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4話 決意のノート

2月9日 七星海色


 昼前、家には誰もいなくなる。お父さんは米を育てに農場へ、お母さんは市内の病院に働きに。ハハッ、まるで桃太郎みたいね。私はダルい体を起こして勉強机に向かう。勉強をしよう、、ってことじゃなくて、ただ夢を書き出そうと思ったから。似たようなものに“夢日記”、という存在を鉄平から聞いたことがあるけどこれはそうじゃない。言わば......作戦書? だ。


 昨日の夢、正確には今朝の夢は過去最悪の結末を迎えた。いつもみたいに悪夢であることに変わりはないんだけど、今回のエンディングは先輩も鉄平もお兄ちゃんも死んじゃうエンディングだったから。なぜか、と言われたらそれはたぶん昨日の私の行動、思考のせいなんだろう。私が誰にもチョコをあげなかったから、、作ったのに渡せず、結局「明日でいいや」「先輩が帰郷したときにでも想いを伝えよう......」なんて消極的なことを考えた私のせいで夢の中。皆が死んだ――。


 そのせいで今も気分が悪い。それにこれまでの夢よりも“私がやりそう”な行動だったのが更に追い打ちをかけてくる。昨日もサラッて思ったけど、もうこの夢は一種の予知夢なのだと思うしか無くなった。誰かに相談したところできっと信じてもらえないだろうし、なんで私はその未来視のような夢を見れるのかわからない。でも、これはきっと私がこの悲劇止めないといけない、っていう神様からのお告げのようなものなんだ――。


『でももし今夜も同じ夢を見たら、、その時は考えようかな......』


 なんて、昨日思っちゃったっていうのもある。鮮明な夢、正確な人物描写、それも一週間以上連続で。ここまでくると内容がいくら信じがたくても飲み込むしか無いよ……。


 私はこれまでに見たいくつかのエンディング、ルートを思い出してノートに書き出していく。不思議と夢の内容はまるでノベルゲームかのように鮮明に思い出された。普通夢って起きた瞬間は覚えてて、学校に行こうと家を出た辺りでもう薄っすら。日が高く登る頃にはもう記憶の隅にもないっていうものなんじゃないかな。それを記録しちゃうのが夢日記で、そうすると夢と現実がごっちゃになるんだよ、、、ってオカルト好きミステリー愛好家の鉄平が言っていたっけ。


 それに今でも記憶に残っている夢があってもそれは『ナイフで刺される』とか『チーターに追いかけられる』とか最も印象的なことしか覚えてなかったりする。なのにこの夢はまるでムービーを再生するようにスラスラと頭の中で反復された。それを受けて私はその夢の中で得た情報をノートに書き出していく。


――バレンタインデーにチョコを貰わなかった男は死ぬ。


 まずこれが全部の夢に共通すること。2月14日の20時17分、ショコラ彗星の熱エネルギー及び光エネルギーだけが吸い寄せられるように、不運にもここ空乃坂に落ちてくる。死者数は夢によってまちまちだったけど、共通していたのはその被害者は全員男性、それもチョコを貰っていない人だけ、だった。


――チョコは本命、義理は関係ない。ただ効果があるのは“最初の一つ”のみ。


 これは田山くんの一件が示していた。あの日、有志で校門前で小学生にチョコを配っていた黒羽有朱くろうありす会長。でも会長からチョコを貰ったはずの小学生の中にも死んじゃった子はいて、それなのに会長から“最初に”チョコを貰った田山くんはどのエンディングでも生きていた。てことはつまり、14日に一番早く校門を通った田山くんだけが『有朱会長からチョコを貰った』ってことになって、その結果助かったんだろうって予想できる。


 本命か義理か、の区別がないのは助かるけど正直一人一つのみっていうのは難しいかもね。この村は高齢化が進んで女性が多いとは言え男性皆にチョコを行き届かせることが大変なことだっていうのは考えればすぐ分かる。


 そしてチョコを配ろうにも対策をしておかないとマズいのが“チョコ不足になる”ってこと。


 これもどの夢でも共通してたことなんだけど、2月13日、つまりバレンタインデー前日に長崎県を史上最大の大雪が襲うの。その影響で街から市内への一本道は使えなくなる。それも規制されるのは2月12日の夜からだから、その前にはチョコを準備しておかないといけない、ってことになる。


 街に駄菓子屋は一軒。スーパーだって無尽蔵にチョコを置いているわけじゃない。理由を説明せずに『入荷増やしといてね♪』なんて......まあ無理だ!


