表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

サバイバーラジオ

 ハーイ!

 元気かなエブリワン。初めましての奴、ヨロシク!


 いつものサバイバーラジオ。パーソナリティのワン・イン・セブンだぜ。

 イエーイ!


 この放送を聞いてるみんなは、全員サバイバーだ。

 えっ? 何からの生き残りかって?


 それはさ、地震、雷、火事、親父からサバイブしたってこと。

 そう、俺らは天災に負けず、事件事故に負けず、ろくでもない親兄弟、友人にも負けなかったんだ。

 誇って、いいんじゃね?


 だってさ知ってる?

 この国は、毎日毎日一人以上の子どもが自殺。

 毎週毎週、一人以上の子どもが親に殺されてるの。


 困った国だね、ホントそう思う。


 初めましての人のために、ちょいとワンの自分語りな。

 ワンはね、毒親からサバイブしたんだぜ。

 毒親レベル、限りなくマックスだった。

  

 もうさ、夏って、やだよね。

 よくあるでしょ、子どもの車内置き去り。

 アレはひどいよね。

 わざとだもん。


 えっ知らなかった?

 パチ狂いじゃ有名な話だよ。

 置き去りにした子どもが生きてたら、大勝できるって。


 ワンの場合はね、室内置き去り。

 真夏でも、クーラーつけず、窓開けず。

 水道の蛇口は、よちよち歩きのワンの手が、届かないとこだ。


 汗ダラダラかいてさ、じっと横になってるの。

 知ってる?

 熱中症って、最後は汗もオシッコも出ないの。

 体の中、モロ砂漠。


 意識は朦朧。

 干からびていく蟷螂。

 そんな時、聞こえてきた声、朗々。


 なんてね。

 壁の薄いアパートだったから、隣の部屋の音が良く聞こえたの。


 お隣さんは爺ちゃんで、朝晩ラジオをつけっぱなし。

『ピッチャー振りかぶって……』

 なんて聞こえたから、野球放送だったね、きっと。


 そんな時だったよ。

『打ったああ! 大きい! これは大きい!』

 アナウンサーの声に混じって、聞こえたんだ。


――ココニイルヨ

――ココニ、イルヨ


 聞こえた瞬間、口の中が甘くなったの。

 不思議でしょ。

 甘い唾液を飲み込んで、ワンは生き延びること、出来たんだ。


 それからは、一人っきりで部屋に残されても、コワくなくなったの。

 だって、いつもラジオの音が聞えてきたし。

 ラジオの音の隙間に、ちょくちょく別の声が入ってね、こう言うの。


――ダイジョウブ

――キミハ、ダイジョウブ


 大丈夫って声に、支えられたの。

 自分でも、何度も繰り返して言ったよ。 

 大丈夫。

 ダイジョウブ!



 今、このネトラジ聞いてるみんな、言ってごらん!

 ダイジョウブ、はい。

 

『大丈夫!』


 オーケーオーケー! みんなの大丈夫、聞こえたよ。

 だけどさ、まだまだ、ダイジョウブって思えない君、ワンからのお知らせ。

 明日の朝、◎◎時、#$%&’☆※の海岸で…………。




 

 K県のM海岸で起こった、児童集団失踪事件の容疑者、通称「ワン」こと一条某は、容疑否認並びに不穏当な言動により、警察病院に収容された。


「失踪じゃないよ、携挙(けいきょ)だもん。みんな神の国へと旅立ったよ」


 ゲラゲラ笑う一条によれば、神の御手により、子どもたちは毒親から救われたのだという。

 さすがに警察がそれを鵜呑みにすることはなかったが、子どもの失踪届を出したうちの何人かは、児相が調査中の家庭の者であった。


 

 後日SNSに、一枚の写真がアップされる。


 それは海上に浮かぶ白い光に、子どもたちが次々と吸い込まれて行く画像。

 子どもたちは皆、輝くような笑顔だった。 


  了

お読みくださいまして、ありがとうございました!

誤字報告、助かります。

なお本作は、佐野洋氏原作「赤外音楽」の、一部オマージュ作品です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 怖い話です。ワンさんも子供たちが毒親から解放されたことがわかっているだけで、どこにいったのかは知らないのかも。 [一言] ウルトラマンエースのネタで、学生節を歌うヤプール老人によって異次元…
[一言] 私も前にちょっと調べたことがあるんですが、日本では年間約2万人もの人が自殺しているらしいですね。 事故死よりも自殺が多い国は日本のみだとか。 悲しいですね……。
[一言] ハーメルンの笛吹みたいに子どもたちをどこかへ連れて行ってしまう存在なのかな? でも、どう考えても子供たちにとってマイナスにはならなそうなので、ハッピーエンドなのかなと思いました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