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善悪二刀  作者: 生姜寧也
終章:覇道遊戯編

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第128話:ローズクォーツ(後編)

「じゃあ次なんだが」

 鉄心は後ろを振り返る。三層の二人ともコミュニケーションを取らせて様子を見たい、という判断だった。意図を察したらしいメノウが一歩前に出た。

「ローズクォーツ。直接会うのは初めてだったな」

「あ、トリ! お手紙の配達、ご苦労だったっス」

 メノウの後ろにいる美羽は、一瞬彼の肩がピクッと跳ねるのを見た。上から目線に気分を害したのだろう。鉄心としては十傑内でも階層による上下関係があるのかも観察していたのだが、会話の一往復で可能性が消えた。

「……オマエは四層の連中と仲が良いワケではないというなら、そもそも何故、今回の遠征に参加したんだ?」

「強いヤツと会えるかもって思ったからっス」

「なら、人間の乱獲に積極的な賛成ってワケじゃねえのか?」

 サファイアも会話に混ざる。

「らんかく? よく分からないっス。僕はターコイズのヤツに、人間界の強い剣士と会えるかもと言われたから、ついて来ただけっス」

 なるほど、と一同。オツムの方があまり宜しくない他の連中をターコイズとやらが口八丁で動かしている。これが乱獲派の実態なのかも知れない。となると最悪、ターコイズ以外はゲートの量や頻度に関して、特に意見はない可能性も。

「ローズちゃんは最初からつがいになる人を捜しに来たってこと?」

 いつの間にか美羽が略称をつけていた。

「そういうワケじゃないっス。純粋に歯応えのある狩りがしたかっただけっス。そもそも僕より強い人間が居るなんて想定外っス」

 なるほど、と鉄心。ゴシュナイトと同じく、人間に負ける可能性などは考慮していなかったということ。なのに試し斬りの相手どころか、四層全員で挑まないとならないレベルの化物を人間界で見つけようとは……彼女に走った衝撃は察して余りある。

