小説SNS
初めて見たのは、父親と、その娘なのだと思う。
その日は、母とデパートに買い出しに行っていて、店を出ると、曇り空から雨がパラパラと降り始めていた。
傘をさして外に出ると、雨が当たる音が思ったより大きくて、歩いているうちに、だんだんとバケツをひっくり返したみたいな大雨になったのを覚えている。
暫くは傘をさしていたけれど、風で雨の方向が変わるので、すぐにずぶ濡れになってしまった。
僕も母も堪忍して、小走りで家に帰っている途中、お揃いの白い浴衣を着て、手を繋いで佇む親子が目に入った。
一人は髪が長くて、当時十三歳の僕よりもまだ小さい女の子だった。もう一人の方は、少し猫背気味のおじさん。
二人とも存在感があまりなくて、繋いでいる手や、首筋が青白い。
Y字路の真ん中の壁際に咲いたアジサイを、じっと見つめている。
気がついたら、雨風の音が消えていた。雨に打たれているはずなのに、冷たくもない。
「……行こっか」
おじさんがアジサイの方を向いたまま呟くと、女の子は、何も言わずに頷いた。
何度か瞬きすると、もうその親子は消えてしまっていて、居なくなったんだなと理解すると、雨風の音や冷たい感覚が、だんだんと戻ってきた。
「……っ、、、……」
おかしな光景のはずなのに、違和感がなかった。
なにかを言いたくなったけど、なんの言葉も見つからなくて、口を噤んだ。
「侑?」
「うわぁっ!」
いきなり背後から聞こえた声に、少し飛び上がってしまう。
「……ああ、見えたか」
見えたかと言った母の表情は、いつもと変わらないはずなのに、少し悲しそうでもあった。