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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

DIVISION BOX

作者: 八丈 くるる


 四方八方から爆発の音が聞こえる。それだけではない。人々の狂ったような叫び声にサイレンの音。建物が崩壊していく音に地面が割れる音。とにかくその場は狂乱にあった。

 そんな中、叫びを上げることもなく額に汗を滲ませながら走っていく少女がいた。少女はやけに大きな荷物を持って辺りを右往左往していた。まるで何かを探しているかのように。

 しかしそんなことをしていれば当然、辺りの騒ぎに巻き込まれるもので、少女は近くに飛んできた爆弾の爆風に巻き込まれて到底ありえないような飛び方をしてついには持っていた荷物も手放してしまった。少女は痛む体に鞭を打ち慌てて手放してしまった荷物を探すが、視界が滲んで上手く探せない。

 とうとう力虚しく尽きてしまって倒れそうになったその瞬間、誰かが少女の体を片手で倒れないように支えた。

 少女が滲む視界で辛うじて見えたのは、この場には似つかないほどに綺麗な服に身を包んだ男と、その手に抱えられた落としてしまったはずの荷物だった。


 「なんでここにこんな奴がいるんだか」


 男はどこか呆れたような表情で少女を見つめる。


 「だ⋯⋯だ、れ」


 弱々しいながらも少女の口から出された言葉ははっきりと男に届いたようで、彼は「面倒事を押し付けられた哀れな男さ。ま、僕はとーっても優しいから気にしてないけどね」と、毒気が抜かれるような明るい声色でそう言った。

 男は少女の傷ついた体を見やると、「ちちんぷいぷいほにゃらららー」と人をおちょくっているかのようなふざけた言葉と共に少女を支える手をほのかに光らせた。するとみるみる内に少女についていた傷が治っていった。それと同時に、少女の視界は段々と明るく広く明瞭になっていく。

 少女はそれに驚いて声が出せなかった。


 「これで怪我は治ったかな? いやー初対面の子の怪我治してあげるとかほんっと僕って優しいなー」


 そんな少女を放って、男は自画自賛をしているだけ。

 変な人だ。それが少女の男に対する第一印象だった。しかしそんなことを考えている暇なんてないのだ。少女は思い出したかのように喋り出した。


 「あっ、その荷物返してください!」

 「おいおい。それが恩人に対する態度かい? ま、優しい僕はそれも許そう! しかしこの荷物は君には渡せないね」


 男は少女の身長が自分よりも幾分か低いことを良い事に荷物を高いところまで持ち上げる。


 「な、なんで!」

 「君だろ? 上からの使者ってのは」

 「どうしてそれを⋯⋯ってまさかノンフィクションって」

 「そう! 僕さ‼︎」


 男は少女の言葉の続きを声高々に叫んだ。

 男──ノンフィクションは手に持った荷物の中身を取り出そうとした。その瞬間、二人からそう離れていない場所で爆発が起こった。ノンフィクションは溜め息を吐いて荷物の中身を取り出すのをやめて歩き出した。少女は慌てて彼に続いて歩く。


 「別についてこなくでもいいんだぜ」

 「いえ、あなたにはまだ用がありますから。それにどの道ここにいても意味はないですし」

 「だよね。ここはただでさえ爆弾のやり取りが多いから嫌いだ。ま、それでも僕は友人のために何度も来る訳だけど。ああっ、僕ってホント優しすぎる!」


 会話をしようにもノンフィクションはその途中で何度も自画自賛を挟んでくるものだから少女は苦笑いを浮かべていた。そんな彼女の様子を知ってか知らずか、彼は直ぐに話を戻した。


 「それで用ってなに?」

 「あ、ハイヒール様からの伝言です。例の件は完了した。次に会った時に褒めろ。との事で」


 少女がそう言うと、ノンフィクションの先程までの明るい表情はどこへ消えたのやら、とても険しい顔をして、果てには大きく舌打ちまでした。

 少女が恐る恐るどうしたのかを聞こうとする前にノンフィクションは口を開いた。


 「帰ったらハイヒールに言っといてくれる? このクソビッチが。テメェはもっと泥水啜って血反吐吐いとけ。次会った時は左腕捥いでやる。股濡らしてお座りしとけ。ってさ」


 少女を向ける表情はとても笑顔だった。口角は確かに上がっていた。しかし開かれた目からはひたすらに闇しか見えず、笑っているはずなのに笑っているようには見えなかった。少女は自らの上司に当たる人物がボロクソ言われているのも触れることなく、ただ彼に対する恐怖から「は、はい」と言うのが精一杯だった。

