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善悪二刀  作者: 生姜寧也
終章:覇道遊戯編

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133/166

第133話:取り調べ

「レーザーなどの高熱を発する、特殊な銃火器を使った痕跡とおぼしき黒ずみが見つかりまして」

 リードは自分の手元にあるスペアの資料を見ながら、先程よりも落ち着いた声で解説を入れる。

「ふむ。それで? 私たちはどう捜査に協力するというのかしら?」

「公爵様に関しましては、代々の家宝をユニークとして使用されていますので……」

 捜査線上からは除外ということらしい。なるほど、と鉄心。

「俺は最近この国に来た、ユニークも定かではないアタッカーだから、ということですか」

「……はい。アザミさんだけでなく、ユニークが未知数なアタッカーに関しては全員、当たるつもりです」

「そうですか」

 鉄心の対応も普通。先程の刃で舐められるかのような視線は鳴りを潜めており、リードもホッとしていた。だがサイコパスは表面を取り繕うのが上手いということも肝に銘じておかなくてはならない。最初のアレが本性ということだろう、と。だが引っ込めたということは、現状は敵認定は受けていないと判断して良いのではないだろうか。鉄心だけを特別に疑っているワケではないという説明が効いたと思われる。それで自信を取り戻したリード。そうだ。こういった手合いに対する交渉術も自分は心得ている。経験はこちらに軍配だ、と。

 鉄心は背中を掻くフリをして、そっと邪刀で()()()()の先を切った。そしてそのまま、さりげなくテーブルの下へ。小さな血玉が浮く指先で、ズボン生地の上からレッグホルスターにチョンチョンと触れた。

 邪刀・霞。

 他者からの認識阻害の術。復活したての邪刀の試運転には丁度良い機会だった。問題なく発動したようで、鉄心が小さく笑った。

「じゃあ、俺のユニークを検めたいということで良いんですね?」

 首肯を返すリード。鉄心は立ち上がり、ベルトに挟んでいた聖邪の二刀を引き抜いて、テーブルの上に置いた。

「確かめさせて頂いても?」

「触れるものなら」

 鉄心の言葉に、リードは伸ばしかけていた手を引っ込めた。賢明ね、とメローディアも小さく呟く。

「抜いて中身を見せてもらっても?」

 鉄心本人にやってもらう方針に切り替えたらしい。一つ鼻息を漏らし、鉄心は純白の鞘から聖刀を抜き放った。美しい刃文はもんが波打つ業物。黒い鞘からも邪刀を抜き放って見せる。

「……っ」

 なにか。リード自身も上手く言語化できないのだが……こちらの邪刀は聖刀とは打って変わって、見ているだけで不安になるような、焦燥を駆られるような、そんな心地にさせられる。

 この如何にも聖騎士が持っていそうな白い刀と、悪鬼羅刹が己の瘴気に浸して染め上げたような黒刀。これを同時に扱うのか、とリードはにわかには信じがたい気持ちだった。

邪正一如じゃしょういちにょ。二つで一つのユニークです。テッちゃんは両方に見初められているんですよ」

 彼の心の中を読んだかのようなタイミングで、鉄心の右脇に座る少女が言った。ふくふくとした丸顔の、愛らしい少女。正にただの高校生という雰囲気で、明らかに場違いな印象をリードは抱いていたし、なんなら先の侍従長の下に就く、メイド見習いか何かだとすら思っていた。それが急に、核心的なことを前触れもなく話すのだから、ベテラン刑事をして大層驚いた。いや、驚きだけではなく。

(気味が悪いな)

