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フェイクヒーロー〜Fake Hero〜  作者: ベーコン・ライス
2/11

アイスクリーム事件簿


「セージ、もう歩き疲れましたー!お腹がすきましたし、もう夕方ですよ!?」

「うるへー、とっとと歩けやーい。」


俺の名前を呼びながらぐだぐだと文句を言うこの女、名前はマリー。

ここ数日間一緒にいてよーくわかった。

この女は見た目こそそこそこ可愛いのだが、中身は食っちゃ寝するだけのとんだポンコツプリンセスだ。

初めてあった時はもう少し品を感じられたのだが、気が緩んで本性が出てきたということだろう。

俺は城を出発する前に、こっそりとローズにマリーのことを聞いていた。

こいつの潜在魔力は相当なものらしいが、あとの能力は平均以下らしい。

今の所は役に立ちそうな気配がまるでない。

そんなことを考えながら俺たちが歩いているのは、冒険初心者用の街ギルティタウン。

西洋チックなこの国の中でも特に多くの人間が住み、冒険者たちもここを拠点にして生活しているらしい。

まずはこの街でクエストやレベル上げを行うのが王道らしい。

これらの情報はだいたいローズから聞いた話だ。


「いやー、しかしどこか情報収集できるところはないのか?情報がないことには何もわからん。マリーは箱入りプリンセスだから世間知らずで使えないし・・」

「何を一人でブツブツいっているんですか?これだからぼっちは困りますね」

「おい・・今聞き捨てならない事を言ったな!?、誰がぼっちだよ!? 」

「本当のことじゃないですか?体育の時間に一人で教室にいるってもう完全にぼっちですよ!」


こいつ!痛いところをつきやがる!

しかも完全にバカにしたような目で俺を見ていやがる。


「やかましいわ! それよりお前、その帽子ずっと被ってるけど脱がないのか?ハゲるぞ?」

「なんってことを言うんですか!?脱ぎませんよ!これは私のアイデンティーティーですよ!」

「帽子がアイデンティティねぇ・・。まっ、ハゲても俺は知らんけどな!」

「デリカシー0ですか!?この男は!?」


そう、俺はこいつが帽子をとっているところを一度も見たことがないのだ。

飯中も宿にいるときも外を出歩くときもずーっと帽子を被っていやがる。

帽子マニアかと疑うレベルだ。

お風呂では流石に脱ぐのかな?脱がないともうえらいことになるぞ。

蒸れるし、臭いし、不衛生だし、ハゲるどころの騒ぎではない。


「なぁ・・?お前頭洗ってる?」

「ショックボルトー!」

「いでででで!!」


俺はいきなりマリーに体がビリビリと痺れる魔法を撃たれた。

そっか、杖もあるわけだし一応魔法使えるんだな?お前。

でも、街中で魔法撃つのは止めような?危ないだろ?周りのことも考えろよ?撃たれた側は超痛いからな!?