 少女の返答を聞くとノンフィクションは満足げな顔をして再び正面を見やる。そして「おっ」と呟いて正面にある電話ボックスに向かって小走りしていく。

 電話ボックスに入ったノンフィクション。少女はそれを外で眺めている。

 「ほいほいほいほいほほいのほーい」とこれまたふざけたことを言いながら番号を次々に押していく。そして受話器越しに誰かと数秒、それだけ会話をしてすぐに出てきた。


 「何をしてたんですか?」

 「すぐ分かるさ」


 彼がそう言ったのとほぼ同時に、少しばかり離れたところから異常なスピードで走ってくるバギーが見えてきた。

 バギーが二人の前まで来ると、とんでもない急ブレーキをかけて無理やり止まった。バギーには人が乗っていなかった。しかし──


 「やあ、久しぶりだねスロウリー!」

 「変わらないな。ノンフィクションくんは」

 「いやいや、君の目は節穴だね。ほら見ろ! 首に黒子ができた」


 代わりに運転席にはネズミが乗っていた。否、正確にはネズミを擬人化したような姿の生物と言うべきか、とにかく、少なくともバギーに人は乗っていなかった。


 「それで君は今日はどこに行きたいんだい?」

 「いやあ、ちょっとエンジェルの酒場までよろしくしたいんだけどいいかな」

 「君の頼みだ、もちろん。それで、そっちのお嬢さんも連れてけばいいのかい?」


 スロウリーと呼ばれる彼とノンフィクションは同時に少女に目を向ける。


 「あーいや。なあ、君はどうすんの? もう俺への用は終わったんだろ? 帰らないのか? それにここに長居するのも危険だよ。あ、人の心配できる僕、優し過ぎ! や、でもエンジェルの酒場ならついてきても問題ないか」


 少女と出会ってから何度目かの自画自賛を行う彼を尻目に少女はバギーの元まで行き、スロウリーに勢いよく頭を下げた。


 「あの、私も連れてってください!」


 スロウリーはそれに了承するように頷くと、「さ、二人共後ろに乗りな」と促す。

 そういえば、と少女はバギーの運転席を見る。明らかにスロウリーの小さな体の為に改造されたハンドルとペダルだったが、しかし席に座る彼が正面を見れるための改造は施していないようで、運転をするであろう彼から正面の景色を見ることは叶わないように思えた。


 「あの⋯⋯それじゃあ前見えないですよね? どうやって運転するんですか?」


 少女の問いに答えたのはスロウリーではなくノンフィクションだった。


 「そりゃあスロウリーはスピーディーな男だからね。景色向いてる暇はないのさ」


 答えになっているような気はしないが、少女はそれ以上聞くのをやめて大人しく後部座席に座りシートベルトをする。隣を見るとノンフィクションも同様にシートベルトをつけてどこかワクワクしている子供のような無邪気な顔をしていた。


 「シートベルトはオッケーかい? ならさっさと行っちまうぜ。スロウリーくんのスピーディーな運転があれば酒場まで数分で着くさ! それじゃあ行くぞ!」


 スロウリーの言葉と共に、若干フライング気味でバギーが走り出した。それも超高速で。

 「きゃあああああああ」と、少女はあまりの速さに甲高い叫び声を上げる。

 しかし彼女の隣にいるノンフィクションというと、「はっはー‼︎ 飛ばせ飛ばせ‼︎ いやっほーーーい‼︎」と、とても上機嫌だ。

 そんな二つの相反する叫びを乗せるバギーは爆発の中を、マグマの上を、氷の上を、森の中を、地割れだらけの地面の上を、崩壊した建物の瓦礫の上を、綺麗な都市の中を、火の中を、草原の上を、崖を飛び越え、山を登り、雲の上を、教会の中を、テレビ中継中のカメラの前を、銃弾飛び交う中を、線路の上を、走って行った。

 あらゆる場所を高速で走り去っていく。これがスロウリーのスピーディーな運転。とてつもない距離を数分で走り抜けたのだ。とてつもない。もはや少女は意識を手放してしまっていた。もちろんノンフィクションは相も変わらず上機嫌なのだが。