 このいくつかの情報を元に私は考える。こんなことを知っちゃたからには皆を救いたい。この街が大好きだからこそ、誰一人として死んでほしくない。ノートをぐちゃぐちゃと汚し、何度も消して、そしてそのたびに書いてってしながら私は考える。そして気づいたら私の部屋に夕日が差し込んでいた。どうやら昼も食べずに考えることに没頭しちゃってたら夕方になっていみたい。私は急に凝りを感じてきた肩と体をほぐすために「う〜ん、、」とノビをし、そしてフラフラと一階のリビングへと降りる。


『海色へ 元気になったら食べてください』


 そう書き置きされてラップを掛けられたオムライスが冷たく机の上で私を待っていた。デロンとした卵と下手な字。フフッ、お父さんが作ってくれたものだね。お母さんはきっと朝早かったんだろうな。


 私に何も聞かず、ただ娘のわがままを素直に聞いてくれたお父さんには感謝しか無い。おかげで随分と考えられて心も落ち着いた。


 チンッ♪ とレンジで温めたオムライスを銀のスプーンをですくって口に運ぶ。味も薄めで、でもお父さんが頑張って作ってくれたっていうのはわかる優しい味。……嬉しかった。反抗期になってからはあまり話さなくなって、それで怒ってるかな、、なんて思ってたけど全然そんなことはなくて......嬉しかった。


「……ごちそうさまでした」


 パンっと手を合わせる。満ち足りた気持ちになる。お腹も、心も。そんな気持ちだからなのかな、私はふとスマホを手に取るとあまり話していなかったお兄ちゃんに久しぶりに電話をかけていた。


「あ、もしもしお兄ちゃん? うん、私。体調はね......良くなってきとるよ。そんで、明日帰ってくるとね? ……あの、急な話やけどさ、お兄ちゃん。ゆいさん連れてくるのがよか。理由? ……うーん、まあ紹介してあげなよ、お兄ちゃんの彼女なんやろ?」


 きっとお兄ちゃんも不審に思っただろう。めったに話さなくなった妹から通話、それも急に『彼女を連れて帰ってこい』なんて言われて。でも、これでお兄ちゃんは安心だね! 唯さん、お兄ちゃんの彼女さんがこっちにいればお兄ちゃんはバレンタインデーのチョコをきっと貰える。もしもの時は私が唯さんを誘って一緒に作ればいい。


……あ、でもそれじゃあ、私はどうすればいいんだろう......私がお兄ちゃんにあげないのなら私は誰にあげる......?


 片思いしている鷹咲先輩かな? それとも幼なじみの鉄平かな?


 どっちにも居なくならないで欲しくて、、、でもチョコは一つ......私ではどっちかしか救えなくて――


 Xデーまでもう時間がない。私は初恋の人か幼なじみ、どちらかを選ばないといけないんだ……



2月10日 七星海色


 いつもと、、、違う朝だ! ぱっちりと目が覚める私。まさか悪夢を見なくなった......?

 なんと今日は、というか今朝は悪夢で目が覚めていたここ最近の日常とは違ってとても気持ちがいいものだった。だって、何の夢も見なかったんだから――!


「……おはよう!」


「おっ、昨日はずる休みしたみーろやなか(じゃん)。元気そうやなぁ?」


「もうっ! てっぺーだってたまに休むやね!」


「俺はズル休みならズル休みって書くばい。みーろみたいに“体調不良”なんて書かんわ」


 からかうように笑ってくる鉄平をポカポカと殴りつける。体調不良か、、、昨日の私だって体調不良って言ってもいい気がする。そりゃ一週間以上同じ悪夢を見て、そしてついに大事な人が皆死んじゃったってなったら誰だって精神的に参っちゃうよ! そんな頬をふくらませる私の頭を鉄平がポンポンと優しく撫でる。


「でも、良か。みーろ、最近ずっとしんどそうやったけど今日はなんか元気そうばい」


「そうかな? うん、でも昨日1日休んで随分落ち着いた......」


 きっと私が悪夢に、2月14日に起きるであろう悲劇に立ち向かうって決心したから夢を見なくなったんだろう。だから勘違いしちゃいけないのは『夢を見なくなった』=『回避した』じゃないってことだ。今日もまた普段どおりの1日が始まる。でも私はこの“普段どおり”を守るためにも、絶対にこの悲劇を回避してみせるんだから!


 そのための策を、昨日のうちにノートに書き留めておいたんだからね。フフッ......


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