「てめー!いきなり何しやがる!?」

「デリカシーのない発言をしたセージが悪いです。これに懲りたら発言に気をつけることですね」


くっ!こいつめ!殴ってやりたいところではあるが、どうやらさっきのマリーの魔法で人が集まってきたようだ。

今は周りの目がある。

ここでこいつを殴ったら「やだ・・こんな小さな女の子に手をあげるなんてサイテー!しかも童貞でぼっちで偽勇者なのよこいつ!」なんて言われる問題まで発展しかねない。

いいか?セージ!ここは穏便に済ませるのだ。

俺はふぅと一呼吸置いた。


「わかったよマリー。アイスクリーム買ってやるから機嫌直せよ。な?」

「ア、アイスクリームですか!?  トリプル・・トリプルでもいいですかセージ!?」

「あーいいぞ。トリプルでもなんでも頼め」


ふっ、国王の娘とはいえまだまだガキだな。

アイス一つで機嫌が直るとは。

そう言いながら俺とマリーはさっき見かけたアイス屋に足を運んだ。


「お金だってシルバーから少しもらってるんだからこれぐらい大丈夫だろ」

「いやー楽しみです!アイスクリーム・・なんていい響きでしょうか」


俺はアイスクリームを購入するまで気がつかなかった。

財布の中に1120Sしか残っていなかったということに。

俺も元々金銭管理はずさんなほうだったので、知らず知らずのうちに無駄遣いしてしまっていたのだ。

この国の通貨は日本円で言うと1Sシルバー=1円ぐらいのものだ。

マリーは両手に3段アイスを持っているのだがこれがまたべらぼうに高かった。

3段アイスが2つでしめて1080S、残金は40Sと苦しい状況に追い込まれた。

はぁ・・いきなりピンチか、しかも金欠で。

落ち込む俺を横目にマリーは嬉しそうにアイスクリームをほうばる。


「なぁ・・なんでアイスクリーム一つでそんなに嬉しそうなんだお前?いや正確には二つだけど」

「ぼればぁ・・ばじめでだべだからです!」

「あーいったんアイスを口から出してから喋れ」

「生まれて初めて食べました!そもそもセージとの冒険以外で外食なんてしたことないのですよ」


溶けかけのアイスを舐めながら話すマリー。

そうか、国王の娘ともなればアイスクリームなんて体に悪いものは食べさせてもらえないのかもな。

俺はなんとなく想像した。

現状ほぼ一文無し状態なのだが、マリーが大層喜んでおられたのでまぁいいか。

と、俺が思ったその時だった。

センター街というところをマリーと二人で歩いていると、前から柄の悪そうな3人組が歩いてこられた。

俺はこの手の輩が苦手なので、目をそらして歩いていたのだが、突然柄の悪そうな3人組の1人が地面に倒れ出した。


「うわぁ!いてぇ!いてぇよー!!こりゃー骨が折れちまったかもなぁ!?」


大柄な男が左足を抑えながら、俺たちの目の前で叫び出したのだ。

こちらを見てにやにやしながら。

どこの世界にもこんな輩いるんだなぁ。

そんなことを思いつつ、俺はそいつらと関わり合いにならないようにその場をさろうとしたのだが、俺の右肩をもう1人の男が掴んで離さなかった。


「待てよ兄ちゃん?ソテツの兄貴が痛がってるだろうが?慰謝料払えよ!おらぁ!」

「慰謝料って・・。そいつが勝手に転んだんだろ?」

「おーうお前。それが加害者の態度か?ちょっと事務所に顔貸してもらおーか?」


最後の一人にも左肩を掴まれ。俺は逃げ場がなくなってしまった。

左足を抑えながらニヤついて大根演技をするチンピラに、俺の右肩を掴みながら慰謝料を要求するチンピラに、俺の左肩を掴みながら事務所に顔を貸せというチンピラに、まさに地獄絵図だった。

そんな中マリーはアイスクリームを食べるのに夢中だった。

俺はそのマリーにぱちぱちと目配せをした。

ほら、今こそ魔法の出番ですよ?マリーさん!!


「ああ・・全くしょうがないですね」


マリーと目があって俺の意図が伝わったようだ。

よし!マリーやっちまえ!

俺と目があったその女は杖を握るわけではなく、手に持っていた溶けかけのアイスクリームを俺とチンピラに差し出してきたのである。


「全く・・アイスクリームで喧嘩とはしょうがない人たちですよ。どうぞ」

「しょうがないのはお前の頭だ!」


ほら!垂れてる!垂れてるよー!アイスクリームめっちゃ垂れてるよ!

と思ったのもつかの間で、緩くなっていたアイスの部分が左足を抑えて倒れている男の顔面にびちゃっとぶちまけられた。


「ソ、ソテツの兄貴ー!?大丈夫ですか!?」

「やろう!俺たちの兄貴に何しやがる!?」

「・・お前らタダじゃ済まさねーからな!?」


はい!俺とマリーは事務所とやらに連行されました。

ちっきしょー!