 バギーは長い距離を走ると、とあるボロくさった建物の前で急停止した。

 今にも落下してしまいそうな看板には『Fack you』とスプレーで上塗りされていて名前が見えない。


 「おーい、着いたよー⋯⋯って気絶した子を起こしてあげる僕って超優しい!」


 少女の頬をペチペチと音が鳴るように叩いて起こそうとするノンフィクションを横目に、スロウリーは一足先にバギーから降りていく。


 「スロウリーくんはスピーディーに酒場に入るよ。ノンフィクションくんもお嬢ちゃんを起こしたら早く来るんだよ」


 スロウリーが酒場のドアを開けようと、上を見上げる。そして彼はドアノブに向かって手を伸ばしながら何度もジャンプをする。

 彼がドアノブと格闘し始めた時、少女が手放した意識を取り戻した。


 「あ、あれここは⋯⋯」

 「エンジェルの酒場さ。さ、行こうか」

 「あ、は、はい」


 少女とノンフィクションがバギーから出たとほぼ同時に、ようやっとスロウリーとドアノブの格闘に決着がついた。スロウリーの勝利だ。両手でドアノブを掴み取ったスロウリーはぶら下がりながらも器用に手首を捻ってドアを開いた。


 「それじゃ、スロウリーくんはスピーディに酒場に入るよ」


 スロウリーはバギーから降りた時と同じセリフを吐いて酒場の中に入っていく。

 しかし数秒して、半開きのドアを思い切り壊すようにしてスロウリーは吹き飛ばされて酒場から出てきた。


 「な、す、スロウリーさん‼︎」


 少女は吹き飛んできたスロウリーの下に駆けるが、少女が動き出した時には既にスロウリーはしっかりと立っていた。目立った外傷はないように見える。せいぜい服が砂で汚れてしまった程度だろう。少女はそんなスロウリーを見て安堵の溜め息を吐くとノンフィクションに向き直した。


 「あの、この酒場本当に大丈夫なんですか?」

 「大丈夫大丈夫。こんなのいつものことさ。それにこんな対応されるのはスロウリーと僕ぐらいさ。君は安心していいよ。は! さりげなく安心させる僕ってやっぱり優し過ぎ!」


 少女はスロウリーが吹き飛ばされてきた衝撃で酒場の中に入ることを躊躇いがあったが、ノンフィクションの安心していいという言葉と、毎度の自画自賛によってその躊躇いも薄れる。

 「さ、行こうか」とノンフィクションとスロウリーは酒場の中に入っていく。少女もおずおずと彼等の後ろについていった。

 酒場に入ると甲高い鈴の音がリンリンと鳴った。それに反応するようにカウンターの裏から店主の男が出てきた。


 「ウチは暴走ネズミと自画自賛馬鹿野郎はお断りだ。回れ右して店出てくたばれ」

 「やあエンジェル! 久しぶりだね。おや、髭を伸ばしたのか。イカすね!」

 「その呼び方やめろ。嫌だっつってんだろうが」


 明るい笑顔のノンフィクションとは対象に、店主の男はとても暗い怒りに満ちた表情をしている。


 「いやあやめないさ、エンジェル!」

 「やめろ。次行ったら心臓ぶんどるぞ。ヤク中が」

 「ヤク中なんて侵害だな。僕はクスリなんて一度しか飲んだことないよ、エ・ン・ジェ・ル!」


 憎たらしく放たれたエンジェルという名前にとうとう堪忍袋の尾が切れた店主は目にも留まらない内にノンフィクションの目の前に立っており、その右手をノンフィクションの胸に突き刺していた。

 貫通して血塗れの右手には尚も鼓動する心臓が握られている。それを確認するように数度力を入れると、店主はノンフィクションから右手を抜き取る。

 その一連の動作に、やっと理解が追いついた少女は本日二度目の叫び声を上げた。


 「んあ⁉︎ 女⁉︎ 別客が居たのか⁉︎ ヤベェ!」

 「そうさ、エンジェルくん。ノンフィクションくんだけしか連れてきてないなら僕はここに入らないよ。僕はノンフィクションくんと二人きりで飲むことはしないんだから」


 少女の存在にやっと気付いた店主は慌ててノンフィクションの心臓をカウンター裏にぶん投げて右手についた血を振り落とそうとする。そんな彼に呆れたようにスロウリーが注釈を入れるが彼の耳には届いていないようだった。とれもしないのに右手をぶんぶんと振り回している。

