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善悪二刀  作者: 生姜寧也
第3章:貪食臥龍編

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第83話:急がば回れ

 どこにも行かないよ、とメローディアの髪を撫でつけながら、鉄心はその唇に優しくキスを繰り返す。その合間に彼女の服を脱がせに掛かるが、白いボウタイブラウスの構造が分からず、まごついてしまう。メローディアが少し笑み、自分で脱いだ。

 すると水色のブラジャーが露わになり、鉄心はやや手間取りながらもそれを外した。白磁のような美肌。桜色に程近い頂。彼の頭がクラクラする。

 蝶を捕まえるように優しく膨らみを手で包む。メローディアの鼓動と体温が掌から伝わる。少し力を入れて揉むと、「ん」と小さな声が、可憐な唇から漏れた。鉄心はもう堪らず、唇を寄せ、彼女の頂に吸い付いた。

「鉄心……赤ん坊みたいよ?」

 メローディアが掠れた声で言う。美羽より少しだけ大胆に乳房を晒せるのは、日本人とトップレスへの感じ方が違うせいか。だが、鉄心が夢中で吸い付き、舐め回すのにつられ、羞恥でどんどん顔が赤くなっていく。

 やがて最後にもう片方の頂にもキスをして、鉄心はメローディアから体を離す。そして海外仕様の大きなベッドの反対端に腰掛けている美羽に近づいていく。既に彼女はワンピースを脱いで下着姿になっていた。鉄心がメローディアの脱衣に手間取っていたのを見て、先んじてやっておいたらしい。鉄心はその優しさに胸の内が熱くなり、堪らず彼女を抱き寄せ、口付けを交わす。舌を差し入れ、美羽のそれと絡ませる。その間に美羽は自らブラジャーも外してしまった。鉄心はその柔肌に指を沈めながらキスを続ける。

 放っておかれる形のメローディアは、寂しさと、自分にだけ責めが集中しない事への安堵が混ざり合った複雑な心境だったが、やがて寂しさが勝り、鉄心の背に抱き着いた。肩甲骨の辺りに頬擦りをし、彼の服を脱がせにかかる。チャックを探して背に指を這わせるが、見つからない。甚平の構造が、彼女には分からないのだ。

 美羽が鉄心に乳首を吸われながらも、彼の体前面にある合わせを解いてやる。するとフワリと甚平が広がるので、メローディアでも脱がせることが出来た。現れたのは、背に包帯を巻いたままの戦士の躰。下半身だけ残った和装と筋肉質な上半身に、メローディアも美羽も得も言われぬ色気を感じた。

 鉄心は今度は振り返り、メローディアを抱き寄せた。こちらも美羽に倣ってスカートを自分で脱いでいたため、ショーツのみになっていた。鉄心は優しく、そのショーツ越しに秘所に触れた。既に少し湿り気がある。

「ゴム……取ってくる」

 鉄心は立ち上がり、机の引き出しから暗色の箱を取り出し、再びベッドへ戻った。これを鉄心の鉄芯に装着し、二人の初めてを奪うのだ。そのことを思うと、メローディアは緊張で喉の渇きを覚え、美羽は覚悟の定まった顔で微笑んだ。

「まずメロディ様に半分。その後、美羽ちゃんに全部挿れる。最初に受け入れてくれるのはメロディ様。最初に全部受け入れてくれるのは美羽ちゃん。二人に差はつけたくないから」

 これなら鉄心の初めても二人で分け合える。美羽とメローディアも異論はなく、コクンと頷いた。

 そして……



 結果だけ言うと、三人の初体験は半分成功、半分失敗に終わった。



 メローディアは鉄心を突き飛ばし、毛布だけを体に巻き付けて、ベッドを飛び下りた。そのまま部屋の外へ飛び出して行く。

「ま、待ってメロディ様!」

 鉄心は着る物も着ないまま、追いかけようとして美羽と目が合った。美羽もビックリしているようだったが、すぐに、

「追いかけてあげて」

 と鉄心の背を押す。彼女とて処女を捧げた直後。本当は鉄心と抱き合って愛を囁き合いたい気持ちもあるだろうに。

「ありがとう、ごめん!」

 鉄心はそう言い残し、メローディアの後を追って部屋を飛び出した。廊下に出てすぐ左右を見渡し、

「あ、待って!」

 毛布の塊を見つけ、駆け寄って行く。メローディアは振り返り、鉄心の姿を見とめると、手近な客室へと滑り込み、中から鍵を掛けた。

「メロディ様! 開けて下さい。謝らせて下さい」

 部屋の前まで追いついた鉄心は、ノックをしながら声を掛ける。

「本当にごめんなさい。アナタを泣かせてしまった。こんなつもりじゃなかった」

 部屋の中からは現在進行形で、彼女がすすり泣く声がしている。鉄心は胸を締め付けられ、激しい後悔の念に苛まれる。侮っていた。生殖本能に振り回されて大チョンボをやらかす古今東西の男たちの話、鉄心は今の今まで他人事だと思っていた。自分なら必ず理性的に、落ち着き払って行動できるだろう、と。数々の修羅場にあって、冷静さを保ち続けた自分が、今更、女体の一つや二つで、自分を見失うとは思えなかったのだ。だが現実は、この通り。

