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⑸『上雨(じょうう)』
⑸『上雨』
㈠
上雨を待つ俺は、一種の変人なのだろう。しかし、本当に変人だろうか。そんなことは関係ない、と言ってやりたい。人間に変も、正常もないのである。そう、上雨が教えてくれるのだから、我々は我々を待ち望んでいる我々に、適合しなければならない。
㈡
しかし、ねばならない、何て、本当はどうでも良いことだ、奇跡の墓地に対して、失礼なんだろう。そうなんだろう、と墓地に言っても、死人に口なしなのは、分かっている。悲しくも、佇んでいると、上雨がまた、降ってきたのも、つかの間の喜びだろうか。
㈢
上雨が降りかかる時、切なくも痛切な、その勢いで、地上にスコールする時、まだぼやけた夕暮れが、そっと手を差し延べてくれるから、俺はまた、立ち上がり、歩いて行ける。まさに、上雨のおかげなのである、俺は、感謝の意を、一つ、また、ここに、述べておく。
上雨・・・よいうるおいをもたらす雨のこと。(『雨のことば辞典』から)