サバイバーラジオ
ハーイ!
元気かなエブリワン。初めましての奴、ヨロシク!
いつものサバイバーラジオ。パーソナリティのワン・イン・セブンだぜ。
イエーイ!
この放送を聞いてるみんなは、全員サバイバーだ。
えっ? 何からの生き残りかって?
それはさ、地震、雷、火事、親父からサバイブしたってこと。
そう、俺らは天災に負けず、事件事故に負けず、ろくでもない親兄弟、友人にも負けなかったんだ。
誇って、いいんじゃね?
だってさ知ってる?
この国は、毎日毎日一人以上の子どもが自殺。
毎週毎週、一人以上の子どもが親に殺されてるの。
困った国だね、ホントそう思う。
初めましての人のために、ちょいとワンの自分語りな。
ワンはね、毒親からサバイブしたんだぜ。
毒親レベル、限りなくマックスだった。
もうさ、夏って、やだよね。
よくあるでしょ、子どもの車内置き去り。
アレはひどいよね。
わざとだもん。
えっ知らなかった?
パチ狂いじゃ有名な話だよ。
置き去りにした子どもが生きてたら、大勝できるって。
ワンの場合はね、室内置き去り。
真夏でも、クーラーつけず、窓開けず。
水道の蛇口は、よちよち歩きのワンの手が、届かないとこだ。
汗ダラダラかいてさ、じっと横になってるの。
知ってる?
熱中症って、最後は汗もオシッコも出ないの。
体の中、モロ砂漠。
意識は朦朧。
干からびていく蟷螂。
そんな時、聞こえてきた声、朗々。
なんてね。
壁の薄いアパートだったから、隣の部屋の音が良く聞こえたの。
お隣さんは爺ちゃんで、朝晩ラジオをつけっぱなし。
『ピッチャー振りかぶって……』
なんて聞こえたから、野球放送だったね、きっと。
そんな時だったよ。
『打ったああ! 大きい! これは大きい!』
アナウンサーの声に混じって、聞こえたんだ。
――ココニイルヨ
――ココニ、イルヨ
聞こえた瞬間、口の中が甘くなったの。
不思議でしょ。
甘い唾液を飲み込んで、ワンは生き延びること、出来たんだ。
それからは、一人っきりで部屋に残されても、コワくなくなったの。
だって、いつもラジオの音が聞えてきたし。
ラジオの音の隙間に、ちょくちょく別の声が入ってね、こう言うの。
――ダイジョウブ
――キミハ、ダイジョウブ
大丈夫って声に、支えられたの。
自分でも、何度も繰り返して言ったよ。
大丈夫。
ダイジョウブ!
今、このネトラジ聞いてるみんな、言ってごらん!
ダイジョウブ、はい。
『大丈夫!』
オーケーオーケー! みんなの大丈夫、聞こえたよ。
だけどさ、まだまだ、ダイジョウブって思えない君、ワンからのお知らせ。
明日の朝、◎◎時、#$%&’☆※の海岸で…………。
K県のM海岸で起こった、児童集団失踪事件の容疑者、通称「ワン」こと一条某は、容疑否認並びに不穏当な言動により、警察病院に収容された。
「失踪じゃないよ、携挙だもん。みんな神の国へと旅立ったよ」
ゲラゲラ笑う一条によれば、神の御手により、子どもたちは毒親から救われたのだという。
さすがに警察がそれを鵜呑みにすることはなかったが、子どもの失踪届を出したうちの何人かは、児相が調査中の家庭の者であった。
後日SNSに、一枚の写真がアップされる。
それは海上に浮かぶ白い光に、子どもたちが次々と吸い込まれて行く画像。
子どもたちは皆、輝くような笑顔だった。
了
お読みくださいまして、ありがとうございました!
誤字報告、助かります。
なお本作は、佐野洋氏原作「赤外音楽」の、一部オマージュ作品です。