「守りたい、大切にしたい女性を自分で泣かせてしまうなんて、男失格です。本当にごめんなさい」

 見えてはいないだろうが、鉄心は扉に向かって頭を下げた。

「……大切にしたいって思ってくれてるの?」

 返事があると思っていなかった鉄心は顔をガバッと上げ、

「はい。何かあれば命懸けで守りたい、そう思ってます」

 覚悟のこもった言葉で応える。だがメローディアにはイマイチ響いた様子がなかった。

「……今は帰ってちょうだい」

「…………分かりました。夕飯の後でまた来ます」

 大人しく引き下がる鉄心。着衣を整えた美羽が鉄心の分の下着と甚平を持って追いついてきた。そう言えば、と鉄心は自分の体を見下ろす。全裸だった。



 夕食の場にもメローディアは姿を見せず(彼女の服は、あの部屋の前の廊下に置いて、その旨伝えているので、既に着ているハズだが)、大きな食堂で美羽と鉄心ふたりきりで、隣り合って座り、平らげた。ちなみに調理、配膳も美羽が全て行っていた。

「……なんか全然ダメダメだなあ、俺」

 食後のひと時、鉄心が切り出した。

「え?」

「さっきは暴走しちゃうし、美羽ちゃんのケアも出来なかった上、料理まで作らせちゃって」

「料理はお仕事だから気にしないでよ」

 家政婦の業務内容だ。

「ケアも大丈夫だよ。私は捧げられただけで、満ち足りてるから」

 美羽の優しさに鉄心は感じ入る。

「俺、キミに会えて、一つになれて、本当に良かった」

「テッちゃん……それは私こそだよ」

「痛みとかは大丈夫? 結構血が出てたけど」

 自分で言って、破瓜の血を流している相手を放置してしまったのか、と再認識して、鉄心はまた凹んでしまう。

「うん。紙で指をパックリ切ったような感じ?」

「それ、地味に長く痛いヤツじゃん」

 鉄心の言葉に、ふふと美羽も笑う。堪えれば動けるくらいなので、比較的痛みは軽い方だが、それでもやはり、男にはない負担なので、鉄心としてはいたたまれない。

「もっとさあ……ロマンチックな初体験にしてあげたかったんだけどなあ」

 それを聞いて美羽はまたも笑った。

「意外に男の子の方がロマンチストって本当なんだね」

「え?」

「テッちゃんには悪いけど、三人とも初めてでそう上手くいくとは思ってなかったよ?」

「そうなの?」

「うん、そもそも膣が硬すぎ、狭すぎで、女の子の痛みが激しくて、一回で繋がれないってパターンも全然あるんだよ。多分メロディ様も結果的には、今日はあそこまでで終わっておいて良かったんじゃないかな」

 初めて同士で、キチンと初夜で繋がれて、お互いにフィニッシュまで行けるなど楽観的に過ぎたのか、と鉄心。

「ロマンチックなのは、また今度期待しとく」

 美羽は少し茶化したようなトーンで鉄心の辛気臭さを吹き飛ばしてやる。

「ありがとう」

 横から腰を抱く鉄心。その肩に頭を預ける美羽。

「……焦りすぎたよなあ」

「うん。メロディ様もテッちゃんもね」

 おかげで美羽は自分でも驚くほど冷静で居られたが。

「お休みのキスにしても、メロディ様が提案してくれて、なんかこういう方面では全然引っ張れてないなって思ったら、その」

 今回にしてもメローディアがキラーパスをくれたようなもので、そこをスルーしては男が廃る、などと思ってしまったのだ。

「男の子だなあ」

 美羽がしみじみと。

「洞窟では余裕綽々で私たちを引っ張ってくれてたから、ついつい忘れがちだけど、テッちゃんだって初めての事は完璧にはリードできないよね。なのに見栄張っちゃって……可愛いなあ」

「勘弁してくれよ」

「私は今日、テッちゃんと体を重ねて良かったと思ってるよ。また一つアナタを身近に感じられたから。大丈夫、ダサい所も見せてよ。嫌いになったりしないよ?」

 美羽にしては珍しく、片眉を吊り上げて挑発的な表情。彼女はこんな顔もするのか、と鉄心は驚いた。

(同じ事か。俺も色んな面を見せても大丈夫だって。そう言ってくれてるんだ)

 鉄心は最早、美羽の体を丸ごと包むように抱き締めて、その頭にキスをする。愛おしくて仕方なかった。このまま胸の中に閉じ込めてしまいたいと、そんな馬鹿なことまで鉄心は考えた。だが、

「交代」

 美羽が鉄心の拘束を解き、逆に彼の顔を胸に掻き抱いた。

「ほ~ら、テッちゃんの大好きなおっぱいだよ? 好きなだけ甘えて良いからね」

 揶揄い半分、母性半分。鉄心は温かくて柔らかい彼女の胸の中に、もうしばらく閉じ込められていることにした。

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