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6話 薬師堂のローラン2

「私も実物を見るのは初めてですよ」

「それに瑞々しくてどれも状態がいいですね」


 菜摘にそう話しかけながら、ローランはヤブカンゾウにルーペをあてていた。

 しきリにこれがあの薬のもとか……とか、含有量はあーだこーだとか……興奮しきりである。


 ローランの予想以上の熱心さに菜摘は思わず、

「ローランさん それってそんなに珍しいものなんですか」

 と声をかけていた。


 自宅の裏庭に自生していたものを、摘んできただけの菜摘には、その辺に生えてる雑草の一種ぐらいの感覚だった。


「何言ってるんですか菜摘さん」

「これはとても貴重なものなんですよ」

「過去の文献でしかお目にかかれない、回復薬の元になる薬草です」


 堰を切ったように話しかけてくるローランに少し引きながら、

「そそっ そうなんですか」

 と一言だけ返すのがやっとの菜摘だった。


 聞けばこの国では、大昔に乱獲されて今や絶滅寸前の薬草とのことらしく、絶滅寸前とはいえ今では存在しているのかさえ怪しいらしい。

 自生場所が確認出来ていない事からすでに絶滅しているのかもしれないのだそうだ。


「ところで菜摘さんは、これをどちらで入手……」

 言いかけてローランはしまったという顔をしながら、

「入手先については()()()でしたね ! 失礼しました」

 と言ってそれ以上詮索するのをやめてくれた。


 菜摘に薬師堂の話をしてくれたサマンサから、釘を刺されていることがあった。

 ヤブカンゾウとカラスノエンドウについては、この辺では見かけないものだから入手先は絶対に明かさないこと。そこんところを念押しされていたのを思い出していた。


 ほどなくして、ローランはカラスノエンドウの確認を終え顔を上げた。

 菜摘の方へ向き直ると、ローランはおもむろに菜摘の両手をとリ、大きな手で包みこんだ。


「はっぇー」

 菜摘はあまりに唐突すぎて、手を振りほどくことが出来ずに間抜けな声を出してしまった。


 ローランはお構いなしに菜摘をじっと見据えて、

「菜摘さん どちらも大変貴重な薬草です」

 と熱に浮かされたような瞳で菜摘に語りかける。


 コクコクと頭を縦に振る菜摘。

 頷きながら、菜摘は自分の顔がかーと火照って赤くなって行くのが分かった。

 ローランの手に包まれている手も徐々に汗ばんで行く。


 何何 ! このやばい状況は……。自分がローランに反応している事にも焦ってしまう菜摘だった。


「このようなものを 当店に売っていただけるとのことで、よろしいでしょうか」

 イケてる眼鏡男子に囁かれ見つめられる菜摘。


 ローランさん。そんなに私を見つめないで……。菜摘の心拍数が徐々に早くなる。


 ついて行けない展開に困惑する菜摘だったが、

「ええローランさん 。お売りしますから 、そろそろ手を離してもらっていいですか」


 菜摘は努めて冷静に、心臓がバクバクしてるなんて悟られまいと早口に言葉を返した。


「あっ これは失礼 感極まってつい」

 ローランは全く悪びれる様子もなく、ハハハと苦笑いして頭を掻いた。


「姉には聞いていたのですが、人様の奥さんに対して軽々しくやっていい事ではありませんね」

「初対面の女性に対してもダメですよローランさん」


 菜摘は、何とか一声ローランへ抗議めいたことが言えた。


「いやー。ちょこんと隣に座っている菜摘さんの様子が何だか可愛らしくてつい……。菜摘さんがいけないんですよ」


 それに対してローランはまさかの発言。逆ギレである。


 何言っちゃてるの この人は!

 顔の赤みがまだ戻らない菜摘だったが、ここは速やかに退室しょうと、ローランに売却価格を確認した。


「お金を準備してきますので、少しお待ち下さい」

 そう言い残してローランは奥の部屋へ引っ込むと、袋を手にして戻ってきた。


「買取価格をお持ちしましたが、念のためご確認下さい」

 菜摘は袋を受け取ると、テーブルに中身を広げ、数を確認した。


「はい、たしかに約束通りの金額で合ってました」


 端数も引き取ってくれることになり、大金貨三枚、金貨一枚になった。

 日本円に換算すると三十一万円になった。およそ給料二ヶ月分を数時間で手にしたのだった。


 菜摘は手放しで喜ぶのだった。



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