 そんな冷静な彼等の様子を見て呆気に取られたのか、少女は口をぱくぱくと開閉させて後退りしていた。


 「ほら、君は大丈夫だったろ? 彼の当たりが強いのは僕とスロウリーだけさ」


 そんな少女に耳打ちするように顔を近付けるノンフィクション。貫かれたはずの胸は糸も綺麗に塞がれており、服すらも元通りだ。

 そして少女は無事なノンフィクションを見て再び叫び声を上げる。とはいえ一秒にもならない叫びだったが。


 「な、ななな、なんで生きて⋯⋯」

 「え? そりゃあ心臓取られたぐらいで死ぬわけないでしょ。常識じゃん。もしかして上は違うの? 上の奴らの心臓なんて興味なかったからな。知らなかったや」

 「は? え? え、う、あ⋯⋯へ⁉︎」


 少女は上手く言葉が見つからないようで間抜けな声を上げるだけだ。ノンフィクションはそんな彼女を気に留めることもせずに店主との会話に移る。


 「ほら、エンジェル。とりあえずまずはウイスキーから頂戴。金は今回で四十倍だっけ?」

 「ああ。ちゃんともらうぞ。クソネズミと⋯⋯そっちのお嬢ちゃんは何飲む?」

 「僕はコークハイとピーナッツをもらうよ」


 先程までの一連の行動はなんだったのか、三人仲良くカウンターに向かっていく。少女はそれに慌ててついていき、「わ、私もコークハイで」と注文を入れる。


 「それで頭くるくるパーなテメェは今日は何のようで来たんだ?」


 カウンターに三人が座りそれぞれ注文したものを少しばかり飲んだ頃、店主が思い出したかのように口を開いだ。


 「いやあ、ちょっと荷物が届いたんでね。平和で静かなここで開封しようと思ってさ」

 「荷物? どこにあるんだ?」


 店主がそういうと、ノンフィクションは目をパチクリさせて自分の身の回りを探す。

 手にはもちろん握られていないし、ポケットにもない。ズボンの中にもなければ靴の中にももちろんない。そしてバギーの中にも。

 とぼとぼと明らかに私落ち込んでいますという雰囲気を出しながら店に戻りウイスキーを飲むノンフィクション。

 流石の店主も同情したのか、少しだけ優しい声で「なんだ、今日は三十五倍にまけてやる」とノンフィクションの肩を叩いた。


 「あの、下まで運んできた私がいうのも何ですがあの荷物って何が入ってたんですか?」

 「ん? 教えられてないのかい?」

 「はい。ハイヒール様は中身は聞くな。とにかくノンフィクションに届けろ、とだけしか言われてないので」

 「そう。ま、別に重要なものでもないからいいんだけどね!」


 ノンフィクションは先程の落ち込みをどこに放ったのか、今までの元気な笑顔を見せてあっけからんとそう言ってウイスキーを飲み干した。「もう一杯!」「やっぱお前四十倍な」

 店主がグラスを片し、ウイスキーを入れている最中、ノンフィクションは荷物の正体を少女に向けて話し始めた。


 「実はあの荷物はハイヒールがある日突然使者に届けさせるからって言ってきたものなのさ。中身を聞いた僕はそりゃあもう驚いたんだけど優しいからね! 二つ返事で了承したさ! うわメンド。いいよ。ってね。うわまじホント僕って優し!」

