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善悪二刀  作者: 生姜寧也
第3章:貪食臥龍編

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第115話:尋問という名の

 鉄心は美羽の長口舌を聞き終わると、ふっと優しく笑った。あの気弱な美羽が、ヤクザ者相手に、これだけの啖呵が切れるようになったのか、と。その成長にしみじみと暖かな感慨に浸る。が、そこで雑音。

「てめえ、一生恨んでやるからな!!」

「人殺しが! ブタ女!!」

 聞くに堪えない罵詈雑言が本格的に始まる前に、鉄心が再び匣を二人の頭上に落とす。

「ブタじゃないです。標準プラス4キロは、ぽちゃカワだと結論が出てます」

 先代の写真で揉めた時、確かにそういう話で丸く収めたが、今それを持ち出すのか、と鉄心は苦笑。

(やっぱりこの子、大物になりそう……じゃねえや。元から大物か。魔王だもんな)

 なおもフゴフゴと騒ぐ男たち(こちらの方が余程ブタのようだ)。鉄心は処すべきか思案する。と言うか、だ。

「サファイア、このゲートっていつまで開いてんだ?」

「お前さんたちが通るか通らないかハッキリしないから、留まってんだよ」

「そ、そんな自動ドアのセンサーみたいなシステムなんですか?」

 どういうカラクリだろう、と美羽はゲートの縁取りをペタペタ触る。

「つーか、こっちこそ説明して欲しいんだが……こいつらは殺して食っていい奴等か?」

 その鮫魔人の言葉に、男たちがゾワッと背筋を震わせる。そしてまた遮二無二、手足を動かして逃げようとするが、

「うざってえんだよ」

 鉄心が振るったハゲしメタルがムチのようにしなり、男たちの背中を順に打った。パシーンと乾いた音が荒野に響いた。後には男たちの苦悶の呻き。シャツの生地が裂け、その下の皮膚まで真っ赤になり、水ぶくれのように腫れ上がっている。

「んー。皮膚も裂くつもりで打ったんだが」

 ムチも要訓練だな、と胸中でメモする鉄心。

「わりい、話の途中だったな。そいつらなんだが……」

 言いながら、魔界に入ろうかどうか、足を浮かせたまま止まってしまう。チラリと視線を遣った先は美羽。荒事にも少し慣れ、逞しくなってきたとは言え、拷問風景を見せるのは憚られるのだ。だが、その視線に含まれた気遣いを正しく見抜いた美羽は、

「わ、私も行く。見届ける義務があると思う。私は……この人たちを見捨てるんだから」

 そう言い切った。意思と決定、そしてその責任。男たちに、ああ啖呵を切ったなら自分は違うということを示さなくてはいけない。見捨てるのだと、明確に自分の意思で決めたのに、後は全て鉄心任せにして、ヌクヌクと自室で待機、それは許されないと思ったのだ。

「そうか。うん、じゃあ一緒に行こう」

 差し出された鉄心の手を、美羽は意思を込めて取る。そしてドアの向こうへ踏み出し、二人、魔界の三層に降り立った。



 取り敢えず、サファイアとメノウ(後から合流した)に、この度の事情を話したところ、二人の表情が曇った。

「おいおい。一応は信用して姫を預けてるんだぜ? 人間性はともかく、腕だけは確かだってな」

 サファイアの呆れ混じりの言葉に鉄心は、

「全く以て、弁解の余地もないよ。自分の不甲斐なさで凹みっぱなしだ」

 と、素直に自身の非を認める。調子の狂ったサファイアは、小さく鼻を鳴らした。そして、男たちに視線をやる。

「まあ取り敢えずコイツらは……」

「ああ。産まれてきた事を後悔させてやらないとな」

「知ってる情報は全部吐けよ? 態度次第では楽に殺してやっても良いぞ?」

 人と魔が手を取り合った瞬間だ。ある意味、この男たちは並外れた才能があるのかも知れない。なにせ世界最強のアタッカーと十傑を同時に激怒させるなど、そうそう出来ることではないのだから。まあ、その代償が己の命、というのが難点だが。

 それから十分ほど。殴る蹴るの簡単な暴行で、男たちはいとも簡単に情報を話し始めた。

 自分たちに仕事を与えているのはジェームスという男で、今回もその男の紹介だったと言う。仕事内容は美羽の誘拐。殺さなければ、どれだけ痛めつけても構わないという指示だったらしい。それを聞いた時点でメノウが片方の男を殴りすぎて瀕死にしてしまった。残る黒髪男は、それを見てますます命乞いの為の語彙をフル回転させるが、鉄心に鼻を蹴られ、黙らされる。聞かれたことだけ答えろ、とサファイアに凄まれ、恐怖に縮こまる舌を必死に動かし、続きを話す。

「ジェームスは……フードとマントの男に頼まれた、と言っていました。それ以上は知りません! ホントです!」

 黒髪男が半泣きになりながら話した内容。恐らくこの男は本当に元請け情報は知らないだろう。ジェームスと名乗るその仲介役が余程バカでなければ、トカゲの尻尾に無駄な情報を与えるハズもない。

