10のスキルポイント
「いいか?お前らよーく聞けよ?」
俺は今まで得た情報を整理して、マリーとナズナに出来るだけわかりやすく伝えた。
とりあえず、魔王四天王の一人がギルティタウンの東の方角にある宮殿にいて、そこに向かう途中にムンムンというスラム街があるからそれを目印にしていけばいいと。
しかし流石にレベル1で装備も整っていない今の状況だと厳しいから、レベルを上げて装備も整えてから行きたいところだったのだが、モンスターが全然いないのでレベル上げができず困ったことになったと。
現状クエストもただのお使いぐらいしかなく、生活費はかかる一方で経済的には苦しい状況だ。
「で、なんで今日は冒険センターにきてるんですか?」
「うーん。このフルーツサンド美味しい〜。」
「よく聞いてくれたなマリー。実はまだ冒険センターの中で入ったことがない施設があるんだ。今日はそこに行ってみようと思う。あっナズナそれ美味そうだな、あとで一口くれ」
俺たちは冒険センター内にあるレストランのテラス席で話していた。
ここには様々な施設があるのだが、俺たちがいつも利用していたのはクエスト案内所と情報収集Barとレストランぐらいなものだった。
冒険センターのパンフレットを見てみると、パーティーメンバー募集の掲示板とスキル習得場なるものがある。
俺はその2つの施設に、このレベル1トリオである雑魚パーティーの底上げになる何かがあることを期待した。
それはそうと。
「うわ、本当にうまいなこのフルーツサンド。せっかくだしもう2、3個ほど買っていくか」
「でしょー?」
「やれやれ・・2人ともわかってませんねぇ。このミックスジュースこそ至高なのですよ」
いや、お前それ飲み物だから。
俺とナズナが言ってるのは食べ物だからな?
と、心の中で思うセージだった。
アホなマリーはほっといて、レストランでフルーツサンドを3個テイクアウトしたところで、俺たちはまずパーティ募集掲示板に足を運んだ。
「ここがパーティ募集掲示板ですか。みんなここで仲間を募集しているんですね」
「どれも気合い入ってるねぇ。見てみて、可愛いイラスト付きの募集文もあるよ」
「そうだなー。高いところにある募集を見るのは首が疲れるな」
俺は腕を組みながら、掲示板に貼られている募集文に目を通していた。
端から端まで見ていたのだが、一つ気になる募集文があった。
(一緒に魔王を倒せる仲間募集中。報酬は悪魔の力だ。興味があるやつは占い屋パキラまで来い。以上!)
なんか、俺たち以外に魔王を倒そうとしている奴がいるらしかった。
にしても、報酬が悪魔の力だって?
イタズラかもしれないけど、あとで行ってみるかな?そう思い掲示板を後にした。
「ねぇねぇ、せっかくだからさ、今度さっきの掲示板で仲間を募集してみない?」
「そうですね。私は別に構いませんよ」
「別にいいけど、誰が募集文を考えるんだ?」
マリーとナズナは同時に俺の方を見た。
あーはいはい、そんなことだろうと思ったよ。
俺たちは掲示板を離れ、一旦ロビーに戻っていた。
「えー残念ながら、今日のメインはスキル習得場だからパーティメンバーの募集はまた今度な」
「えー!もっと可愛い子増やそうよ」
「そうですよ?セージ!ハーレムを作りたくはないのですか?」
俺はハーレムという言葉に一瞬惑わされたが、もうすでにポンコツ女に足が速いだけのアーチェ女がいるからな。
女はもうこりごりだ・・。
パーティーというのは4人編成が基本だからな。
最後の1人はせめてまともな男騎士とかであって欲しいものだ。
俺がそんなことを願っていると、冒険センターのロビーで、身に覚えがある緑髪の鎧と剣を身につけた男がこっちに駆け寄ってきている様子が見て取れた。
「お久しぶりです!マリー様!偽勇者殿!」
「げっ・・お前は」
「バジルではないですか」
「誰、誰ー?二人のお友達?」
相変わらずの爽やかオーラに、イケメンな顔である。
前言撤回!やっぱり男の騎士はいいや。
「今日はどうしたのです?バジル?」
「実はシルバー様にマリー様の護衛を頼まれまして。ツバキ様も私と一緒に来ていらっしゃいます」
どうやらこの男、マリーにしか関心がないようで、俺とナズナの方を全く見ようとしない。
別に俺もお前のことは興味がないからいいけどな!
