あと二人のキーパーソン
「そういえばうちって3年引退したらまた合同チームになんの?」
練習の休憩時間、唐突に武藤さんがそう言った。
「あ・・・確かにそうだった。7人しかいないからチーム成立しないじゃん・・・」
「え、忘れてたのかよ後藤。そんなのわかりきってたじゃないか」
後藤さんと増田さんもそれに乗っかってきた。
「まあ、うちはずっとそんなんらしいし、大丈夫だろ」
石村さんはそう呑気そうに話していた。
「・・・駄目でしょう、それじゃあ」
思わずそう言ってしまう。それに石村さんは反応する。
「ダメって言われてもな・・・神谷は何か考えはあるのか?」
そう言われると困ってしまう。今のチームのことで手いっぱいだったので、残りのメンバーのことなど考えていなかった。
しかし、一応当てがないわけではない。
「なら俺が勧誘してきますよ。二人なら問題はないですよ」
「本当か!?神谷がそう言うなら信じるが・・・なんでそんなに自信ありげなんだ?」
「実は1年生に野球をやっている知り合いがいまして。そいつらを勧誘できれば余裕で埋まりますよ」
そう、一応顔は知っている奴はいる。少年野球時代に知り合った奴だ。こんなこともあろうかと調査はしておいた。
「そっか、じゃあ頼むぞ!今後のチームの存続にかかわることだからな」
「任せてくださいよ。きっと連れてきて見せます」
そうして休憩は終了し、練習に入っていった。
後日、放課後になってすぐ、俺は違うクラスに向かった。
そして、それらしき姿の人物を発見し、声をかけた。
「ねえ君、もしかして山岡小の西郷君かな?」
声をかけるとこちらを振り向いた。周りと比べると二回りほど大きい体格。身長は俺と同じくらいか。ただ横幅は俺よりもさらに大きい。
顔立ちは凛々しく、太い眉がより一層威圧感を持たせていた。
「え?・・・あっ、まさか陽光の神谷君か!?」
よかった相手もこっちのことは知っているようだ。なら話が早い。
「そうだよ。知っててもらえて光栄だね。突然で申し訳ないんだけどさ、野球部には興味ないかな?」
そう言うと、西郷君の顔は一瞬で暗くなった。
「・・・そうだよな。君が話しかけてくるということはそういう用件だろうと思ったよ。それなら悪いけど断るよ。野球はやる気はもうない。」
そう言って足早に帰っていった。・・・何か事情がありそうな物言いだったな。今追いかけるには得策ではないか。日を改めよう。
そして、もう一人用のある人物の元へと行った。
また違う教室に入ると、数人はまだ教室に残って友人同士喋っていた。そのうちの一人が探していた人物だった。
「あれ、もしかして君、野球部の神谷君?」
あちらから気づいてこっちに話しかけてきた。
彼は桐山コンドルズの森山君。
細身ではあるがかなり背が高く、手足が非常に長い。
顔は優しそうな顔をしているが明るそうで、話しかけやすそうなオーラがある。
「ああ、そうだよ。知ってくれているのか」
「知ってるも何も俺は神谷君のファンだからさ!握手してよ!」
なんだか調子が狂う感じだ。だが俺のファンということは野球も相当好きなんだろう。
「今日は野球部の勧誘に来たんだけど、どう?一緒に野球しないか?」
そう言うと、森山君も先程の西郷君と同様に暗い表情になった。
「あー・・・野球ね。悪いんだけど俺はもう野球はしないんだ。ごめんね」
そう言って逃げるように教室を出ていった。なんだ?こっちも訳ありなのか?
「おい、そこの野球部の人」
そう立ち尽くしていると、先ほどまで森山君と話していた男子が声をかけてきた。
「君は森山の勧誘に来たんだろ?なら止めた方がいい。森山は前にチームメイトと揉めて野球をやめてるんだ」
「野球をやめた?何でそんなに揉めたんだ?」
「それは知らない。知りたいなら本人に聞いてくれ。でも、かなり辛い思いはしてるみたいだ。あんまり触れてやるなよ」
そう言ってその男子たちも教室を後にした。
思っていたよりもわけが重いようだ。困ったな、二人ともこうでは入部させられない。
だが、前にあの二人のプレーは見たが、絶対に戦力になるはずだ。
何としてもあの二人は部に入れてやる!