「フードとマントねえ。それだけじゃ、メノウみてえに十傑が変装して依頼した可能性も否定しきらんのか」

 鉄心が舌打ち混じりに。だが当のメノウが、

「いや、どうだろうな。ゼロではないが……もしミウ様の真価に気付いているなら、人間なんぞに任せはしないだろう」

 と首を横に振る。

「それに、どれだけ痛めつけても可なんて指示を出すとは思えん。心が壊れて魔力を使えなくなったら……っとと」

 一応、少し離れた場所で美羽本人も成り行きを見守っている。聞こえているかは微妙なところだが、「価値」やら「壊れる」やら、道具のような言い様をしてしまったと魔族二人が慌てて口をつぐんだ。まあサファイアのギザギザ歯は全く口内に納まっていないが。

「オマエ、出っ歯だな」

「雑な括りをするな」

 この状況で真顔のまま軽口を叩く二人に、黒髪男が卑屈な笑みを浮かべる。そのうち揉み手でも始めるかも知れない。事ここに至っても、まだ自分が助かる道があるのではないか、と希望を持っているらしい。まあ凡人からすると、彼らの機嫌が良くなれば自分にも恩赦が降ってくるかも、と思うものだろう。実際は全く違って。殺すことが確定している生物が傍に転がっていても、普通に知人と関係ない話も出来るということ。殺虫剤をかけて弱らせた蚊の近くで、何を気を遣う必要があろうか、と。

「さてと……そのジェームスってヤツの所属は分かるか? どこの組……じゃなくて、こっちだとファミリーか」

「わ……分からないです」

 黒髪男の返事に、メノウが無言で彼の足を踏みつけた。鉄心にやられて未だジクジクと血が滲む箇所だ。ブラックマンバで傷口自体は焼け付いているものの、やはり衝撃を与えれば噴き出す血の量は多くなり、痛みも戻ってくる。

「ぐ、あああああ!! いてえ、いてえよお。なんで俺がこんな目に!! クソ! クソ! 請けるんじゃなかった、こんな仕事!」

 少し落ち着いていた精神状態も、また揺れ動いたようだ。うるさくて敵わない、とメノウが足をどけた。

「まあ、それが嘘でもホントでも構わんだろ。次はそのジェームスとやらを捕まえよう。コイツの携帯で連絡を取りゃいい」

 サファイアの提案は、なるほど悪くなかった。依頼者の情報も、ジェームスの方がより詳しいものを持っているだろうし、反対する理由はなさそうだ。わらしべ長者みたいだ、と鉄心は内心で苦笑する。まあ交換内容が、使い捨てのチンピラで中堅のチンピラとトレードという何とも有難みのない話だが。

「おい。電話して、ターゲットを捕まえたと報告しろ。そうすれば命だけは助けてやる」

 鉄心のその言葉に、黒髪男の表情が一気に明るくなった。靴でも舐めそうな勢いだったので、鉄心は先んじて鎌鼬を飛ばす。瀕死で倒れていた茶髪男の首がスパンと斬れた。真っ赤な血が勢いよく噴き出す。

「ひいい!」

 黒髪男の悲鳴。片足の怪我を忘れたかのように、尻餅のままジタバタと後退った。

「変な気を起こしやがったら、あれと同じ水芸をやってもらうことになる」

 酷薄な笑みの鉄心に、男はコメツキバッタのように頭を上下に振りたくった。鉄心は「携帯」と短く指示し、男はすぐさまズボンのポケットから取り出した。が、よく考えれば。

「ここじゃ、電波が届かねえか」

 再び人間界に戻らなくてはならない。

「……さっきの場所に出口を出せないか?」

 サファイアに頼むと、背ビレをピコピコと動かした。それがどういう感情表現なのか、鉄心には計りかねる。訊ねようとして、だがその前にゲートを開いてくれたので、有耶無耶になった。

 また匣で囲いを作りながら慎重に扉をくぐる。ゲートの出現を通行人に見られれば面倒なことになるが、どうやら大丈夫そうだった。鉄心に続いて、美羽、そして男を引っ立てたメノウの順でくぐる。メノウはローブで体を隠し、包帯で顔をグルグル巻きにした上からフードを被って入念に隠している。サファイアは留守番、というより今しがた絶命した茶髪男(ごちそう)を味わうために魔界に残る。

 黒髪男は人間界に戻ると、途端に安堵の表情を浮かべた。そして携帯を操作し、美羽を捕らえた旨のメールをジェームスに送信。鉄心は、乗り捨ててあった男たちのバンの中に美羽を乗せ、ガムテープで口を塞ぐ。後ろ手に縄もかけた。どちらも男らが捕縛用に準備していたものだ。そしてその状態の写真を撮り、追加でジェームスに送らせる。するとすぐに返事があった。労いもそこそこに、引渡しの手順を指示する内容だった。

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