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神童による野球部再興  作者: 芹沢翔太
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狙う金星 VS天道 (1)

 土曜日の球場はかなりの数の観客が集まっていた。

 優勝候補の天道中を見に来た人は当然多い。さらに陽光クラブの神谷がいるチームと戦うといううわさがかなり広まり、それ目的で来た人もいるだろう。俺もこの辺ではかなりの有名人だった。


 スタンドを見ると中年のおじさんたちが熱心に天道中に声援を送っていた。昔から強い伝統あるチームだから、OBもかなり熱心なのだろう。

 こちら側のスタンドを見ると、当然向こうには敵わないものの、初戦などに比べるとかなりの人が入っていた。最近は弱いものの、ここも元々は強かった学校だ。優勝を夢見る人もまだ多いのだろう。

 

 ホームから守備位置についている皆を見ると、やや硬くなっているように見えた。これだけの人に見られて試合するのもなかなかないから無理もない。

 マウンドの下山はかなり集中しているようで観客のことなど見えていないようだった。

 やがて投球練習も終わりになり、いつものように二塁に送球する。矢のような送球は一瞬で二塁ベース上の後藤さんのグラブに収まる。

 すると、場内からはおおーっと歓声が上がり、パラパラと拍手も沸いた。一種のパフォーマンスのようになってしまったな。


 そして、1番打者が左打席に入る。

 審判がプレイボールを告げると、場内もにわかに沸く。そして、下山が投球動作に入る。

 1球目、まずはストレートから。打者のひざ元に投げ込む。すると、初球から手を出してきた。

 内角の速球を叩くと、強烈な打球が一二塁間を破る。一二塁のどちらも反応できないほどの打球の速さだ。

 先頭を出してしまった。場内はさっそく大きな歓声が響いた。さすがの人気だ。


 無死一塁で2番を迎える。バントの構えはない。

 この天道中を調査していてわかったことがある。その最たるものが超攻撃型野球だ。

 2番打者だろうが下位打線だろうがノーアウトだろうがまずバントがない。盗塁はさほど多くはないが、走塁意識が高く、常に先の塁を狙い、暴走気味でも構わない、そんな野球をしている。

 だからここもバントがないのは分かっている。だが何も考えずに打っているのではなく、しっかりと進塁打を意識した打撃をしてくる。


 まずは右打者の外角にカーブ。これは外れてボール。

 先程の打者もそうだが、このチームは好球必打のスタイルのようで、カウント関係なしに打ってくる。

 続いて外にストレート。甘いコースではなかったがこれを打ちに来る。

 打球は一二塁間に弱いライナー性で飛ぶ。微妙なところに落ちそうだ。

 これに増田さんは横に飛びつくと、グラブの先ギリギリで捕球した。ランナーは飛び出しており急いで帰るも先に一塁に送球されてアウト。ダブルプレーとなった。


 場内は大きなため息となったが、すぐに今のファインプレーを称える拍手に変わった。これでやや勢いはこちらに傾いた。


 続く3番はこれまた大柄で、手足が長く、リーチのある打者だ。

 こういう打者には内角を攻める。ストレートが決まりストライク。

 2球目はスライダーを外に外す。

 3球目、またストレートを内角に入れる。いいコースだったが打者は打ちに来た。

 腕を器用にたたんでしっかり捉えたが、ボールはサードの正面に転がった。石村さんがしっかり捕球し、一塁へ投げて3アウト。


 名門・天道中相手に見事初回を0に抑えた。

 下山は嬉しそうにしている。皆もナイス、と声をかける。

 いいムードだ。これならいけるぞ、と思っていると、相手はもう守備につき、投球練習を始めていた。


 相手の背番号1番が投球する。ボールは凄まじいスピードでキャッチャーのミットに収まる。

 その投球を見て観客も色めき立った。

 これが天道中の一番の武器だ。圧倒的な投手力。エースの渡部はすでに高校球界からも高い注目度を誇る、好投手だった。


 投球練習が終わり、柴崎さんが打席に入る。

 初球、ストレートが凄まじい球威でミットに収まりストライク。

 2球目も速球でストライク。柴崎さんはどちらも見逃して、追い込まれた。

 3球目は切れ味鋭いスライダーがボールゾーンからストライクコースに決まり、見逃し三振。


 ベンチに帰ってきた柴崎さんは一言呟く。


 「あれ打てるのか?」


 皆も同じことを思っているような表情だった。

 続く森山も三振、石村さんも三振。三者連続三振で圧巻のピッチングを見せつけてくる。

 ファインプレーでこちらに傾きかけていた場内の雰囲気も完全にあちらに傾いてしまった。

 

 急いで守備の用意をしてグラウンドに出る。

 話には聞いていたし映像も見たものの、実際に同じグラウンドに立ってみると想像以上だった。

 完全に相手の雰囲気に飲み込まれ、不安ばかりが残りながら、2回の表を迎えた。

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