉄心の鉄芯は日本人の平均よりやや大きいくらいのサイズだが、メローディアは太く長い杭を打ち込まれたような体感だった。そして鉄心の方も、まるで鉄で出来た筒に無理やり捩じ込むかのような、生硬さ、狭隘(きょうあい)さを感じていた。メローディア本人の証言やバイコーンの呪印がなくとも、何も異物を入れたことがないと一発で分かるレベルだった。

「それなんですが、今度はメロディ様が上になったら良いんじゃないでしょうか?」

 完全に予想外のことを言われたメローディアは、目顔で続きを促す。

「それなら、自分でタイミングとかコントロール出来ますし」

「な、なるほど」

「奥までは無理って人もいるそうですけど、全く入らないってことも、そうないと思いますよ?」

 個人差が大きいことだから、誰も正確なことは言えないが。しかし半分は入ったワケだから、最悪そこまでで動かせば、やって出来ないことはないハズである。

「……あと、シモの話も切実ですが、まずはテッちゃんがもう一度謝ってくると思うので、その時は必ず言葉にして許すって仰って下さいよ?」

 美羽の確認に、メローディアは少し自信なさげ。どこか「なあなあ」で済ませそうな雰囲気に、美羽はもう一度、発破をかける。

「テッちゃんの一度の失敗も許せませんか? それだけで、光臨を授けてもらったことも、魔界に連れて行って鍛えてもらったことも、怪我も厭わず助けられたことも、全部全部吹き飛んじゃったんですか?」

「そ、そんな! そんな恩知らずではないわ! 気持ちなんて微塵も揺らいでないわよ!」

 メローディアは美羽の言葉に、改めて自分がどれだけ多くのものをもらっていたのか再認識した。それと同時、気持ちが溢れだす。

「もう一度、抱いてって言うわ。全部許すから、私から離れないでって……」

 感極まって泣きそうだ。美羽はそんな彼女を抱き締めて、

「その意気です。続きはテッちゃん本人に、ですよ」

 背を撫でながら言葉をかける。世話が焼けるなあ、とは思いながらも、やはり同性。気持ちは分かるし、こんな面倒くさい状態で鉄心の前に放り出すことは出来ない。

 しばらくそうして、お互いの体温を感じているうち、メローディアも落ち着いてくる。

「ねえ、美羽。私、鉄心だけじゃなく、アナタにも出会えて良かったわ。シェアの相手がアナタで本当に良かった」

「それ、似たようなこと、テッちゃんにも言われましたよ」

 美羽が堪らず吹き出す。なんだかんだ似た者同士じゃないか、と。なら上手くいかない道理なんてない。

「私も……テッちゃんとメロディ様に出会えて良かったです。だから、明日は必ず三人で結ばれましょう」

 

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