 「てめえのその癖はいつになったら治るんだよ。おら、ウイスキー」


 説明をしながらも自画自賛を忘れないノンフィクションに呆れた様子でウイスキーの入ったグラスを渡す店主。


 「それでその荷物っていうのが、ハイヒール特性の爆弾らしいんだよね」

 「ば、爆弾⁉︎ なんでハイヒール様が?」

 「え? むしろハイヒールとかそういう奴でしょ。もしかしてそういうのも知らないの?」

 「は、はい。ハイヒール様は普段は冷静沈着で厳格。規律を何よりも重んじる方ですから」


 少女は自身の知っている上司の知らない側面に驚きを隠せなかった。

 しかしそれよりも、少女の口から語られた普段のハイヒールの姿を聞いたノンフィクションの方がよっぽど驚いているようで開いた口が塞がらっていなかった。


 「ま、まじ? あのハイヒールが?」

 「え、えっと、はい」

 「うわまじかよあのクソビッチが。や、でもいいこと聞いたな。これであいつを強請るネタが増えた」


 ぶつぶつと呟くノンフィクションを尻目に、スロウリーと少女が次のコークハイを頼む。


 「それでその爆弾であなたは何をしようとしてたんですか?」

 「ん? ああ、ハイヒールに頼まれてね。爆弾使ってこっちにあるログクォーツ火山を爆破してこいってさ」

 「ログクォーツ火山を爆破⁉︎」


 意外にもいの一番に反応を見せたのは少女ではなく店主の方だった。


 「それ、規模によりゃあうちまで被害出るじゃねぇか! はん! なくしてくれて助かったぜ」


 店主は安心したように一息吐くと自身もウイスキーを飲み始めた。そしてある程度飲んでグラスを置くと、少女の方を向いた。


 「そういえばお嬢ちゃんはどうしてうちにきたんだ?」

 「あ、いや私は──」

 「実はこの子上の住民なんだよね。ほら、ここって上と直通の道あるじゃん。だからさ」


 少女の言葉を遮るようにしてノンフィクションが語った言葉は、三人全員を驚かせた。


 「え? ここって上と繋がってるんですか⁉︎」

 「何⁉︎ お嬢ちゃん上の住民だったのか⁉︎」

 「は⁉︎ いや、えぇっと⋯⋯はぁ⁉︎」


 いや、一人は訳が分からないが。

 しかし店主は驚いた後一人納得したように頷き、少女は感嘆の声を上げて店主を見ていた。


 「そんなに驚くなよ。別にそう珍しくもないだろ。豚が空を飛ぶくらいの頻度である」

 「それほぼゼロじゃねぇか」


 そんなやり取りを交わすと、店主は少女に「ついてきな」と一言。少女は残りわずかなコークハイをぐいっと飲み干して店主の後について行った。


 「そういえばエンジェルくんはそのウイスキーどっから奪ってきたんだろうね」

 「さあ? ここらの酒屋は軒並み逃げたらしいからね。ああ、クソどうでもいい質問に律儀に答える僕、優しさに溢れてる!」


 「あの、ここは上と直通って言ってましたけどどこに出るんでしょうか?」店主について行った少女はふと気にしていたことを尋ねる。

 店主は少女に目を向けることなく、「ランポートだ」と言うと、徐に両手を広げ立ち止まった。

 突然の行動に少女は驚くが、しかし次の瞬間、何もなかったはずの床が青白く光り輝き出した。店主はここを行けば上に帰れるぞ。というと早々に来た道を戻っていく。


 「あ、ありがとうございました! あ、コークハイのお金!」

 「構わないよ。どうせあの二人からぶんどるから」


 それはどこか二人に申し訳ない気持ちになりながらも、少女は青白く輝く光の中へと入っていった。


 「さ、お嬢ちゃんも行ったことだし。後はあいつから金とって帰らせるか」



 青白い光が消えると同時に少女の視界は明瞭になっていく。

 目に映った景色は少女が普段見ているような景色とそう変わらないものであることから自身が上に帰ってこれたのは間違いないようだった。

 帰ってきたことを自覚した少女は矢継ぎ早に駆けていく。行き先はもちろん自身の仕事の完了の報告のためにハイヒールのいる場所へ。

 ランポートからタクシーを使って約二時間。スロウリーのバギーと比べるとえらく遅いが少女は普通の運転をしてくれたことに安堵の溜め息を吐いていた。


 「──ということでその、荷物を渡したのは良いのですが本人が途中で無くしちゃったみたいで⋯⋯」


 とある建物の一室。そこにで少女と、その上司であるハイヒールが対面していた。

 下で少女が見た一連の流れをハイヒールに伝えると、彼女は自身の送った荷物が無くされたというのに少しばかり口角が上がっているように見えた。

 やはりノンフィクションの言っていた通り彼女は普段から自分を隠しているのだろうか、と少女は考えたが、どこか悪寒がしたような気がしてそれ以上考えるのをやめた。


 「そういえばどうして爆弾を火山で爆発させろってノンフィクションさんに頼んだんですか?」

 「そんなことまで聞いてしまったのですか。しかしあなたが知る必要はありません。報告ご苦労。もう退室して結構です」

 「は、はい。分かりました」


 そうして少女はハイヒールへの報告を終え、退室しようとするが、扉に手をかけたところで彼女への伝言を頼まれていたことを思い出した。


 「あ、ノンフィクションさんから伝言があったんでした」

 「ッ聞かせなさい」

 「えっと、ちょっと過激ですけど⋯⋯」

 「構いません」

 「なら⋯⋯こ、『このクソビッチが。テメェはもっと泥水啜って血反吐吐いとけ。次会った時は左腕捥いでやる。股濡らしてお座りしとけ』とのことです」


 少女がそう言い切った時にはハイヒールは机に両手をついて俯き震えていた。

 「ありがとう。もう出ていっていいわよ」震えた声だった。少女はそんな彼女を心配しつつも部屋から出ていく。


 「ああああああもうっっっっっ。ほんっっっとっっさいっこうっっっっっ‼︎」


 部屋を出てすぐに聞こえてきたそんな叫びで少女の心配は完全に消えた。

 これがハイヒールの本性と言うのならばノンフィクションのあの反応も頷ける。やはり自分の知っている普段のハイヒールは偽物であると、それに気付いた少女は「よし」と、どこか吹っ切れたような清々しい表情をして耳を塞いで部屋の前から足早に立ち去っていった。




中途半端かもしれないですけどこれで終わりっす。なんか思い付けば長編にするってことで、その時はよろしくお願いします。

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