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神童による野球部再興  作者: 芹沢翔太
25/36

大きく踏み出す第一歩

 神山中は後攻のため、皆守備位置に着く。

 マウンドに上がる下山は、集中しているようだった。

 マスクを被り、座って投球練習を開始する。

 投げ込まれた速球は、手が痛くなるほどの衝撃でミットに収まった。前の試合に比べて格段に球威が上がっている。

 最近の練習ではずっと回転を気にして投げ込みを続けてきた。俺が提案した、回転数、回転軸が分かる機材が部費によって導入されたため、より一層練習の質は上がった。下山のボールも唸るような質のいい速球に進化した。


 投球練習も終わり、最後に二塁送球で締める。

 送球は低く伸びてベース上少し横の完璧なコースに決まった。すると、球場がにわかに沸いた。

 相手ベンチも相当戸惑った様子だった。去年までは同レベルと言われていたのだ。こちらの動きを見て動揺するのも無理はない。


 そして、打席に1番が入る。審判からプレイボールのコールがかかる。

 まず一球目、ストレートから入る。威力のある球が決まりストライク。打者は腰が引けていた。

 二球目もストレートでストライクを取り、三球目はカーブで打者は空振り、三振となった。

 相手との力量差は圧倒的にこちらが上。それがわかって気が楽になったのか、さらに調子を上げた下山は2番、3番も連続三振に斬って取った。

 ベンチへの帰り際、下山に声をかける。


 「ナイスピッチ。出来過ぎなくらい調子いいみたいだな」


 「ああ、ありがと。・・・これまでやってきたことを全部生かしてやろうと思っててさ。でも、ここまで力がついてるとは思ってなかった。お前のおかげだ、ありがとう」


 「え・・・いや、そんなことないって。お前が頑張ってたからだよ。とにかく、ここからも気を引き締めて頑張ろうぜ!」


 「ああ!」


 そうしてベンチに帰り、攻撃の準備をする。ここで礼を言われるとは思ってなかったため、ちょっと面食らってしまった。

 そんな気持ちは振り払い、相手ピッチャーを観察する。球は速くない。制球も悪い。このチーム状況を考えたらエースもこんなものだろう。

 打席には柴崎さんが入った。1巡目、どう動くかで試合の流れは変わってくる。

 ピッチャーが1球目を投げる。遅いストレート。それをいきなり柴崎さんは打ち返す。打球はセカンドの頭の上を越えてセンター前に落ちる。初球をヒットにした。

 柴崎さんもこれまで打撃練習を重ねてきた。技術はさらに上がっている。


 2番の森山が打席に入る。

 試合前のミーティングでは、とにかく攻めていくと話した。先頭が出ても、ガンガン攻めていく。

 しかしピッチャーは初球を打たれたことで動揺しているのか、ストライクが入らなかった。一球もバットを振ることなくストレートのフォアボールとなる。


 無死一・二塁、バッターは石村さん。セオリー通りならバントもあるかもしれないが、ここは打つ。

 一球も振らずに2ボール1ストライクのバッティングカウントになる。

 ここで緩い変化球が来た。石村さんはそれを打つ。打球は一二塁間を鋭く破っていった。

 二塁ランナーの柴崎さんは三塁を回りホームへ帰ってくる。先制だ。

 森山も次の塁をすかさず陥れ無死一・三塁。


 ここで自分の打順。打席に入るとやや球場はざわつく。少年野球時代を知っている人たちだろう。期待に応えるためにもここで打たなければ。

 ピッチャーは明らかに逃げ腰で投げてくる。2球続けてボールで、3球目、ストレートが入ってくる。打ちに行くと、完全に芯を食った。

 打球はすさまじいスピードで左中間に伸びていき、ほぼ水平な打球がフェンスに突き刺さった。やや角度が足りなかったか。

 しかしすでに二塁に到達し、一塁ランナーの石村さんもホームに生還した。3点目だ。

 球場は今の打球を見てざわつきが増している。


 そして、西郷が打席に入る。球場のざわめきも気にせず落ち着いた様子だ。

 完全に動揺しているピッチャーの初球を西郷は捉えた。

 打球は高く上がりレフトが追うが、フェンスを越えて、外野スタンドに着弾する。ツーランホームラン、5点目だ。

 ベースを一周した西郷は、当たり前という表情で帰ってきた。

 

 「ナイスバッティング!」


 チームメイトから祝福の声が上がると、無表情だった西郷の顔からも笑みがこぼれていた。


 神山中はその後も勢いに乗り、さらに3点を取り0対8までもっていった。

 下山は好調を持続しここも三者凡退にとる。

 その裏は俺のソロホームランもあってさらに3点を追加。

 下山も抑えて、相手を圧倒して5回の表まで来た。

 点差は0対17。ここを抑えればコールド勝ちだ。

 ツーアウトまで取り、バッターは8番。手も足も出させず2ストライクまで取り、最後は速球で空振り。コールド勝ちが決まった。


 整列してゲームセットが告げられる。この後も試合があるので急いでベンチを空ける。その間もみんな充足感に浸っていた。

 片付けも一通り終わり、ほっとしたところで石村さんがミーティングを始める。


 「えーまずみんなお疲れ!結果もよかったし、安心している人も多いと思う。確かに連打もありホームランもあり、良い感じで点は取れてたけど、課題も結構あったよな?後藤のゲッツーなんかは天道戦でやられたら致命的だ。そういう課題をつぶさないとあそこには勝てない。勝って兜の緒を締めよだ!次からも気を引き締めていくぞ!」


 その後各々で課題を再確認し、ミーティングは短めに終わった。

 今日は相手が相手だっただけにみんな調子よくやっていた。これが天道中相手ならそうはいかないだろう。


 「神谷お疲れ。ナイスバッティングだったね、4打数4安打とは恐れ入ったよ」


 下山が声をかけてきた。


 「おお、ありがとう。そっちこそ1安打ピッチングなんて調子よかったじゃないか。」


 「まあね。でもこんな投球は天道に通用しない、だろ」


 同じことを考えていたか。それだけ大きな相手だということか。


 「でも、今日の球なら天道中も抑えれるさ。頑張ればな」


 「ああ、そうなれるように頑張ってみるさ」


 二人でニヤッと笑い合う。勝機はあまり無くても自信だけはつけなくては太刀打ちできない相手だろう。ならば馬鹿にでもなってやってやる。

 とにかく1勝はした。次も勝って、天道中にだって勝って、俺たちが優勝してやる!

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