「ねぇ?セージ君、この人誰なの?」
「国王の護衛らしき奴だよ。マリー様にぞっこんなんだ」
「へぇー!そうなんだぁ!姫と護衛の恋って萌えるシチュエーションだね!」
おやおや?ナズナさんが何か盛大な勘違いをしておられるようだが、面倒臭いのでほうっておくことにする。
「ツ、ツバキが来ているのですか・・?」
「ええ、後ほど参るとのことです」
何やらツバキという単語にショックを受けている様子のマリー。
わなわなとマリーの手が震えだした。
「まだ誰か来るのかよ?せっかくスキル習得場に行こうとしていたのに」
「そういえば、そうだったね」
「そ、そうでしたね!私たちには用事があったのですよバジル!だから・・ツバキ先生にはお引き取りくださるようにお伝えください」
・・なんかマリーがこの場から逃げたそうにしていやがる。
いつもより挙動がおかしいからな。
「いけませんマリー様。ツバキ様はマリー様の魔法指導で来られました。これはシルバー様、ローズ様の意向でもあられます」
「そいつぁいいや。そのお姫様を鍛えてやってくれ。」
「セッ、セージ!?裏切りましたね!?」
俺は手のひらを上に向けながら言ってやった。
いつもやられているからそれの仕返しだ。
「ツバキさんはわざわざ遠くから来てくれたんだぞ?せっかく来てくれたのに無下にしたら申し訳ないじゃないか?それにお前の親の意向でもあるんだしな。俺とナズナもスキル習得場でスキルの習得に行ってくるから、お互いにパワーアップしてから再開しようじゃないか。じゃ、健闘を祈る」
「そっか、それじゃあしょうがないよね。マリーちゃんまたあとでねー」
「私を!私を!置いていかないでください!二人ともー!!」
俺たちの方に手を伸ばしながらバジルに取り押さえられるマリーの姿を背に、俺とナズナはその場を去った。
「くっくっくっ、見たかナズナ?あのマリーの必死な姿を」
「なんか少し良心が痛むけど、マリーちゃんのためだもんね」
マリーを鍛えて欲しいと言うのが半分、もう半分はマリーが嫌がっているのが面白いからだとは決して口に出して言えなかった。
「お、ここがスキル習得場か」
「賑わってるねぇ」
俺とナズナがロビーから歩いて10分ほどの場所にスキル習得場があった。
冒険センター内でこの施設だけ離れた場所に設置されていたのだ。
ここには結構な数の人が集まっていた。
受付があったので、俺はそこでこの施設の利用方法を聞いてみることにした。
「すんませーん。初めてなんですけど利用方法教えてもらえますか?」
俺が声を掛けると愛想のいいお姉さんが快く教えてくれた。
マリーとチェンジしたいぐらいだ。
どうやらスキルが一通り載っている用紙にチェックシートがあるから、習得したいスキルの欄にチェックを入れて受付に提出すればいいらしい。
「ふむふむ、なるほどな、だいたいわかった」
「冒険者の皆さんには、レベルが1でも基本スキルポイントが10ポイント備わっています。勇者のスキルで一番人気はソードで、アーチェで一番人気のスキルはマジックアーチャーですよ」
「剣スキルと魔法を使った弓スキルってことだね」
んー、やっぱ王道はソードスキルかな?いや冷静に考えて俺のステータスでソードスキルはないな。
俺とナズナはあーでもないこーでもないと考えながら、それぞれ思い思いのスキルを習得した。
スキルポイントを温存すると言う手もあるのだが、今はモンスターが少ないご時世だ。
レベル上げが望めないので、スキルの習得に力を入れることにしたのだ。
二人とも10ポイントを使いきり、今日のメインは終了とした。
「ちなみに、ナズナはどんなスキルを習得したんだ?」
「私?私はねぇー。まず3ポイントで命中率のUPでしょ?それからもう3ポイントで弓に魔法属性付与の技マジックアローでしょ?」
「おおー、使えそうじゃないか、ちゃんと考えたんだな」
少し不安だったのだが、ナズナがちゃんと考えてスキルを振っていたことを聞いて俺はホッとした。
「あとは最後に4ポイントで料理が上手になるスキルかな!」
「おい・・ナズナ、今なんて?」
「料理だよ?いやー旅に料理スキルは欠かせないよねぇー」
いや、今の状況わかってんの?
