表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神童による野球部再興  作者: 芹沢翔太
17/36

待ちに待った初試合 VS城西 (10)

 8回の裏、バッターは1番からだ。点差は2点。あと2回しっかり抑えなきゃ。

 前の回ではぴしゃりと三人で相手を抑えたが、上位打線相手でもそれが通じるだろうか。

 そう心配しつつ、柴崎さんの方を見ていると、当の本人はずっとボールをいじっている。なんだかんだでマイペースな人だ。まあ多分大丈夫だろう。


 1番が打席に入る。まずはインローにワンシーム。これは見逃したがストライク。いい球威だ。

 2球目は外にムービングを投げる。しかし大きく外れてボールとなる。指に変に引っかかったようだ。

 3球目、ツーシームをアウトローに。これはバッターも振ってくる。だが芯に外れて当たり、三塁線にぼてぼてと転がり、ファールとなった。

 ここまでは順調に追い込んでいる。そして4球目、内角にチェンジアップを入れる。打者はタイミングをずらされ、崩れながらもなんとかバットにボールを当てた。

 またもボールは三塁線に転がる。打球はフェアだ。

 石村さんが逆シングルで捕球し、一塁に送球する。アウト。

 よし、この回も調子よく行けそうだ。


 その勢いのまま2番もセカンドゴロに打ち取り、続く3番にはチェンジアップで空振り三振を取った。

 

 「いいですね、柴崎さん!」


 帰り際、声をかける。


 「ああ、指の掛かりはそこそこいい。いつもはもう少し外れるんだがな。やはりお前に教えてもらったチェンジアップが効いているな。・・・ありがとう」


 唐突に礼を言われ、少々戸惑う。柴崎さんは普段無口だからなおさらだ。


 「あ、いえ、大したものではないですよ。それより、最終回、頑張りましょうね!」


 「ああ、そうだな」


 そうしてベンチに戻り、9回表が始まる。

 

 打席には後藤さんが入る。ピッチャーが第1球を投げる。ストレートが強く内角に入っていた。

 もうだいぶ球数も多くなってきているのに、球威は落ちる気配がない。やはりいい投手だ。

 2球目は変化球を投げ込んでくる。それを後藤さんは捉えた。

 引っ張られた打球は高く飛びあがり、外野手の頭を越えた。打球はワンバウンドでフェンスに当たり、ツーベースとなった。無死二塁だ。

 しかし、得点圏になったことで相手ピッチャーに火がついた。


 そのあとの武藤さん、宇野、佐田の下位打線を圧倒して見事に3者連続三振に斬ってみせた。まさに圧巻のピッチングともいえるような迫力のある投球だった。

 しかし、これで両チーム0が並ぶ展開となってきた。最後の裏でもそうなればいいが・・・。


 そして、9回の裏。打者は問題の4番からだった。

 始まる前に柴崎さんに駆け寄る。


 「大丈夫ですか柴崎さん。この回抑えて勝ちましょう!」


 「ああ、調子はいい。任せろ」


 ふと、柴崎さんは考えたような顔で無言になり、おもむろに口を開いた。


 「・・・なあ神谷、スリーシームを使ってみたいんだが」


 「えっ、スリーシームですか?あれは未完成じゃ・・・」


 突然そんなことを言われて驚く。柴崎さんは実践では使えないような変化球が多くある。スリーシームもその一つだ。

 

 「確かにあれはまだ制球も変化も不安定だ。でもうまくいけばきっと相手にとって有効だろう。あと、スライダーとカーブもだ。調子のいい今日、実戦で試してみたい」


 練習試合とはいえこの大事な最終回でこんなことを言ってくるとは、マイペースな人だ。


 「・・・わかりました。状況次第ですが使っていきます」


 「・・・そうか、ありがとう」


 そう言ってマウンドに戻っていく。

 ここであえて未完成の変化球か。俺はここまでとにかく勝利を目指していたが、あの人は多分さらに先を見据えているんだろう。あんなことを言われて、逆になんだかはっとした。

 とにかく、ここを勝てば絶対にチームの成長につながる。ここを頑張ろう!


 打席には4番が入る。今日はやられっぱなしだ。何とかしなければ。

 1球目にはツーシーム。内角に入ったが見逃されてストライク。

 次にワンシーム。低めに来るが、外れてボール。

 1-1で3球目、ツーシームを内角に入れる。これはボール。

 2-1バッティングカウントだ。これまでやられているイメージが強く、どう攻めようか、迷いが出る。

 ふと、さっきの柴崎さんとの会話で出てきた変化球のことを考える。

 少なくともこれらは投げていなかったのでノーマークだ。

 ・・・これに賭けてみるか?

 そう思い、スリーシームのサインを出す。柴崎さんがうなずき、ボールを投じる。

 バッターはこれを振りに来るが、今までは見せてこなかった予想外の変化についていけず、空振った。

 練習では不安定だったが、今はいい変化だった。これは使えるかも。

 続いて5球目、今度はスライダーを投げる。すると、打者はこの変化を予想していなかったのかかなり腰が引けたスイングになり、空振り。三振だ。

 あれだけ苦戦してきた4番を抑えた。さあ次だ。


 5番が打席に入る。初球、ツーシームで攻め、次にワンシームで外す。

 1-1でスリーシームを投げる。対応できずに空振る。

 これで1-2となった。そして、チェンジアップを投げるとタイミングを崩され、あっけなく三振する。これで2アウトだ。

 

 素晴らしいピッチングだ。あれだけ苦戦していた打線を、柴崎さんは簡単に打ち取っている。

 さああと一人だ。6番が打席に入る。

 初球はワンシームが外れ、ボール。

 2球目、今度はカーブを投げる。あまりいい球ではなかったが、やはり予想外の球が来てバッターは動けず、見送ってストライク。

 3球目、スリーシームを入れる。バッターは振っていくも、後ろに飛んでファール。

 4球目、ストレートを高めに外してボールとなる。

 これで2-2、そしてチェンジアップを外角に投げると、打者は空振った。三振で3アウト。


 ゲームセット。

 皆でわぁっと集まる。これで初勝利だ!

 整列を終え、帰り支度をして、グラウンドの外に出る。

 そこで軽いミーティングをする。


 「えー皆、今日はお疲れさま。あの城西に勝ったということで、皆嬉しく思っているだろう。しかし今回は神谷に引っ張られてやっと勝てた試合だ。各々に課題もきっちり見えた。大会までにそこをしっかり修正していくぞ!」


 石村さんがまとめてそう言うと、おおー!!っと気合が入った。

 だが、今日はみんな喜んで浮かれている感じだ。まあ城西にこんなチーム状態で勝てたんだ。そりゃ嬉しいに決まっている。

 帰りに柴崎さんと下山に話しかける。


 「二人とも、体に違和感なんかは」


 そう聞くと、二人とも首を振る。


 「いやーしかし柴崎さんありがとうございました。俺が不甲斐ないばかりに苦しい展開で渡してしまって」


 「・・・大丈夫だ。お前はまだ1年なんだ、思い切って投げろ」


 そう下山と柴崎さんは話していた。


 「まあ二人とも今日はよかったですよ!これからも練習してどんどん力を高めていきましょう!」


 二人はそれに応えた。なんにせよ今日は収穫は大分あった。今後の練習でも今日の試合を意識してやっていこう。

 俺の目標は城西の撃破なんかじゃない。もっと上、日本で一番のチームを作ることなんだから。それにはまだまだ遠い。でも、これから頑張ってやるぞ!

 

皆との帰り道、心の中でそう誓った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