「けど僕だけ留守番、しかも変なオッサンのケーゴをやらされて、イライラしてたっス」

「……変なオッサン?」

 一同の顔に疑問符が浮かぶ。

「そのオッサンの警護任務はオマエ一人がやって、他の連中は俺たち、正確には美羽ちゃんの捜索をしてたってことか?」

「そうっス。僕だけお屋敷の庭にずっと潜んでいったっス。その間に、ターコイズたちは出かけてたっス。そうか……アレは魔王様を捜してたっスね」

 話しながら、自分の頭の中が整理できたのか、ウンウンと頷くローズクォーツ。

「そういうのも教えられてなかったのかしら?」

「いや、なんかイレギュラーの原因を捜したいとは言ってたっス。そのイレギュラーっていうのが魔王様の事だとは知らなかったっス」

 恐らくだが、彼女自身も特に興味が無かったのだろう。考察すらしていなかった印象だ。

「ちなみに他の二人は私がイレギュラーで、かつそれが魔王っていうのは辿り着いてるのかな?」

 美羽が訊ねるが、ローズクォーツは斜め上を見て思案顔。軽く開いた口元から、長い犬歯が覗いた。

「分からないっス。僕はバカ犬について行って、たまたま知っただけっスから。そのことは勿論、教えてない、というかまず最近は会ってもないっスけど」

 つまり彼女経由からは漏れていないが、ターコイズたちが独自の捜査や推理で正解に辿り着いた可能性は否定できないということ。

「オマエさんの言う変なオッサンていうのは、誰か分かるか?」

「名前は知らないっス。聞いた気はするっスけど」

 それは覚えてないと言うんだ、とサファイアにツッコまれるが、虎娘はどこ吹く風。

「ただ金色の屋敷の近くに住んでるオッサンっスよ」

「な!?」

 全員が驚きに目を見開いた。

「人間界の貴族と通じているということか?」

「いや、そうか。オッサンというのだから、相手は人間だよな。思えば」

 彼女の語彙に全幅の信頼が置けないので、みな無意識的に、人間の中年男性で確定させるのは尚早と判断していたのかも知れない。

「貴族……どんな容姿かは分かるかしら」

「んー。直接顔を見たのは1回だけっスからねえ。あとは影からケーゴをするという約束だったっス」

 加えて、種族の差ゆえ、人間の顔をあまり細かく覚えられない(メノウ談)というのも、彼女の記憶を朧気にする要因だろうか。

「そうか。一度サファイアが位置特定した時に、シャックスの屋敷付近にローズクォーツの反応が出たのは」

 メノウが得心顔で言う。なるほど、と全員が頷いた。

「その護衛対象の屋敷の庭に潜伏していたからなのね。ということは私の家の近くに居を構える貴族」

 必然的に爵位の高い貴族に絞られる。更には。

「あの時は……しばらく潜伏後、王城に向かったとか言ってなかったか? サファイア」

 鉄心の確認に、サメ魔人は大きく頷いた。

「待って。待って頂戴。貴族街に屋敷があって、登城することもある人物」

「違うっス。あのデブは毎日、王城に行くっス。僕はその車を後ろからゆっくり追尾するっス」

「っ!?」

 メローディアが息を飲んだ。それは本当なの、と何度も確認。辟易したように、ローズクォーツが「そう言ってるっス」と繰り返す。

 一同はメローディアの言葉を待つ。彼女はその端正な顔に深刻な色を浮かべ、

「そのオッサンというのは、デブだけでなくチビでハゲじゃないかしら?」

 確認を重ねた。その様子から、相手は疑念を持つだけでも慎重を期さないといけない身分だと伺い知れる。

「チビは多分。周りの人間より小さいから……チビだと思うっス」

「ハゲは?」

「マダラって言うんすかね? 生えてたり、なかったり、忙しかったっス」

 髪の濃淡が激しいのを忙しいと表現するのは、中々人間にはない発想だ。今度使おう、と鉄心は思った。

「その男は……王弟とか、殿下とか呼ばれていなかった?」

 メローディアが慎重に言葉を紡いだ。美羽はハッとする。なるほど、あの王城の廊下ですれ違った男性、確かに風貌はそのようだった、と。

 果たして。

「あ、そうっス! デンカっていうのは呼ばれてるっス!」

 ローズクォーツの返答に、メローディアは静かに瞑目した。また血の雨が降る。今度は王族に。

「なるほど」

 鉄心の声には温度が感じられなかった。腐敗貴族の処理に関しては、もはや毛ほども感情が動かないらしい。あらかた害虫を駆除し終えた後に、まだ生き残りを見つけた、という程度。

「そのハゲ殿下以外の貴族には会ったか?」

 この際だから、残党は全て炙り出す腹積もりのようだ。メローディアはノエル女王が関与していない事を祈るばかり。彼女としても敬愛するおばを信頼したいところだが、まつりごとを執り行う以上、綺麗事だけでは立ち行かないことも重々理解していた。

「うーん。たぶん貴族って大体ピカピカの服着たヤツっスよね? じゃあ会ってないっス。僕の会った他の人間はそういう感じではなかったっスから」

 メローディアの祈りは通じたようだ。

「みんなデンカとやらに頭を下げてたっス。たぶん家来っスね」

 つまり王弟とその従者以外とは会っていないということ。

「家来にはすごく良い人間が居たっス。僕の尻尾につけるリボンをくれたっス」

 聞いてもいない情報だったが、鉄心陣営のローズクォーツに対する警戒がまた一段下がった。どうやら、友好的な人間に対しては、それなりに懐くようだと。勿論この虎娘がそんな打算を持って話したワケではないだろうこともプラスに働いている。

「……ローズクォーツ、オマエは今もその警護任務に就いているのか?」

「たぶん」

「多分って。ローズちゃん、その王弟殿下に何か断ってここまで来たんじゃないの?」

「何もっス。さっきも言ったように、そもそもあのオッサンと顔を合わせたのは一度きりっスから。影からケーゴって要するにサボッててもバレないって事っス」

「それは流石に、都合の良すぎる解釈じゃないか?」

「そんなことないっス。見てて欲しいっス」

 そう言って、ローズクォーツはその場で沈むように体勢を低くした。すると、どうだろう。訓練場の床面に溶け込むような錯覚を覚え、場の全員が目を擦った。意識して見つめ直し、

「あ、いる!」

 美羽が声を上げる。一同、だまし絵でも見たような顔をしていた。

「鉄心の邪刀・かすみに似てるわね」

「な!?」

 ローズクォーツとしては渾身の技だったのだろう。鉄心に褒めてもらいたかったのかも知れない。だが当の鉄心が似た技術を持っているとは。

「まあ俺のは、ほぼ認識阻害だけどな。カメラとかで記録されると映るし」

「あ! それなら僕の技の方が上かもっス! カメラで撮られてても、目を凝らして意識しないと見えないっスから!」

「おお、それは凄いな」

 鉄心は純粋に褒めた。自分にはない技術に対しては尊敬や関心を抱きやすい、そういう素直な面も持っているのだ。

 まあ実際はその分、鉄心の霞は本人のみならず、物にも性質を付与できるので便利な点も多いのだが。

「とにかく分かったよ。その能力のおかげで、居る居ないの判断がつきにくいってことだな」

「そうっス。家来の人達みたいに魔力が全然ない場合は、更に見つけにくいっス」

 ということはだ。

「まだあっちとも縁が切れたワケじゃない」

「なるほどな」

 鉄心と三層組は思案顔。この虎娘、ジョーカーたり得ると。鉄心の熱い眼差しを受け、ローズクォーツはクネクネと体を揺らし照れた。

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