「まずは有り金を全部出しな」


屈強そうな見た目をした男たちがそう言いながら俺とマリーの頭に棒剣を突き立てた。

こんな棒の剣でも頭を殴られたら即お陀仏だろうな・・。

俺は財布を地面に投げた。

その中には全財産40Sが入っている。

ああ・・路地の酒場なんかにきてしまったばっかりにこんなことに。


「げっ!たったの40Sじゃねぇか!どうすんだお前!?」

「どうすんだと言われましても・・」


俺の財布の中身を確認したチンピラもこの金額は予想外だったようで、困った様子でソテツと呼ばれていた男の方に目をやっていた。


「男の方は労働者として売り渡せ。女は繁華街の方だ」


なんてこった。俺とマリーは売り飛ばされるらしい。

まさか最初の街で冒険生活が詰むなんて夢にも思わなかった。


「なんですか?この私を誰だと思っているんですか?国王の娘マリーですよ?」


マリーがそう言い放つと事務所がざわついた。

そうだった!こいつ一応国王の娘なんだった!

国王の娘とあらば何もできまい、いいぞマリー!

そう思い俺は安堵していたが。


「国王ってあの偽勇者を召喚した無能王だろ!?」

「そうだ!俺たちから税金を取るだけ取って無駄遣いしやがる税金泥棒だ!」

「おまけに酒癖と女癖が悪く足の裏が臭いらしいぞ!」


国王さん、あなた世間では無能王とか税金泥棒とか言われてますよ。

おまけに酒癖が悪くて、女癖が悪くて、足の裏が臭いとか言われたい放題じゃないですか。

それになんだか事務所の雰囲気が穏やかじゃないぞ。

とにかく俺が噂の偽勇者だってことは何としても隠し通さなくては。


「ちなみに!ここにいるセージこそお父様が召喚した偽勇者です!」


マリーがばーんと両手を広げ、ドヤ顔で俺を紹介した。

このアホが!いきなり俺が偽勇者だってことを暴露しやがった!

いや!別に偽勇者じゃないけどね!?周りが勝手に言ってるだけであって。


「そういえば、そこの男見たこともない変な格好をしているな」

「えっ!? 違います。俺はそこらへんの羊飼いです〜!これは職場の制服です。この子は俺の妹でよく妄想話をするかわいそうな子なんですよ〜。もうこの子ったら!あははははは!」


俺はもうものすごい力を込めてマリーの頰を引っ張った。


「あう・・。あう・・。」


マリーは涙目になりながらじたばたと暴れていた。

泣きたいのはこっちの方だっての!


「俺たちまだ未成年なんでもう帰って寝る時間かなー!?なんて・・。じゃさよならー!」

「まちな!」


俺がマリーを抱えて事務所から出ようとしたとき、誰かにがっと右肩を掴まれた。

そうだよね、世の中そんなに甘くないよね。

殴るなら優しくお願いします!俺は目を瞑り、殴られるのを覚悟した。


「今は国王のせいで不況だから大変だろう?これ少ないけど持ってって。若いのに苦労しているね。生きていればきっといいこともあるよ」


俺の右肩を掴んだのは優しいお姉さんだった。

いやー本当にありがとうございます!

心の中でなんども頭を下げ、俺とマリーは50000Sと少しばかりの食べ物をいただきました。

涙が出そうだ。


「やったなマリー!これで何日かは持つぞ」

「わー。やりましたね。」


事務所のみんなに同情され、食べ物を物を恵んでもらった俺たちは笑顔で事務所を出ましたとさ。

めでたしめでたし。


「って違うだろ!!情報収集できてねーじゃねーか!レベル上げは?クエストは?どうすんだ!?」

「セージ、短期は損気ですよ?まずは腹ごなしをしましょう」


二人ともお腹の音がなりました。


「そうだな!でも腹ごなしじゃなくて腹ごしらえだけどな」

「お肉にしましょう!お肉がいいですよセージ!」


あたりはすでに暗く、俺たちは宿で腹ごしらえをし、宿のラウンジで話していた。


「美味でしたね!あの羊の肉は」

「味は悪くなかったかな」


まぁ!ただ焼いただけの肉だけどな!

