チーム力を向上させよう!
さて、チーム作りといっても具体的な方針を決めなければ。
メニューを決めるうえでこのチームの一番の問題は人数だ。9人ではできる練習も限られてしまう。
「石村さん、これからは個人練習を増やしていくのは良いでしょうか?」
練習後に石村さんに相談する。
「そうだな・・・全員でやれることもたかが知れてるし、それなら個人の方が効率はいいかもしれないな」
「この前の試合でそれぞれの課題は大分見つかったと思うんです。できないことがあれば皆で教えあえればより能力を高められるでしょうし」
「まあ確かにな・・・ではメニューはどう作る?」
「一応こっちで方針をある程度決めておいて具体的な内容は各々に任せてみようかと。既にその方針は決めてあるので明日からでも新メニューで練習開始できますよ」
「わかった。お前に任せるよ」
石村さんの了承もとったので、明日から個人のパワーアップに精を出していこう。
翌日、アップを済ませてメニューの発表に移る。
「今日から皆さん一人一人に合わせた個人メニューをやっていただこうと思います!メニューはこの紙の通りです!練習上ペアになる人もいるとは思いますが、細かい部分については皆さんにお任せします!ではそれぞれ準備ができた人から始めてください!」
皆がベンチに張り出した紙を確認してからぞろぞろと動き出す。
俺は今日はみんながどう動くか見て回るようにする。
この前の試合でそれぞれの長所短所はさらに理解できた。一人一人の能力を高める手助けをしよう。
まず見に行くのは宇野と佐田の二人だ。1年生とは言え現状、チームの穴となっている。だが伸びしろはあるだろう。なんとか一人前の選手にしたい。
「二人とも、どうだできてるか?」
とりあえず声をかけてみる。
「あ、神谷・・・正直どうすりゃいいか微妙だな」
宇野がそう言う。前の試合を見るに宇野はパワーは比較的ある。当たれば割と飛ぶが、当てる技術があまりない。加えて足も遅く、肩は悪くないが守備もうまくない。穴が多い選手だ。
今はとりあえず守備走塁を諦めて、長所のある打撃を伸ばしていこうと思う。
「そうだな、宇野は今は打球の強さと角度を意識してくれ。お前のパワーなら少し角度が上がれば簡単に内野は越えるだろうし、うまくいけば長打にもなるだろう。内野の頭の上をめがけて打球を飛ばすよう心掛けてトスバッティングしてくれ」
「わかった。言われた通り頑張るよ」
「神谷、おれはどうすれば・・・?」
続けて佐田も聞いてくる。佐田は足は割と速いし守備のセンスもある。ミート力も意外にあるが、非力だ。芯で捉えても内野を越えるかどうかというところだろう。
「佐田は強いゴロを意識してくれ。今のパワーでは内野を越える打球を打てるか微妙だ。ただ、お前には足があるし、ボールも割と捉えている。内野安打を狙えるような強いゴロを打つように練習してくれ」
「了解。とりあえず三遊間を意識してやってみるよ」
そうして二人でトスバッティングを始めた。
続いて2年生の三人のところへ向かう。
すでに三人でノックのようなことをしている。
武藤さんがボールを投げ、後藤さんが打ち返し、増田さんが捕ってネットに送球している。
課題をこなすうえでこのやり方が効率良いと考えたのだろう。
後藤さんは肩は強く試合でもいい送球を見せていた。守備範囲は割と広く、改善の余地はあるが遊撃手としては合格だろう。だが、打撃が粗すぎる。長打力はあるが、ボールを見て振っておらず、全然ミートできていないのが課題だろう。
増田さんは攻守共に高水準で、課題と言える課題はないだろう。守備力がさらに向上すればチーム力はぐっと高まるはずだ。
武藤さんは非力なこともあり打撃はだめだ。ただ一塁守備は軽快で、ほとんどの送球を受け止められる捕球力もある。一塁では少しもったいないレベルの守備だ。
後藤さんはボールを強くミートすることを意識して、増田さんも一歩目を意識して練習に取り組んでいる。しっかりと課題を考えられているようだ。
その横では石村さんと柴崎さんがバットを振りながら話し合っている。どうやらスイングについて教え合っているようだ。
二人とも攻守にレベルの高いプレーを見せていたため、とりあえず今回は自由にしてくれと頼んでいた。より打撃をレベルアップさせようとしているようだ。
そして、下山は一人でロードに出かけたようだ。
課題は下半身と伝えたら走りこむといって出ていった。ルートを聞くと相当走るつもりのようだったが、それくらい意識が高くないとチームは強くならないだろう。
そうしてそれぞれが練習する中でアドバイスをしながら各練習を回っていった。そんな練習スタイルを1週間ほど続けると効果は出てきたようだった。
集中してやっていたプレーは皆見違えるほどよくなっており、チーム力は格段に上がった。
公式戦までさらに修正していければきっといいところまで行けるはず。そう思って練習を続けていった。