ついに始まった春季大会
このお話は、現代の中学野球とは少し違った設定があると思います。それはそういうものだという感じで軽く見ていただければ、幸いです。何卒よろしくお願いいたします。
「えー、皆さんにはこれまで頑張って取り組んできた成果を存分に発揮してもらいたいと思っています。ぜひとも頑張ってください。・・・」
何百、何千という人間がずらりと並んで、前に出ている偉そうなおっさんの特に興味のない話を延々と聞かされている。
こんな状態ではやや薄れるものの、その時が刻一刻と迫ってきて実感が少しずつ湧いてくる。
始まったのだ、春季大会が。
退屈な時間も過ぎ、グラウンドの外にみんなで集まる。
「よし、開会式も終わったし、いよいよ試合が始まるぞ!気合入れていこう!」
おおーっ!とみんなで気合を入れる。
俺たちの試合はこの球場の3試合目に行われる。それまではウォーミングアップだったり、観戦だったりしてしながらその時を待つ。
個人行動でいいと言われたので、他校の試合もまだ始まらないし、とりあえず球場の周りを走ることにした。
まだ開会式が終わってそこまで時間もたっていないので人は割と多いし、この後観戦しに来る人でさらに多くなるだろう。しかし、この球場周りにはランニングコースがあるので困ることはなかった。
少し走っていると、後ろから下山がついてきた。
「神谷!俺も一緒に走っていいか?」
「いいけど、どうしたんだよ?」
「いや、バッテリー組むものとして一緒に走るのもいいかなって」
下山は今日の試合で先発する。まあバッテリーは一緒に走るものではあるか。
しばらく無言で走っていると、唐突に下山が口を開いた。
「なあ、今のうちの力で、どこまで行けると思う?」
「勝ち上がるって意味か?なら、優勝できると思っている」
下山は少し驚くように息を呑んだ。
「・・・やっぱり本気で言ってたんだ、それ」
「ああ、本気だ。逆に下山は優勝できないと思っているのか?」
「いや、できないとは言わないけどさ。・・・やっぱり天道中とかに勝てる自信はないよ」
下山は少し困ったように言う。
「・・・石村さんも柴崎さんも攻守に技術が高い。2年の先輩たちも守備は固いし、森山も西郷も実力はかなりのものがある。お前だっていい球投げるし、打撃もいい」
「・・・まあ確かに、割とそろってるかもね」
「何より、このチームには俺がいる。それだけで優勝できる要素は揃ってるだろ?」
「ぷっ・・・ははは!なんだよそれ、どんだけ自信があるんだよ!」
下山は面白そうに笑う。
「当然だ。俺は昔に実際にチームを日本一に導いた。このくらい思っててもいいだろ?」
「はは・・・確かにそうだけど・・・なんか新しいね、その感じ」
下山はまだ笑っている。そして顔を上げて、元気そうに言う。
「でも、君のおかげでなんだか自信がついてきた気がするよ。そうだよね、うちには日本一の選手がいるんだもん、負けるわけないよね!」
「ああそうだ、安心してくれ」
そんなやりとりをしていると、いつの間にか時間は大分経っていたようだ。
「そろそろ走るのは止めにするか。キャッチボールでもするか?」
「ああ、そうだね。じゃあ戻ろうか。」
そんな感じで準備をしていると、1試合目は終わり、2試合目が始まっていたようだ。
少し経つと皆集合場所に戻ってきて、全員でウォーミングアップを開始することとなった
ランニング、ストレッチ、キャッチボール、軽いペッパー等を済ませると、第2試合も終盤に差し掛かったようだ。
「よし、球場に入る準備をするぞ!」
石村さんが指示を出し、道具等を持って球場内の控室に入る。
試合はもう終わるようだ。すぐにベンチに入れるように準備をする。
試合が終わり、先ほどまでいたチームとは入れ替わるようにベンチに入り、素早く準備をする。
すれ違ったチームは負けたようで、涙こそ流してはいなかったが悔しそうな表情を皆浮かべていた。・・あちら側の立場には着きたくないものだ。
試合の準備を終えると、ノックに入るよう放送で促される。
急いでグラウンドに出て守備位置に着き、ノックを始める。今日は自分がノッカーを務める。
見たところ、皆動きは悪くない。これならいける。そう思った。
制限時間内にノックを終え、ベンチに撤収する。続いて相手がノックを始める。そこまで下手ではないが、まあ普通といった感じだ。
相手の動きを観察したり、最終準備に入ったりしている中、相手のノックも終わる。
そして、ベンチ前で円陣を組む。
「さあ、待ちに待ったこの時がようやく来た!いつもの野球ができれば俺たちが勝てる!」
石村さんが気合を入れる。
「じゃあスタメンを発表するぞ!」
皆わかってはいたが、改めて発表される。
「1番ライト柴崎!2番センター森山!3番サード石村!4番キャッチャー神谷!5番レフト西郷!
6番セカンド増田!7番ピッチャー下山!8番ショート後藤!9番ファースト武藤!以上だ!」
発表し終えると、改めて石村さんが中央に来る。
「絶対勝つぞー!!」
「「オオー!!!」」
円陣を組み終わるとベンチ前に一列で並ぶ。相手もそうなっていた。
審判団が出てくると、両軍一斉にホーム前へと駆ける。
「これより、谷川中学校対神山中学校の試合を始めます。礼!」
お願いします!の声が試合開始を伝えた。




