春、夢と希望の入学
「オッケードンマイドンマイ!まず一つ取ろう!」
後ろから声がする。
「まだいけるまだいける!諦めないで行こう!」
ベンチから、スタンドから、どんどん声がかけられる。
この場所が他よりも少し高いからだろうか?いやというほど声が自分に降り注ぐ。
「さあ、しまっていくぞ!」
止まない声、降り続ける声、もう嫌だ。
だって、続けても続けても光景は変わらない。むしろ悪化する一方だ。
もう嫌だ、投げ出したい、全てを。
その思いも込めて、目の前に全力で腕を振って投げつける。
・・・しかし、その直後、鋭い金属音が自分を襲う。
その時思う、ここは地獄なんだ、と。
グラウンドの上で大勢の人が整列している。
自分の後ろを見ると皆俯いている。しかし、自分はそれより地獄からの解放感から放心状態だった。
しかし、その瞬間を思い出そうとすると、鳥肌が立つ。
そして思う。二度とあんな思いはしたくはないと。
だが同時に、それ以上に思うことがあった。
もう二度とあんな思いはさせたくない、と。
桜舞う季節、希望を胸に校門をくぐる。
そんなにこの学校に来たかった、というわけではない。ただ家から近かった、それだけだ。中学校なんてそんなもんだろう。
広い体育館での話も、狭い教室での話も、ろくに聞いてはいなかった。
ただ、この話が終わった後が楽しみだった。
退屈な時間は過ぎ、皆教室を出る。同じ学校出身の人も多いのだろう。それぞれ誰かと親しげに帰っていく。
自分にもそういう友人がいないというわけでもないが、それ以上に今はやるべきことがあった。
そうして、グラウンドに着いた。
なんだかんだ県内では広い学校なので、グラウンドは広い、かつ複数ある。
特に、サッカー部やラグビー部は強いらしく、広々とグラウンドを使っている。
だが、行きたいのはそこじゃない。
さらに先を行き、目的地に着く。ここは硬式野球部。
人数はかなり少ない。ちょっと前は強かったとも聞くが、今はかなり弱いと聞く。
野球で中学を決めることもおかしくはないこの時代、クラブの顧問に他の学校を勧められたが、俺にはここで良かった。
「すみませーん」
練習準備をする部員に声をかける。
「こんにちは!入部希望の神谷守です!よろしくおねがいします!」