プロローグ【復讐執行】
「あぅぁぁぁぁっ!!」
叫び声が、部屋の中で幾度も木霊する。
だがその声も、何時間も続けて発していれば掠れてくる。
かれこれ丸一日は水分も食事も摂っていない。
その疲弊しきった虚ろな表情を見れば、大抵の人間はこれ以上の行為を躊躇うのかもしれない。
だが、この男は違う。
ーーーーバチン。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!いでぇぇぇぇぇぇぇ!!」
銀の兜を被っている男は、血生臭い器具で椅子に縛りつけられてる男の人差し指を切断した。
「阿保が、命乞いする相手は選べ」
今ので計20本。
これで全ての指という指、下から上までを全部切断した。
バケツには千切られた指がアルコールに浸けられ、床は血で真っ赤に染まっている。
「お前ぇは、人間じゃない。こんなの………人のする………ことじゃない………」
「ぁぁ、俺も同意見だ」
銀の兜を被っている男は、小さく、静かに嗤った。
「なんでこんな………回りくどいことを……殺すなら……殺せよ!」
「簡単なことだ。お前が苦しむと、喜ぶ奴がいる」
兜の男は会話を続けながら血で汚れた器具を使い古した布で念入りに拭いていく。
「確か、お前には妻と娘がいるらしいな」
「………………ぁ?」
兜の男は荷物から袋を取り出し、中のものを床に思い切りぶちまけた。
そこには小さな手が、細く白い手が2つずつあった。
「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!ふざけんなぁぁ!糞野郎!アイツらはっ!かっ関係ねぇだろうが!!」
「依頼者の要望だ。"私と同じ目に遭わせてほしい"……だそうだ」
指を全て千切られていても、辛うじて意識を、自我を保っていられる程のタフネスを見せたこの男が。
狂ったように泣き叫び、地団駄を踏む。
「ははっ」
彼は小さく嗤った。
これが嗤わずにいられるだろうか。
自業自得、その一言に尽きる。
他人の家族を殺めたこの男が、今度は逆に自分の家族を弄ばれ、怒り狂っているのだから。