待ちに待った初試合 VS城西 (8)
6回の裏、7-3でリードしている展開、このイニングを抑えれば終盤もこっちが主導権を握れるだろう。
下山はやや息が上がっているようだった。ここまで頑張って投げてくれたんだ、無理もない。
予定としてはこの回で下山はマウンドを降り、柴崎さんに繋ぐ。柴崎さんも試合に出ているから肩はある程度温まっているだろう。だが、この回まではなんとか下山に乗り切ってもらいたかった。
「下山、大丈夫か?大分疲れが見えるけど・・・」
マウンドに声をかけに行く。
「ああ、大丈夫だよ。何とかこの回までは抑えて見せるって」
下山は、疲れてはいるものの、張り切ってそう言って見せた。
「そうか、頼んだぞ。何か体に違和感とか感じたら絶対言えよ」
そう釘を刺して戻る。
相手バッターは監督の言うことを何やら真剣に聞いている。下山の対策だろうか。
そうして1番打者も打席に入り、6回裏が始まる。
さっきの相手ベンチの会話が気になるな・・・。とりあえずストレートを要求する。外角ギリギリだったが少し外れてボール。初球は見送られた。
2球目はスライダー。これも見られるが、入ってストライク。
つづいてカーブ。内角やや外れ気味だったが、打者は打ちに来た。
引っ張った打球が三塁線を襲う。石村さんは飛びついてキャッチする。ライナーだったが、手前でバウンドしていた。
急いで石村さんがファーストに送球する。しかし、バッターの足が速かった。セーフ。
無死一塁、先頭を出してしまった。
まずい。流れが相手に傾きつつある。
下山の方を見つめると、大丈夫だ、といったような様子を見せた。
二番が打席に入った。何とか抑えておきたい。
1球目、スライダーを外に外す。これは見送る。
2球目は内角にストレート。ギリギリのところに決まり、ストライク。相手も手が出なかったようだ。
3球目もストレート、低めに構える。若干外れていた。
ここまで3球見てきたが、そろそろ打ってくるか。
4球目はスライダーを外に要求した。若干制球が乱れ、ボールになる。これで3-1だ。
今のところ全球見送っている。しかし、甘い球はすかさず捉えてくるだろう。
5球目、ここもスライダー、内角に構える。微妙なコースに決まる。どうだ。
ボール、フォアボールだ。ここにも手を出さなかった。これで無死一・二塁。打者は3番だ。
下山の方を見ると、こちらに気づいて悪い悪い、というようなポーズをとってきた。
気丈に振舞っているようだが、大丈夫なんだろうか。
3番が打席に入る。
初球、カーブを投げる。やや外に外れているようだが、バッターはこれを打つ。
打球は一二塁間に転がっている。抜けそうな当たりだがどうだ。
そこに武藤さんが飛びつく。素晴らしい反応で見事捕球した。
だが二塁は無理だ。一塁をアウトにするよう指示を出す。ベースカバーに入った下山にボールが渡り、アウトになる。一死二・三塁だ。
ここで打者は4番、先ほどはホームランを打たれた。
なんとかここで抑えねば、そうは思うが下山も限界は近そうだ。
1球目、カーブを低めに、地面にバウンドしそうな低さで投げてくる。
しかし、打者はそれを打ってきた。
引っ張られた打球はレフト線に飛んでいき、フェアになる。
レフトが追うが、ランナーは一気に二人帰り、打者も二塁に到達する。7-5だ。
下山に駆け寄る。くそ、なんでカーブを要求してしまった。今までも打たれていたのはカーブなのに。リードが悪かった。下山に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「下山!すまない、また俺のせいで・・・」
「何言ってんだよ、あれは打者がすごかったよ。やっぱ城西の4番なだけあるよなー」
マウンドに行くと、思いのほか、下山は平気そうに話してきた。
「下山・・・大丈夫か?もう変わったほうがいいんなら柴崎も投げらると思うぞ?」
石村さんも心配そうに声をかける。
「大丈夫です!いや、なんかここまでくるとなんか燃えてきちゃって。この回は投げさせてほしいんです」
下山がそう言う。・・・こんな展開でこういうことが言えるなんて、やはり下山はすごい奴だ。
「そういうなら・・・じゃあ頼んだぞ。神山も引きずるなよ!」
そう言って石村さんは戻っていった。
「下山・・・本当に大丈夫か?」
「大丈夫だって。こっから頑張ろうぜ!」
下山が元気そうにそう言う。本当に強い奴だ。
そのあと、続く5番にはさっきよりも気迫のこもった投球でショートゴロに打ち取り、6番もその勢いのまま三振に取った。
「下山、ナイスピッチ!」
ベンチに戻り、下山にそう言うと、下山は笑って嬉しそうにしていた。
この展開で笑っていられるのはさすがだ。
点は取られたものの、流れはまだこっちにある。何とか逃げ切ってやる!