 見初められているという言い回しも、どこか魔の側に立ったような言い様で。この少女すらマトモではないのかも知れない、と思わされる。

「さて、刑事さんの言うレーザーとやらが出る武器ではなさそうですが?」

「……」

 リードは迷う。普通の相手なら、服を脱がして、他に武器を隠し持っていないか確認するところだが。

「公爵様、彼のボディーチェックをやって頂けないでしょうか?」

「あら? 異なことを言うのね。鉄心がダブルでもない限り、このユニーク以外に何も持っていないハズだけれど?」

「いえ……その。もしかしたら魔導具ではなく、一般のレーザー銃を持っている可能性も考えて」

「ん? そんなことを言い出したら、私やメロディ様、どころか誰でも持っている可能性はあるんじゃないんですか?」

 ユニークと踏んでいるからこそ、アタッカーに絞って聞き込みをしているという話だったハズだが。

「……」

 再び鉄心の瞳がすうっと細くなる。心臓をグッと掴まれたかのような圧迫感に、歴戦の刑事の背筋にプツプツと脂汗が浮かぶ。

「なるほど、ハナから俺への嫌疑ありき、というワケか。下らない嘘をついたモンですね」

 明らかに怒気を孕んでいる声。リードは生きた心地がせず、喉がカラカラになっていた。

「……メロディ様、ボディーチェックをお願いします」

「え、ええ」

「これで何も無かったら、こっちからも要望を聞いてもらえますか?」

 訊ねながらも、有無を言わせない調子だった。拷問も辞さないという意思すら垣間見える。刑事は頷くより他なかった。

 そしてメローディアが鉄心の上着を脱がし、シャツ一枚になった彼の腕、脇腹を軽く叩くようにしてチェックしていく。ズボンに下がり、腿の外側を叩く。美羽が「あ」と言いかけ、慌てて声を飲み込んだ。明らかに何か膨らみがある部分を叩いて、その形がズボン越しに透けて見えた。警察ならまず気付くであろう、ガンホルダーの形状。だが、

「……」

 リードの様子に変化はない。注意深く、目を皿のようにしてチェックの様子を見守っているハズなのに。

(あれが邪刀・霞……)

 美羽はその技術の高さに感嘆する。この至近距離で銃火器のプロの目を欺くとは。

「さて。何も無かった、で良いですか?」

「お部屋も見せていただきたい」

「……弁えなさい。令状なしの家宅捜索を我が公爵家に執行するというのなら、私も黙ってはいられないわよ」

「え、越権でございました。お許しを」

 ふん、と鉄心が鼻を鳴らした。

「さて、先ほど言った要望ですが……いくつか質問に答えてもらいたい。まず俺を疑ってる根拠を教えて下さい。何か刑事さんの中で確信があるんでしょう?」

「……」

「答えてもらえるかしら? この部屋のカーペット、すごく高品質で気に入ってるから、汚したくないのよ」

 メローディアのそれはハッタリでも何でもなかった。実は今、鉄心のハゲしメタルがリードの腕のすぐ傍まで這って行っている。先ほど鉄心が切った自身の()()()()、その指先から流れた血は、ハゲしメタルの指輪にも付着していたのだ。つまり邪刀・霞はガンホルダーのみならず、ハゲしメタルにも効力が及んでいる状態だった。

「……」

 リードの額には今や玉のような脂汗が浮いていた。ハゲしメタルは認識できてはいない。だが、異様なプレッシャーを感じているのだ。何か得体の知れない物に囲まれている。断れば、それが一気に自分へと牙を剥く。そういう第六感。

 果たして彼の決断は……

「わかり……ました」

 捜査機密の漏洩。警官としては不正解だが、生物としては正解だろう。

(流石に街のチンピラより危機察知能力はマシか)

 鉄心が軽く腕を振った。リードには認識できないが、その指先にハゲしメタルが巻き戻っていく。見えないながらも確かに傍にあったプレッシャーから解き放たれ、リードは大きく息を吸い込み、吐き出した。それを二度、三度、繰り返す。

「……で?」

 鉄心が再び一文字で詰める。妻二人はとっくに気付いているが、このリードという男、あまり鉄心の好かないタイプだった。最近ではマシになってきたが、初期のラインズを思わせる。アタッカーとして中途半端に力を持つがゆえに高慢なところがあり、それでいて権力には弱く、また荒事においても力量差を見せられれば途端に勢いを失う。端的に言ってダサい男、という印象。そして案の定、ラインズのような小賢しい嘘をついていたのだから、鉄心の勘は正確だったということになる。

「こちらを」

 ようやく息が整ったリードは、先程のクリアファイルから別の資料を抜き取り、テーブルの上に置いた。ススと手で押し、寄越してくる。ベックスの後頭部に開いた銃創を撮ったものだ。美羽が「う」と顔をしかめ、視線を逸らした。

「なるほど……これを見て俺と決め打ちしてきたワケか」

 つまり本当に既製品のレーザー銃の線を疑っているワケではなかった。ハナから鉄心のユニークの仕業なのではないかと、そういう推理の下、ここまでやって来たらしい。鉄心は銃にはまだ明るくないので詳しくは分からないが、銃創から口径なども割り出せるのだろう。そしてそれが二つの現場で一致したということか。だが肝心の凶器が見つからない、という状況。

「ちなみに……この捜査はひとえに警察としての職業倫理によるものですか?」

「え?」

「今回の痛ましい事件に対し、正義感を原動力として職責を全うしたい、純然にそれだけの意図なのか? と聞いてるんです」

「えっと」

 リードは逡巡して、

「個人的に……世話になった人のお孫さんも行方不明ということで」

 完全なウソではないが、建前に近い答えを返した。既にこの刑事は恩返しは諦めて、自らの保身・安全を最優先に切り替えている。

「……なるほど。そうでしたか」

 温度の感じられない鉄心の声。刑事の性根を正しく見抜いているようだった。

 

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