俺たちレベル上げができないからスキル強化しに来たんだよ!?
なのに、何故ゆえ料理スキルあげてんの!?この女!!
絶対大技の一つや二つ習得したほうが良かったよね!?
俺はこの浅はかな女にどう説教してやろうかと考えていた。
「これであのレストランのフルーツサンドが再現できるね!今度からは私が作ってあげるね、セージ」
ナズナのこの言葉で俺の怒りはどこかに飛んでいった。
なんだ、こいつやっぱいい奴じゃん。
「しゃ、しゃーねーなナズナは!全く!今度からちゃんと戦闘スキルにポイントを触れよ?」
「うん。ごめんねー?」
あっれぇー?こんなんでいいのか?うん、まぁ・・旅にシェフは必要だよな?
あの国民的漫画◯NE PIECEだって戦うシェフさんがいることだし。
俺が指揮官、マリーはマスコット、ナズナはシェフってことにするか。
よし、それで行こう!
◯賊王にはならねーけどな!
さて、マリーの様子でも見に行きますか!
俺とナズナが冒険センターのロビーに戻ると、そこにマリーとバジルの姿はなく、代わりに水晶の玉を持った赤髪の女がいた。
「マリーの連れかい?」
赤髪の女は開口一番で、俺たちをマリーの連れかと聞いてきた
「そうだが・・。あんたがツバキって人か?」
「いかにも、私は魔導師アカデミーの教師で、元マリーの担任だ」
「私はナズナ。マリーちゃんのパーティメンバーだよ」
ぶっきらぼうな話し方からはおおよそ教師だとは信じられなかったが、マリーをよく知る人物であることに間違いはないらしかった。
「いきなりだけど、この子は私の指示でこの水晶の中で修行をしているよ。今日から3日間はこの中さ」
「ほんとうにいきなりだな。バジルはどこに行った?」
さっきからマリーだけでなくバジルの姿も見えなかった。
「バジルはマリーの補助役さ。マリーの魔法が暴走した時に抑える役でもあるけどね」
「と言うことは!二人はその水晶の中にいるの!?いやん!若い男女が密室空間で二人っきりなんて・・。間違いがあってもおかしくないね!」
なんかナズナが目をキラキラと輝かせている。
こいつあれだな・・。
恋愛脳って奴だな。
ナズナはもうダメだ、ほっておこう。
「・・なんか調子の狂う子だね。今マリーは異能魔法のコントロールに励んでいるのさ。名前ぐらいは聞いたことあるだろ?ブラックライセンスのマリーって」
「いーや全然?俺この世界に来たばっかりだし。」
「私も知らないや。ブラックライセンスって何?」
あれ?そういえばマリーのライセンスが黒かったような。
そんで、エリカが異能の魔術師マリーとか言ってたっけ?
・・興味なさすぎて忘れてたわ。
「こっ、こんな世間知らずな奴らが魔王を倒すパーティーだってのかい?信じられないね・・国王様も血迷ったのかね?」
「はい、巷では偽勇者と言われております。ちなみにこいつは勇者の娘です。魔王軍の強そうな魔女がそう言っていました」
「どーも、どーも、だよ」
ところがどっこい現実なんですよ。
俺は紛れもなく国王とマリーに召喚された勇者でナズナは勇者の娘らしいのですよ。
まー、あのクロユリとか言う魔女が適当なこと言ってただけかも知れんけどな。
「じゃ、茶でも飲んで待ちますかの?セージ爺さんや」
「そうじゃの、さっきテイクアウトしたフルーツサンドもありますぞ、ナズナ婆さんや」
この一連の流れでツバキ先生の表情が固まっていくことに俺は気づいていた。
俺だって、こんな雑魚でアホなやつらのパーティーが魔王を倒すとは思えんもん。
だから、せいぜい好き勝手やらせてもらうことにしている!
うん!フルーツサンドうまっ!