表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/76

9話 薬師堂にて その後

 ローランからお金を受け取り、しばらく浮かれていた菜摘だったが、サマンサが来るまで、薬師堂から退室出来ないことを思い出し途方に暮れていた。椅子に座っていても落ち着かずそわそわしていた。

 なぜかといえば、数刻前にローランに手を握られ動揺してしまったからだ。

 年甲斐もなくと言わないで欲しい。故に二人きりでいることに緊張していたのだ。


 ローランはというと何事も無かったように、買い取った薬草を選別していた。

 鮮度の良いうちに出来るだけの事はしておくそうだ。

「姉はもうすぐ来ると思いますよ!」

 そわそわしているのに気づいたのか、ローランは菜摘にそう言った。


 しばらくすると、サマンサが菜摘を迎えにやってきた。

「やあ姉さん。時間通りだね。こちらの用事は済んだから、菜摘さんのこと頼んでいい?」

 と、出迎えに気が付いたローランは、作業を中断して声をかける。


「もちろんさローラン。今日は菜摘が世話になったね。次も是非お願いするよ!」

 菜摘を手招きしながらローランへそう言うと、サマンサは外へ出て行った。


 菜摘は後に続こうと、椅子から立ち上がりローランへ軽く会釈した。

 歩き出そうと背中を向けた瞬間、「ちょっと待って」という声が聞こえ、ローランに肩をつかまれていた。菜摘の心拍数は再び上昇した。


 全く気にしていないローランは、 

「菜摘さん。今日は本当にありがとうございました。いつでもお待ちしていますので、薬草を売りにまた来てくださいね」

 と言って、止めのウインクを送ってよこした。菜摘は少しよろめきながら外へ出るのであった。


「菜摘ちゃん。顔が赤いけど大丈夫かい? 気分が悪いなら言っておくれよ?」

 外で待っていたサマンサは、菜摘が顔を赤くして出てきたのを見て体調を心配していた。

 

 サマンサさん。原因はお宅の弟さんですよ! 菜摘は声を大にして言いたかった。


 ご存知の通り、私結婚してますけど、恋愛経験なんて旦那が初めてで、無いに等しいから、いきなり手を握ったり、帰り際にウインク飛ばしてくるローランさんに、顔から火が出るウブな反応をして、めちゃくちゃ恥ずかしいんです!穴があったら入りたい……等と、思いのたけをぶつけようかと思ったが、失笑されてしまうのも嫌だったので、言葉を呑み込んだ。

 

 顔はやや引きつりはしたが、心配するサマンサへ、菜摘は体調は問題ない事を伝えた。


 二人はとりあえず、サマンサの自宅へ向かって歩きだした。

 道すがら、薬草に対するローランの反応が面白かった事や、薬草の情報が知れたことを話した。

 思った以上に良い取引が出来たのは、サマンサのおかげだと菜摘は感謝の言葉を伝えた。

「それなら良かったよ。紹介した甲斐があったというもんさね」

 サマンサはそう言って、ニカッと笑った。

 ほどなくしてサマンサの自宅に着いたが、二人はもう少し話しをしようとティータイムと洒落込んだ。


…………………… 


 サマンサさんの家族について少し話そうと思う。

 サマンサさん家は、四人家族だそうだ。男の子と女の子が一人ずつで、ご主人の名前はレオンさん。

 私はまだ他の三人には機会が無くて会ったことはない。ご主人のレオンさんは、城勤めをしているとのことで、普段は自宅から通っているそうだが、ここ最近頻発している事件のことで、連日お城に泊まりこんでいるそうだ。

 男の子はジョン君十一歳。女の子はマギーちゃん五歳。二人とも、今日は隣町のお婆ちゃん家に出掛けているとの事だ。夕食時には戻ってくるらしい。


 それにしてもお城かー。きっと素敵なんだろうな!いつか見に行ってみたいな。いや。絶対行こう。

 私は、写真やネットで観たヨーロッパのお城を思い浮かべた。

 海外なんて生まれてこのかた行ったことないから、ここで体験できるかも知れないなんて!素敵すぎる。

 ここでのやりたいことリストに追加決定だ!


 サマンサさんは、その事件の絡みで、市場に出回る薬草が品薄になっていることも教えてくれた。

 薬師堂のローランさんも、そんな風なことぼやいていたことを私は思い出していた。


 それじゃ、私が今日持ってきたのは()()()()()()()()()だったんですね。


「そうさね ローランも売って貰えて助かったはずだよ」

 サマンサさんも納得して頷く。

 菜摘の脳内では、自宅裏庭で生え放題の、雑草いや薬草達が黄金に輝く、金の山に変換されていた。

 瞳には¥が浮かんでいたに違いない。


 これひょっとすると、今が売りどきってやつじゃないかしら。菜摘は素人考えながら、高値で売れそうな予感がしていた。薬師堂で高値で売れたのも、きっと市場が品薄傾向だったおかげかも知れない。

 また摘んでこなきゃなと菜摘は思った。

 

 日も翳ってきて、そろそろサマンサは夕食の支度をするとのことで、菜摘はそうそうにお暇した。

 夕食を一緒にどうかと誘ってもらったが、丁重にお断りして、クイーツ村のお薦め宿を教えてもらった。

 菜摘はその宿へ行ってみる事にした。


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