空腹が最高の調味料とはよく言ったもんだ。


「今後の動き方なんだけどさ、俺が勇者でお前が国王の娘っていうのは伏せようと思う」

「なんでですか?堂々としていればいいじゃないですか」


この子ったら、あんな目にあっておいて、まーだ状況を理解していないわ。


「さっきの酒場での国王の嫌われっぷりを見ただろ?さっきは運よく助かったけど今度同じような目にあった時、俺もお前も何されるかわからないぞ。いいな?俺たちは羊飼いの兄妹だ」

「・・セージはそういう設定でのプレイが好きなんですね」

「設定とかじゃねーよ!!へんな誤解をするな。このままだと魔王軍より先に街の人に袋叩きにされて冒険が終了してしまうぞ」

「やれやれ・・しょうがないですねー。セージは。わかりましたよ」


マリーが苦笑しながら手のひらをこちらに向けてきやがった。

アホそーに。


「そもそも!お前の親父とお前のせいで俺は今こういう状況になっているんだが!さっきの事務所ででお前だけ置いてきてもよかったんだぞ?」

「なんですか!?この人でなし!!偽勇者!!」

「ま、まずい!いったそばからこのアホが・・!」


マリーが大きな声で注目を集めてしまったことによりラウンジ中の人の視線がこちらに向けられた。

俺は慌ててマリーの口を塞ぎ、マリーを抱えて宿を出た。


「言ったそばから何でかい声で偽勇者とかいってるんだ!?お前の脳には脳みそじゃなくてカニみそが詰まっているのか!?」

「カニみそ!?美味しそうな響きです!」


こいつの脳はとんだ食べ物脳のようだった。

俺が宿を出て走っていると見覚えのある顔が見えた。


「さっきの兄ちゃんと姉ちゃんじゃねーか」

「お前は、確かソテツって呼ばれてたな?」


見覚えのある顔はさっき俺とマリーが絡まれたチンピラのリーダー格だった。


「さっきは悪かったな。お前ら新米冒険者だろ?いいこと教えてやるぜ」

「なっ、なんでそれがわかる?」

「んー!んー!」


マリーが何か言いたそうにしていたが、こいつが話すとややこしくなるので俺はマリーの口を塞いでおいた。


「だってお前ら冒険者ライセンス持ってないじゃねーか。この街に来るやつはほとんど冒険者だしな」

「なるほど、そういうことか」


冒険者ライセンスか、そんなものがあるんだ。


「ほれ。あそこ見えるか?」


ソテツが指をさす方を見ると街の入り口入ってすぐのところに冒険センターという看板のある大きい建物があった。


「どストレートすぎるわ!ポケ○ンセンターか!」

「あそこに行けば冒険者ライセンスの手続き、情報収集、クエストの依頼と食事がすべてできるぞ。じゃー頑張れよ」


ソテツはニコッと笑ってどこかに行った。


「・・話は終わりましたか?」

「・・おう」


そこにはむすっとした表情のマリーと力が抜けて立ち尽くす俺の姿があった。



マリーは橙色のロングヘアーで丸顔です。

身長148cm、体重は38kg、大食いの痩せ体質で15歳の女の子です。

表情が豊かな国王の娘で魔導師です。


あだ名は箱入りプリンセス、ポンコツプリンセス、ブラックラインセンス、マスコット、異能の魔導師、食脳の魔導師などバリエーションが豊富です。


基本ローブ姿で帽子と杖を持ち歩いておりますが、寝るときは専用のパジャマに着替えます。

特技は大食いで、なんでも食べます。

特に好きな食べ物はお肉ですがそのうち甘いものを好んで食べるようになります。


魔力はかなり高いのですがそれ以外の能力は平均以下です。



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