待ちに待った初試合 VS城西 (6)
5回の表、俺から始まる攻撃だ。何とか出塁して得点しなければ。
このピッチャーが出てきてからヒットが出たのは前の俺の打席だけだ。連打は正直望みがないだろう。
だからこそ、ここで長打を打っておきたいところだ。
打席に入ると、投手がかなりの気迫でこちらを睨んでくる。
前の打席で打たれた後の感じからも見て取れたが、相当な負けず嫌いなようだ。この打席こそ抑えると燃えているのだろう。
過去の2打席で俺のことも少しわかったのだろう、外野がかなり下がっている。フェンスがすぐ後ろに来るぐらいまでだ。あれはフェンスを越えない限り大きい当たりは捕られそうだ。
しかし、わかっていない。俺は無闇にバットを振ってホームランを狙っているだけではない。常にその打席で何が最善かを考えて打撃スタイルを変えている。思い通りにはいかせない。
ピッチャーが構える。初球、変化球。ストライクだ。
凄い切れだった。これが本気の投球か?
2球目、今度は速球が来る。高めに外れてボール。かなり力が入っているようだ。
3球目、ストレートが外に外れてボール。
4球目、緩い変化球が内側のボールゾーンからコースに入ってくる。
バットを出し、球の軌道に逆らわないよう軽く流す。
ボールはふらふらとファーストの上を飛んでいき、ライトの前方に落ちた。
だが、外野はかなり下がっていたので、慌てて前に走っている。
その隙に二塁を陥れた。よし、二塁打だ。当たりはよくなかったが、外野の位置を見てこの打球なら二塁を狙えると思っていたが、想像通りになった。
これで無死二塁、打席には下山。
ヒットではなくてもいい。とにかく転がせば得点のチャンスになる。石村さんもバントサインを出す。
ピッチャーがセットに入ると、下山もバントの構えをする。
1球目、変化球だが、バットはボールに当てられず、空振り。
続けてバントのサイン。下山も構える。
2球目、ストレート。バットには当たったが、ボールは後ろに飛んでいく。ファール。
ここでバントのサインが出なくなる。何とか進塁打を打ってくれ。
その後の2球はストレートが外れてボールになる。これで2-2だ。
5球目ピッチャーが構えに入り、投球に移る。
ここで俺はスタートを切る。ヒットエンドランだ。
変化球が内角に入っていく。下山がバットを出すと、根元にボールが当たり、サード前に転がる。
スタートは切っていたので、サードの捕球とほぼ同時に三塁に到達する。そして、サードがボールをリリースする瞬間、加速した。
ボールは一塁に送られ、アウト。捕球してすぐファーストはホームに投げる。
なるべく遠くにスライディングし、手を目一杯伸ばして、ホームベースに掠めようとする。
同時に、ファーストから来たボールがキャッチャーのミットに収まり、俺の手にタッチしようとする。
クロスプレー。どっちが早かった?
判定は・・・セーフ。追加点だ。
ベンチは盛り上がる。そのベンチに帰っていく。
「神谷、凄かったな!何が起きたのか一瞬分からなかったぞ!」
皆からめちゃくちゃに褒め称えられる。
ふと、ピッチャーの方を見ると、悔しさでかなり苛立っているようだ。
仲間が何とか励ましている。
続く後藤さん、武藤さんは三振にねじ伏せられる。
しかし、大きな1点が入った。点差もまだある。このまま逃げ切ってやるぞ!